84 魔法使いの戦い方
ヘルモンドの魂に隷属魔法を仕掛けようとしたが失敗した。ドニ同様、すでに魂に魔法が掛かっていた。暗殺ギルドに所属する者は情報を徹底して守るようだ。
隷属魔法の上書きには失敗したが二つの魔法の反発でヘルモンドの頭が一時的にクルクルパーになった。
普通の魔法では駄目か。なら城主吸血鬼のスキル『魂魄支配』なら上書き出来るかな?
種族『怨霊』 『城主吸血鬼』
職業『呪術士』 『召喚術士』
『さて、と『お前の目的を……』』
魂魄支配が掛かると白目を剥いていたヘルモンドの身体が一瞬反応し、ゆっくりと立ち上がった。
まだ意識は回復していない筈なのに……
「誰ダ、コイツヲ操ロウトスルノハ?」
虚ろな表情のヘルモンドの口から別人の声が漏れる。
『これは……遠隔操作か』
ヘルモンドに掛けられた隷属魔法を通じて離れた場所にいる主人が話し掛けているのか。
「マサカユニークスキル持チガ負ケルトハ……人外ガ相手デモ問題無イト思ッテイタンダガ」
『未熟者には過ぎたスキルだったな。隷属魔法の遠隔操作では喋るくらいしか出来まい。大人しくソイツを渡して貰おうか』
「明確ナ意思ヲ持ツアンデッドヨ、悪イガコイツハ貴重ナ手駒ダ……コノ仕事デ失ウニハ惜シイスキルナンダヨ。オ前ノ狙イハナンダ? コノ仕事ヲ邪魔スル事ナラ、俺達ハ手ヲ引ク」
手を引くだと? 暗殺ギルドってそんな簡単に仕事を諦めていいのか?
『そんな簡単に言っていいのか? すでに仲間の一人は死んだぞ』
「妙ナ事ヲ気ニスル奴ダナ。死ンダノハ、従魔士ノドニカ? マア、仕方ナイ。アノオ嬢サンニハ、想定以上ノ護衛ガツイテイタヨウダナ」
ぎこちない動きで懐から一枚の羽根を取り出した。空間転移のアイテムだ。
「今回ハ此方ノ負ケダ。依頼人モ既ニソレドコロジャナイダロウシナ」
『どういう意味だ?』
「クックック、馬鹿ナ貴族ガ不用意ニ暗殺ギルドト関ワッタ所為デ政敵ニ付ケ込マレタノサ。今頃ハ火消シニ追ワレテ必死ニ此方トノ関係ヲ隠ソウトシテイルダロウ。ソノ分、口止メ料ハタッブリト頂クガナ」
ノスターフ家でトラブルか。暗殺ギルドに依頼した事を敵対する貴族に察知されて、追い落としの口実に使われてんのか。
多分、かなり誇張された噂でも流されたんじゃないかねぇ。ノスターフ家も暗殺ギルドを使った事実があるだけに否定し切れず、四苦八苦しているのか。
「ソンナ訳デ、依頼ヲ達成サセテ依頼人ノ首ヲ更ニ締メルノモ面白イガ、無理ヲシテ自棄ニナラレテモ困ルカラナ。失敗シタ以上、ココデ足掻クノハ得策デハナインダヨ」
なるほど、暗殺ギルド側からすると依頼失敗の痛手と金を天秤に掛けた時、貴重なユニークスキル持ちを失う前に手を引くのが最適なタイミングと判断したのか。
なら此方も手を引こう。
『良いだろう。納得した』
「ジャア引キ上ゲサセテ貰オウ……ソウダ、ヨケレバ名前ヲ聞イテモ良イカナ?」
迂闊に名前を知られるのも不味いが、縁を結んでおくのも悪くないかもしれん。
『……レイスだ』
「フフ、流石ニ本名ハ名乗ラヌヨウダナ。良イ心掛ケダナ、ドコゾノ馬鹿貴族ニモ見習ワセタイモノダ。デハナ、レイス殿」
空間転移のアイテムを使用し、ヘルモンドの身体は消えた。
ようやく邪魔者を排除出来たな。
では明日の試験に向けて、先達として一つ贈り物を用意しよう。ふっふっふ、小便チビんなよ?
明くる日、アルロワ遺跡のダンジョン入り口に到着し最終確認をする。
「さぁて、これからダンジョンに潜るわけだが……手持ちのアイテムは確認したか? いざって時に備えて」
「試験官。そんな無駄話は不要です」
「さっさと行こうぜ」
「あ、えっと……だ、大丈夫です」
やれやれ、本当に大丈夫かね? 全員、ローブ姿に長杖といった装備だ。他に武器は持っていないようだ、ナイフの一本くらい持っておいた方がいいのに。
「そんじゃ説明するぞ。試験内容は『地下五階層に到達する』だ。とは言っても到達出来なかったら、即失格って訳じゃない。試験中の行動を観て合否が判断されるので最後まで気を抜かないように」
「ふん、行くわよ二人とも」
生意気な態度とは裏腹に、若干緊張気味の表情でシェリアを先頭にオスタとラーナがダンジョンへ入っていく。
魔法使い三人のパーティーがどんな戦い方をするのかと思ったが意外と堅実な戦い方だった。
一人が障壁を張り二人が近距離攻撃魔法を射ったり、或いは二人が障壁を張り一人が範囲攻撃魔法を放ったりしている。
意外と連携が出来ている。
向かって来る鎧蜘蛛の吐く毒液をオスタが障壁で防ぎ、残った二人が別々の魔法を使っている。
「私は風! ラーナは火を!」
「は、はい!」
シェリアの放った乱気流に、ラーナの紅蓮の炎が混ざりあい効果を高めて鎧蜘蛛を丸焼きにする。
今のところ無傷で進んでいるがやはり魔力の消費が激しい。攻防を交互に入れ替えて魔力の消費が片寄らないようにしているようだが、それだけでは五階層まで保たない。
そして、疲労が蓄積しつつある三人の前に下層への階段を守る青鱗大蛇が立ち塞がる。