75 夜遊び
冒険者ギルドの次は剣の修復だ。折れてはいないが大きな亀裂が入ってしまったからな。
鍛冶士のカルンの工房に剣を持ち込んだ。
「あららぁ、これはまた……何と戦ったらこうなるんだ? コイツの耐久力は飛び抜けていたのになぁ」
「ちょっと大物相手に盾代わりにしたからな」
「あぁん? 雑な使い方しやがって……直すのに触媒が要るね、何か良い素材は無いかい。出来れば金属系の」
金属……そうだ、金剛角王が使っていた両手槌がある。
アイテムボックスから取り出した両手槌を床に置く。
「おいおい、随分とデカいな……魔物用の武器か」
「剣にヒビを入れた魔物が使ってた槌だ。雷属性の攻撃をしてきたな」
「うん、これなら素材としては十分だよ。で、残りはどうする? 必要な量を取っても結構残るから何か別の物に作り変えるか?」
そうだな。これまでまともな防具を持っていなかったから防具を作ってもらおうかな。
「残る量を考えると、盾か手甲、胸当て辺りが作れそうだ。どれにする?」
「……よし、手甲を作ってもらおうか。攻撃より防御向きで頼む」
「ん、わかった。じゃあ残りは此方で買い取らせてもらおうかな、最近武器の注文が入ってて手頃な素材が欲しかったんだよ」
あとはカルンに任せるしかないんだが、五日後までに直るだろうか。
孤児院の敷地に入るとキャロルが飛んで来た。
「おかーっ!!」
「ぅおっ!」
鳩尾を狙った頭突きを受け止める。
「……元気にしてたか、キャロル」
「してた!」
受け止めた右腕に回復魔法をかけながら孤児院の自室に荷物を置き、敷地の警備をしている猫妖精を呼んだ。
「にゃんですか?」
「最近、怪しい奴はいたか」
「いましたにゃ。でも敷地には侵入しなかったですにゃ」
闇ギルドの奴らかな。
「たぶん今もいますにゃ。ヤっちまいますかにゃ?」
「いや、ヤらなくていい。侵入してきた時も出来るだけ生かして帰せ」
「はいですにゃ」
この辺りは、元貴族の屋敷が並ぶ区域ではあるが今では空き家も多く、身を隠して監視するのには苦労しないだろうな。
敷地の外に出てそれとなく辺りを見回す。
「さて、どこかな」
「あっこ」
何も言わなくても察知したのか、キャロルが指差す方向に監視者がいた。
以前に見た顔だ。此方の思惑通り、監視してくれていたか。
「なぁ、お前達」
「ちっ……気軽に話しかけねぇでくれよ。一応、俺達はアンタを監視してんだぞ」
「そう邪険にするなよ。お前達の仲間から今夜の襲撃を聞いたんだが」
「あぁ、どうやら依頼人が痺れを切らしたみたいでな。さっさとアンタを始末しろって話しになったんだ。クエスト帰りで疲労が抜けてねぇだろうから、今夜襲撃する予定なんだが……」
「そうらしいな。孤児院に迷惑をかけるわけにはいかないから、場所は近くの建設中の屋敷にしてもらうぞ。そこなら夜中は人がいないから気兼ねなく戦えるからな」
「やる気かよ!? 言っておくが此方には賞金首になった冒険者崩れや殺し専門の奴だっているんだぞ! たかがDランクの冒険者なんて相手にならねぇぞ」
ほぉ、それはそれは。
ならば此方も念入りに準備をしておかないとな。
日が沈み、月が夜空高く登った頃。
建設中の新しい屋敷の一画で、甲羅と岩を使って風呂を作っておいた。魔法具の水差しは後日設置するとして、そろそろ出迎えの準備をするかな。
種族『人間 伊織 奏』 『怨霊』
職業『暗殺者』 『魔法使い』
スキル『生命感知』に反応あり。すでに屋敷を囲うように人が配置されている。まだ襲いかかってくる様子は無いが、何かを待っているのだろうか。
遠くからランタンの灯りが近づいてくる。
これ見よがしに武装した物騒な集団がガチャガチャと音を立てて目の前にやって来た。
「ぐぁはっはっは! 逃げずに待っていやがるとは本物の馬鹿か?」
「多少腕が立つからって調子に乗りやがってよぉ……」
「ぶっ殺してやるから覚悟しやがれっ!」
口汚く罵ってくる奴らに合わせて包囲している奴らも動き出した。
「ぃいりゃああぁ!」
「うぅおりゃあぁ!」
目の前の奴らが攻めてくると同時に、背後から短弓の矢が放たれる。
前後からの挟撃、なかなか考えているじゃないか。
本来ならば矢を躱さなくてはいけないが、敢えてそのまま動かなかった。
「馬鹿がっ! 死ね……なっ!?」
俺の身体をすり抜けた矢が男の胸に突き刺さった。
「ば、かな……」
仲間が倒れた事に動揺した男が立ち止まり、一瞬無防備となり視線が外れた。
『風よ、微細な刃となり撫で斬れ 波風刃』
吹き抜ける風が擦れ違いざまに剥き出しの皮膚を斬り刻んでいく。
男達の顔や手から血が吹き出し、辺りに悲鳴が飛び交う。
「くそっ!」
再び矢が放たれるが、またもや俺の身体を通り抜けて別の者に命中する。
「ど、どうなってるんだぁ!」
見た目は普通の人間ではあるが怨霊の特性も併せ持っているので、ただの物理攻撃は効かないんだよ。
顔を押さえて踞る奴らを押し退けて後方にいた奴が前に出てきた。
「おらぁ!」
頭に血が上った男が放つ大振りの剣を躱し、隙だらけの間抜け顔に触れて。
『雷よ、衝撃とともに駆けよ 放電』
爆音が鳴り響き、焼け焦げた男が吹き飛ぶ。
瞬く間に数を減らした事で、襲撃してきた男達の勢いが鈍る。
「さぁ、どうした……まだまだ遊び足りないぞ!」
此方は漸く気分が乗って来たんだ。もう少し付き合ってもらうぞ。




