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千変万化!  作者: 守山じゅういち
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八十五 一方、その頃

 アケルの冒険者ギルドの前に一台の馬車が停車し、中から従者を連れた身形の良い青年が降りてきた。

 一見して貴族家の者と分かる青年がギルドへと入っていく。社会的地位の高い貴族が庶民の集まる街のギルドにわざわざ足を運ぶのは珍しい。

 重い足取りで歩く青年の表情は暗く、疲労が蓄積しているのか顔色も良くない。

 それでも体調を顧みる余裕も無いのか、従者と共にギルド職員に詰めよった。

「すまない、私はアーク王国のマルキス・ノスターフ伯爵だ。大至急、ここのギルドマスターに取り次いで貰いたい!」

「は? は、伯爵様、ですか? えっと今、ギルドマスターですか……」

 焦るマルキス・ノスターフの圧に思わず怯む職員。

 一分一秒を惜しむマルキスは苛立ちを抑えきれず声を荒らげた。

「ギルドマスターだ! トゥラ・マスはいないのかと聞いているんだ!」

「落ち着いて下さい、マルキス様。焦っても仕方ありません」

 従者に窘められ、我に返ったマルキスがばつが悪そうに職員から少し距離を取り。

「し、失礼した。ギルドマスターのトゥラ殿にお会いしたい。人命が懸かっているのだ、直ちに……」

「何の騒ぎだ、騒々しい」

 ちょうど近くを通りかかったトゥラが顔を見せた。

「あ、ギルドマスター。此方の方が」

「お初にお目にかかる。私はマルキス・ノスターフ伯爵だ。ギルドマスターであるならば、多少の事情をご存知でしょう」

「ノスターフ……それで、件のノスターフ伯爵様がこんな場所に何のご用で?」

 トゥラが訪問の理由を尋ねても、言い難い事なのか周りの目を気にした。

「……場所を移しましょうか」



 ギルドマスターの執務室にマルキスと従者、トゥラの他に数名の幹部が集まった。

「話をする前に一つ確認させて貰いたい。貴方は先ほどノスターフ伯爵と名乗りましたが、自分の記憶違いでなければ当代のノスターフ伯爵はもっとご高齢ではなかったか?」

 トゥラが事前に調べていた情報との違いを確認すると、マルキスの後ろに控えていた従者の男が答えた。

「それに関しましては私の方から……私はノスターフ家に仕えるラダンと申します。まずギルドマスターの質問ですが、目の前にいらっしゃるマルキス様は先代より伯爵位をお継ぎなり、王家にも正式に認められたノスターフ伯爵で間違いありません。次に急な代替わりとギルド訪問の理由ですが……」

 ラダンは一通の手紙を取り出し、トゥラに差し出した。その手紙を受け取ったトゥラが封蝋の紋章を見て一瞬戸惑った。

「王家の紋章……開封しても?」

「どうぞ。手紙の内容については事前に口頭で聞いております」

 ペーパーナイフで慎重に封蝋を剥がし、中の手紙を読む。

「……ふむ、マルキス・ノスターフ伯爵様に協力し事態収拾にあたるように、か」

「はい。事の始まりは先代のオッドル様がお嬢様のシェリア様を国立のエブリスタ学園に入学させ、時間をかけて有能な学友達をノスターフ伯爵家に勧誘するという計画でした。貴族籍の方々は無理でも一般庶民ならば何の問題も無い事なので」

 貴族家にとって有能な人材の確保は重要な課題である。しかし、貴族家の求める能力を持った人材など、待っていても得る事など出来ない。そこで国力増強と発展を目的としたエブリスタ学園が王国によって設立されたのだ。

 ノスターフ伯爵家がそういった目的でシェリアを送り込んだように、他の貴族家も同じように動いていた。

 そんな中、シェリアからは芳しくない報告が上がり焦った先代伯爵オッドルとシェリアの間で軋轢が生まれ、次第にシェリアは実家と距離を置くようになっていった。

「その為、先代はお嬢様を見限り卒業前に実家に戻して有力貴族との婚約を図りました」

 しかしシェリアは実家からの指示を無視し続けた。

 指示を無視した事で実家からの援助が切られた後は、学費免除を条件に学園が提示した冒険者ギルドの昇格試験を受ける事となった。

 徹底して逆らうシェリアに業を煮やしたオッドルはシェリアの試験失敗を画策し、遂には暗殺ギルドを使ってしまった。

「苛立った先代は周囲の貴族を甘く見て浅慮な行いをしてしまいました。気づいた時には『ノスターフ家による国王暗殺計画』なるものが噂され……」

 根も葉も無い、荒唐無稽なデマであると否定したくても暗殺ギルドを利用した事は事実である為、噂を完全に否定し切れなかった。

「結果、国王を始め重臣の方々から激しく詰問され、ノスターフ家の取り潰しも検討されましたが、代替わりと事態の迅速な終息を条件に取り潰しは回避されました」

「もし暗殺ギルドの刺客が試験に参加している妹だけでなく、無関係なノバルディ家の双子や試験を担当する冒険者に危害を加えてしまった場合……我が家は、終わる」

 絶望感で項垂れ、力無く呟くマルキスはトゥラに頭を下げ。

「頼む、この通りだ! 試験を即刻中止し、生徒達を保護して欲しい!」

「うむ、そういう事なら此方も協力しよう。しかし、以前から妨害には警戒したいたが……暗殺ギルドとは」

「試験を中止するにしても、どうしますかギルドマスター。すでに出発して一日経っています。今からダンジョンに向かっても……」

「後始末等を考えれば襲撃が予想されるのはダンジョン内でしょう。試験官の彼ならば必ずしも遅れを取るとは限らないのでは?」

「その試験官とは? Aランクの冒険者ですか?」

 従者のラダンが希望を込めて尋ねた。

「いいや、違う。だが器用な奴でな、難題なクエストでもこなせる凄腕だ」

 トゥラは自信を持って推すが、遠く離れた王都の貴族であるマルキスやラダンには地方の無名な冒険者の実力など然程も期待出来ず、不安が拭えなかった。

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