90 雪辱を果たす
まずはシェリアをアオバ達に紹介する為、二人が下宿している宿屋へ行こうとするとタイミング良く二人が冒険者ギルドへ入ってきた。
「あ~マジ疲れたぁ」
「ちょっとアオバ、ご飯よりクエストの報告が先でしょ」
「いいじゃんよ~、俺もう限界ぃ」
「まったくもう」
アオバの奴、クエストで苦戦でもしたのか革鎧のあちこちに深い傷があり、魔物の返り血でかなり汚れている。ルリの方もアオバほどじゃないが着ている法衣も傷み、土汚れが目立つ。
二人とも疲労が溜まっているのか足取りが重い。
「アオバ。ちょっといいか」
「あ? 何か用か。メシ食ってからでいい?」
「構わないよ。手が空いたらギルドマスターの所へ行ってくれ。メンバー募集の件で紹介したい奴がいるってさ」
「お! やっと来たかぁ。ようやくルリのお小言から解放されるぜ」
どうやら以前からメンバーを増やす事を急かされていたようだ。
それと言うのも魔物と戦闘になるとアオバがルリとの連携を無視して敵に突っ込んでいく事が多く、その所為でルリが孤立し他の魔物に狙われてピンチになると慌ててアオバがフォローに入るって事を繰り返しているらしい。ルリからキツく注意を受けているようだが、攻撃重視の性分なのか戦闘になると自分勝手になるらしい。
アオバが勇者候補で王国から期待された存在でなければ、ルリも愛想を尽かしているのではないだろうかと思う。
「あれ? イオリさん、どうかしたの」
「喜べ、ルリ! 募集してたパーティーメンバーがようやく来たってよ!」
「え? でも、さっき受け付けで何も言われなかったけど……」
「ついさっきの話しだからな。ギルドマスターの執務室で待ってるから手が空いたら」
「ギルドマスターのっ!? 大変、急いで行くわよアオバ!」
「え、メシ食ってから……」
有無を言わさずアオバの腕を引っ張って行った。ルリも苦労してたみたいだから新しいメンバーを待ち望んでいたようだ。
用事も済んだし新しいクエストでも探すか。
魔物討伐のクエストより希少素材の採取の方が良いかな。ゴーレムの改良も兼ねて、どこかで再調整しようかな。
色々と思索しながら何気なくクエストボードを眺めているとちょっと困り顔のアーリが声を掛けてきた。
「イオリさん、ちょっと力を貸してくれませんか」
「どうした、アーリ」
「アオバさん達が模擬戦を希望していまして、その相手にイオリさんを指名しているんです」
模擬戦?
「聞いたらさ、試験でシェリアを落とした試験官がイオリのおっさんだって言うからさ。だからちょっとやり返してやろうぜって思ったんだよ」
「ち、ちょっと待ってくれアオバ。試験は途中で中止になったんだし、例え最後まで続けていても失格になっていたのは私だって理解している、その事で試験官に逆恨みなんてしていないぞ!」
「そうよ、アオバ。アンタ、自分が負けっぱなしだからって変にシェリアさんを巻き込むんじゃないわよ」
ギルドの訓練場に立つアオバ、ルリ、シェリアの三人。オスタやラーナ、マルキス伯爵と従者も訓練場の端で見学している。
アオバ達とシェリアはとりあえずパーティーを組む事にしたようだが外に出る前に一度、模擬戦をしてみようという話しになってそこでアオバが指名したのが、俺ってわけだ。
あの野郎、この間の負けを気にしてやがったか。
「頑張ってぇ、シェリア!」
「お前の本当の実力を見せてやれ!」
外野からラーナとオスタの声援が飛ぶ中、その横でマルキス伯爵が難しい顔をしている。
若干、過保護な彼は妹の実力を知らないらしい。もしかしたら本心では妹に冒険者など勤まらないのではないかと思っているのかもな。
「そんじゃ模擬戦のルールを説明すんぞ」
審判役はギルドマスターがやるようだ。
アオバ達三人と俺一人の模擬戦。さすがに不利過ぎん?
てな事を思っていたら、俺に支援魔法を掛けてから始めるようだ。一応、それでバランスを取るって事だな。
「アオバ組は一人でも有効打を一本入れられたら負け、イオリは二本入れられたら負けだ。一応、言っておくがやり過ぎんなよ」
ギルドマスターが下がり、試合開始を告げた。
「うおりゃあぁ!」
開始と同時にアオバが突っ込んでくる。後ろでルリが苦い顔をしているぞ。
後衛の二人を守る為に俺に張り付いて、二人から距離を取ろうというのは分かるが少々雑だな。
アオバが攻めるのに合わせて俺も後退する。
種族『人間 伊織 奏』 『』
職業『剣士』 『錬金術士』
『土よ、形状を変えろ 変形態・液体』
アオバの踏み込んだ足下の地面が底無し沼のようにドロドロになり、アオバは膝下まで沈み込んだ。
「あ、あれ? やべっ!」
体勢が崩れ無様に隙を見せたアオバの脳天に木剣を叩き込んでやろうと振り上げたが、シェリアの放った牽制の岩石弾が邪魔をする。
「ちぃっ!」
『力を与えよ 剛力』
岩石弾を躱している隙にルリの支援魔法でアオバが泥の中から抜け出そうとする。
種族『人間 伊織 奏』 『』
職業『剣士』 『魔法使い』
『火よ、切り裂く刃となれ 火炎回転刃!』
『巨大壁!』
アオバを狙った業火の攻撃をシェリアの防壁が阻む。ダンジョンでの戦闘よりよっぽど良い感じじゃないか。吹っ切れたのかな?
『魔波刃!』
目の前の岩壁を切り裂き、攻め込む。
すでに泥から抜けたアオバがルリの支援魔法で加速し、一気に背後に回ってくる。
「食らえぇ!」
『限界を越えろ 加速・暴走』
背後に回る事を予測出来たので、アオバにさらに支援魔法を掛けた。すでに速度を増しているアオバの身体に、過剰な速度特化魔法が加わる。
結果、一瞬にしてアオバがゴム球のように訓練場を縦横無尽に跳ね回り続けた。
「アオバ!」
咄嗟にルリの意識が暴れまわるアオバに向かい、俺を前にして致命的な隙を見せた。
「終わりだ」
「させない!」
ルリの肩目掛けて振り下ろした木剣をシェリアの魔法障壁が阻む。
「ちぃ『魔波刃!』」
剣士スキルの『魔波刃』で魔法障壁にヒビが入り、砕け散る寸前。
「ふぅ……『魔力弾!』」
至近距離から放つルリの魔力弾が命中し、先に一本取られてしまった。




