89 パーティーメンバー
アケルの街に戻ると何故か城門前でアーリが待ち構えていた。
「どうしたアーリ、街の外にいるなんて珍しいな。何か用でもあるのか?」
「あるのか、じゃ無いですよ! ギルドが手紙を付けて飛ばした追跡鷹が何も持たずに戻ってきたから其方に何かあったのではないかと心配していたんですよ!」
そういえば鷹が持ってきた手紙には返事を持たせるようにって書いてあったな。とはいえ、火にかけられていた鷹を助けたらすぐに逃げていったから返事を持たせる事が出来なかったんだよな。不可抗力。
「悪い悪い。ちょっと手違いで鷹に逃げられてな」
「はぁ……まぁ、こうして無事に戻ってきたので良しとしましょう。それより至急ギルドへ来て下さい、ノスターフ伯爵様がお待ちです」
ノスターフ伯爵、つまりシェリアの家族か。
シェリア達を連れてギルドマスターの執務室に通されるとそこに若い男と壮年の男がいた。
見たところ主人と使用人って感じだな。ソファに座っている若い方はシェリアより少し年上だから兄か、その後ろに立っている方は使用人かな。
俺の後に続いて部屋に入ってきたシェリアがソファに座る男を見て一瞬動揺した。
伯爵の方もシェリアやオスタ、ラーナの姿を確認して安堵したように息を吐いた。
「お待たせしました。此方はシェリアさんのご家族のマルキス・ノスターフ伯爵様と従者のラダン様です」
「いつ兄上が家を継いだのですか。一体、何が……」
「かなり不味い事になってな。お前も知っての通り、父上はお前の冒険者登録と昇格試験の参加には強く反対していて試験を妨害する為に色々と動いていたんだが……思い通りに行かない事に焦ったのか、一線を越えてしまった。その代償として父上は隠居を命じられ屋敷に軟禁される事となり、私が家を継いだ。それとお前にはすまないと思うが身の安全を最優先に考えて、試験を中止させて貰った」
「身の安全……何かしらの実力行使に出ようとしたわけですか。それも非合法な手段で」
シェリアが咎めるような目で兄を睨む。
「ああ、その所為で国王の耳にも悪意ある噂が届いてな。何とか弁明する事は出来たが、我が家の降爵は避けられん」
「そうですか……」
これはずいぶんと追い詰められているんじゃないかな。王都貴族、それも国家の中枢に影響力を持つ貴族ともなればさぞかし敵も多い事だろう。そんな奴ら相手に弱味を見せれば根こそぎ食い尽くされる筈。
伯爵は家格が下がるって言ってるけど、下手したらもっと悪い状況になるかも知れないな。
「では一応、報告を聞こうか。内容によっては対応を考えんといかんからな」
ギルドマスターからそう言われ、ダンジョンに突入してから倒した魔物、移動中の行動、戦闘時の様子などを口頭で説明した。
そして五階層で戦闘不能になり、そこで試験中止の知らせが来た事を話すとギルドマスターは少し考え込む。
「ふむ……そうか、五階層で力尽きたか。ずいぶんと無理をしたな、その内容だと試験を続行させていたとしても合格は難しかったな」
やはりギルド側の判断は不合格か。やり直しも無しかな。
それだとちょっと不憫だし、少し助け舟を出すか。
「まだまだ経験不足な面は見られるが能力自体はとても高いと思う。それに試験が続行していたら合格の可能性も低いとはいえゼロでは無いだろ? 途中で試験が中止になったのは彼女達の所為では無いんだし、せめて追加でテストの一つでも設けてはやれないのか」
「そうは言ってもな、Dランクの試験は……」
「あ、あの!」
それまで黙っていたシェリアが強引に話しに割り込んできた。
「ん? 何だ」
「折角のご厚意ではありますが、Dランク昇給試験はこのまま不合格で構いません。試験官に能力を認めて貰った事には感謝しますが、私も今の自分がDランクに相応しいとは思えませんから」
確認の為にシェリアの横に座るラーナやオスタにも視線を送ると、二人とも納得しているのか頷き返した。
「そうか。当の本人がそう言うなら、外野がとやかく言う事じゃないな」
「それとは別に、ギルドマスターにお願いがあります! 私に冒険者登録試験を受けさせて下さい」
「それはこのパーティーでって事か?」
「いえ、私一人です」
シェリアは決意を込めてギルドマスターに願い出た。
この事に慌てたのは、同じパーティーの二人ではなく兄のマルキスだった。
「ちょっと待てシェリア、いきなり何を言うんだ。冒険者登録なら何もここでしなくても王都に戻ってからすればいいじゃないか。それに父上が隠居した以上、お前を無理に家に戻そうとは思っていない。だから学園に残って卒業までゆっくり学べばいい」
「兄上、私は冒険者として名を上げていきたいんです。治安の良い王都では必ずしも実力が重視されるとは限りません。それに今回、学園の推し進めていた計画に泥を塗る結果となってしまいました。卒業後の進路で学園の協力は得られないでしょうから今のうちにここで鍛えていきたいんです」
「それにしたって……お前一人だけでか? ノバルディ家の二人はどうするんだ」
「二人は今回、無理を言って協力してもらいました。卒業後、二人は家に戻るのですからここに残るのは私一人です」
「そんな! 一人でなんて無茶なっ!」
「別に一人で活動する冒険者なんて珍しくもありません! 過保護はやめて下さい!」
徐々にヒートアップしていく兄妹をラーナが宥める。
「まあまあ、落ち着いて二人とも。あのねシェリア、私もお兄さんの気持ちが分かるよ。いくら一人で活動する冒険者がいると言っても、ソロとパーティーじゃ危険度も活動の幅も違うじゃない。せめて誰かとパーティーを組んでから冒険者登録した方が良いんじゃない?」
そうだな。腕の良い魔法使いならすぐにパーティーが見つかりそうだが、問題は相性だな。
この辺りの冒険者はそこまで上昇志向が強いわけじゃないから名を上げたいシェリアをもて余すかもしれないな。
「そうだぞ。せめてパーティーを組んでもらわなくては、とてもじゃないが安心して王都に帰れん」
兄のマルキスもこの先、崖っぷちに立たされた家を守っていく為に、王家への貢献やら王都の貴族連中との付き合いで忙しくなり妹の事まで手が回らなくなるだろう。
そんな時、ポツリとギルドマスターが呟いた。
「そういや剣士と僧侶のパーティーがメンバー募集してたな」
ギルドマスターの一言にシェリアが食いついた。
「え? 本当ですか! ぜひ紹介して下さい」
「そうだな。試験を中止した詫びに顔合わせくらいは面倒を見てやろう。上手くパーティーを組めるかどうかは保証せんがな」
剣士と僧侶。それってアオバとルリの事かな。
剣士と僧侶と魔法使いか、確かにバランスが良いパーティーになりそうだが問題は相性か。