80 悪魔剣パルス・バージョン2
さて新しい屋敷の警備用猫妖精を召喚するか。
種族『人間 伊織 奏』 『城主吸血鬼』
職業『召喚術士』 『錬金術士』
大地から魔力を供給する魔方陣と召喚術を刻んだ魔方陣、二重構造の魔方陣を発動させた。
召喚陣から一匹の黒猫が現れた。
「お呼びにより参上致しました。にゃ」
「ご苦労さん。夜間、不審者が忍び込まないように警備を任せたい」
「はっ、お任せ下さい。にゃ」
忍者よろしく素早く姿を消した黒猫。前に召喚した猫妖精より能力が高そうだな。
破損した剣の修復具合を確認する為、肉串焼きを手土産にカルンを訪ねた。
「おう、元気にしてたか」
「ギャーゥ」
すっかり工房に居着いてしまった迷彩大梟が翼と羽毛を広げ、左右にステップを踏んで出迎えてくれた。
「ほれ、肉串食うか」
足と嘴を使って器用に串から肉を外して食っている。なんか手慣れてんな。
「あー! また、勝手に食べてる!」
工房から出てきたカルンが挨拶もそこそこに肉串を取り上げた。
「おい、どうした?」
「最近来る奴、みんな餌を与えるもんだからちょっと太ってきてんだよ」
言われて胴回りを撫でてみると、しっかりとした肉付きだ。これ、飛べるのか?
「ギィー」
「お前、このままじゃまん丸になっちゃうぞ」
「う~ん、これは確かに太り過ぎか」
元々、野生下ではそう簡単に食事にありつけないから常に軽い飢餓状態だったのだろう。それが定期的に餌にありつけるだけでなく、頻繁に追加の肉を食っていては肥えるというもんだ。
「イオリの用は悪魔剣かい? 出来てるよ」
「おぉ早いな……ん? 少し刀身が伸びてる?」
手渡された悪魔剣パルスは以前に比べて刀身が伸び、長さや形状からして短剣のダガーから片刃のファルシオンに近くなったな。
「この悪魔剣パルスは生きた魔剣だ。破損箇所を直すのと同時に成長もしてね。その分、修復するのに予定より材料を消費した」
「そっか……となると支払いは大丈夫か?」
「そっちは大丈夫。前もって渡された両手槌は結構なレア素材だったからね。それより、悪魔剣を抜いてみな」
促されて剣を鞘から抜いてみる。
鞘から引き抜く時に一瞬、静電気が発生したような気がする。
掲げた悪魔剣の黄金の刃からは以前に増して圧を感じる。内包する魔力が上がったか。
軽く橫薙に振るうと、青白い電気を放った。
「へぇ……両手槌の雷属性が移ったか」
「魔力を込めて振ればより強力な電撃を放つよ。ただ命中精度は高くないから使い方には注意して」
「わかった。気ぃつけるわ」
一度、どこかで練習した方がいいな。
街の近く、いつもの森へやってきた。
森の中の少し開けた場所で的にした木から数メートル離れ、悪魔剣パルスを抜き上段に構える。
「とりあえず二割くらいの力で……」
力を込めた事で刃が帯電し、剣を振り下ろすと同時に青白い雷が放たれる。
「ありゃ」
雷が命中したのは的の木より手前の地面、思ったよりズレてしまった。
気を取り直して、もう一度。
「同じくらいの力で……」
再び上段に構え、まっすぐに振り下ろす。
しかし今度は的を通り過ぎて奥の木に命中した。
「はぁ、まいったな。遠距離攻撃としては使えないか」
使うとすれば至近距離の接近戦か、命中率を気にしないほどの集団戦かな。
能力の検証はこの辺で終えて、訓練といこうか。
種族『人間 伊織 奏』 『』
職業『剣士』 『召喚術士』
『さあ、殺し合いだ 召喚・小鬼剣将軍』
いつも呼んでいる小鬼剣将軍ならば簡略化した召喚魔法でも応じてくれる。両手に双剣を握り締め、殺気の漲った小鬼の剣豪が俺の首を狙って斬り掛かってくる。
「ハァッ!」
叩きつけるような振り下ろしの一撃を剣将軍が剣を交差させて防ぐ。
以前ならば交差して防いでからあっという間に弾き返されていたが今回は力が拮抗している。
歯を食いしばりお互いに力を振り絞る。
徐々に俺の剣が押し返されていく。ここで身を引き、相手の体勢を崩す。
がら空きとなった胴体に下から斬り上げる。アオバ辺りならこれで決着がついたかも知れないが、剣将軍は体勢を崩しながらも剣で受け流す。
火花を散らし数度斬り結んでいた剣将軍が距離を取り身体を一段と低く構えた。
その様子に俺は何か仕掛けてくると危機感を感じながらも前に出た。
剣将軍が右手の剣を俺に向けて投擲した。
激しく回転しながら迫る剣の向こうに踏み込んでくる剣将軍がいる。
目の前の飛んでくる剣を大きく避けるか、剣で斬り払うか。
刹那の判断。
俺は回転する剣の柄を掴んで受け止め、反撃する。
予想外の展開に剣将軍が咄嗟に残った剣で片方の剣を受け止めるが、二刀流になった俺のもう一つの剣を受け切れず、防ごうとした腕ごと首を落とした。
血を吹き出し、倒れながら消滅していく剣将軍を見送り。俺は、ようやく連敗記録を止めたのだった。
「……ふぅ、まずは一勝」
進化エネルギーの還元を繰り返し、基礎能力を底上げし続けた結果、ようやく勝利したわけだが結構ギリギリだったな。
剣の性能なら此方に分があるが、純粋な戦闘技術だけだとまだ互角ぐらいか。
種族『人間 伊織 奏』 『』
職業『格闘家』 『召喚術士』
『出てこい 召喚・小鬼剛腕拳士』
背は低いが両腕が異常発達した剛腕拳士がゆっくりと歩いてくる。
手を伸ばせば触れる程の距離まで近づくと。
「ゴアァ!」
「セィヤァ!」
お互いの拳をぶつけて戦いを開始する。