72 宝箱オープン
頭を失った身体がゆっくりと倒れた。
過剰な破壊力で頭も粉々に吹き飛んだが、金剛石の角だけは残った。ありがたく貰っておこう。
「はぁ、疲れた」
戦いの緊張が解けると急に目眩がした。身体の傷は消えているが精神的疲労はかなり蓄積されていたようだ。
「順番が変わったがダンジョンマスターとコアの破壊は運良く達成出来たな。かなりギリギリだったから、今後はもう少し備えが必要だな……」
一休みして気力が戻った所で金剛角王から魔石を回収する。
「おお……デカい。それに純度も相当だな」
宝石のような輝きを放つ魔石と金剛石の角、それから雷属性の両手槌となかなかの収穫だ。それと。
「いつの間にあったのか」
宝箱が一つ、部屋の隅で発見した。戦闘に巻き込んで破壊せずに済んで良かった。
早速開けたい所なんだけど。
種族『人間 伊織 奏』 『』
職業『商人』 『』
『鑑定』
『宝箱 二重罠設置済み』
『転移罠・宝箱に近付いた者をダンジョンのどこかに転移させる』
『属性罠・宝箱を開けた者には電流が流れる』
よし。誰かに開けさせよう。
種族『人間 伊織 奏』 『』
職業『召喚術士』 『従魔術士』
『宝箱を開ける者よ、来い 召喚・小鬼盗賊』
召喚陣から二体の小鬼盗賊が現れた。
まず、一体目の小鬼に宝箱の近くまで行かせると唐突に姿が消えた。転移罠が発動してダンジョンのどこかに飛ばされたようだ。
魔力が再チャージされるまでは大丈夫だろう。
二体目の小鬼が宝箱に手を掛けると強烈な電流が流れて小鬼の身体を焼いた。
これまた再チャージされるまで罠は発動しない。
安全になった宝箱を開けた。中に幾つかアイテムが入っていた。まずは大きめの花瓶?
「いや……水差しかな?」
商人の鑑定を発動させて情報を見てみると。
『魔法の水差し 発動させると常に一定の水量を保つ。任意で水の温度も変えられる』
ほうほう。試しに使ってみると、確かに水差しの内容量以上の水が延々と出続ける。
時間を掛ければ、狭い部屋くらい水没させる事も出来そうだな。
「……はっ!」
俺は閃いた。双頭獄犬の炎の牙、竜甲大亀の甲羅、魔法の水差し、これらを使えば大きな風呂が作れるんじゃないか?
竜甲大亀は陸亀タイプだし、ひっくり返し返せば大人数人が入れるくらいのサイズだ。魔法の水差しで水を貯め、炎の牙で加熱すれば……
「いけそう。新しい屋敷の端っこにでもスペースを貰って自作してみるか」
次に宝箱から取り出したのは大瓶に入った液体。
『毒酒 この酒自体に毒性は無い。毒を混入させても味や匂いを隠してしまう、毒の効果を倍増させる』
これは酷いアイテムだな。この酒に毒を盛られても気付かないどころか、被害がより増加するのか。売ろう。
細々した金貨や宝石に混じって一冊の本が出てきた。
「これは……魔法書か」
空間系の魔法だな。転移や透過、透視なんかが出来そうだ。金剛角王の転移には痛い目を見たからな、あれが出来るようになれば戦力アップだな。
手に入れた宝をアイテムボックスに入れて、脱出する為に上へと上がった。
ダンジョンコアを破壊した事で襲ってくる魔物もおらず、双頭獄犬に変身して五層のダンジョンを駆け抜けた。
入り口にあった何とか遺跡を出ると外は、星空広がる夜になっていた。
先に外に向かっていた『青炎』達の事を思い出し、匂いを辿ってみると意外と近くにいた。
どうやら移動せずに留まっているようだ。怪我人がいるからあまり急げず、日が暮れたから移動を諦めたのかな。
近くまで行くと人間の姿に変身し、焚き火の周りで暖を取る彼らに声をかけた。
「よぉ、お前達。まだこんな所に居たのか」
皆が一斉に驚いた様子で此方を見た。
「イオリさん! 無事だったか」
「驚いたな、おっさん生きてたのか」
適当に返事をして焚き火の輪に入らせて貰う。
側で横になるセーナとレスティも呼吸は落ち着いている。レスティの方は魔力の使い過ぎた事による失神、セーナの傷も応急手当てとポーションによって持ち直しているようだ。
「無事で良かったよぉ。イオリさんは、どこまで行けたの? ダンジョンマスターを確認する所まで行けたんじゃない?」
「ダンジョンマスターは討伐したし、ダンジョンコアも破壊したよ。それより、俺はこのダンジョンを攻略したあと試験官をやる予定なんだが」
「あぁ、そう聞いているよ。Dランクの試験官で、どこかの学園生徒の試験を担当するんだよな? おまけに生徒の実家と学園側から口を挟まれてるとか……」
口を挟まれてるどころでは無いんだがな。
「このダンジョンの最奥でどちらかの刺客みたいな奴に命を狙われたんだ。このダンジョンに来る事が事前にバレていたようだぞ」
「そうか……情報が漏れたとしたら冒険者ギルド内からだろうな。どちらの勢力にしても試験を優位に進めようと思えば、まず試験官を買収するだろう。ギルドマスターはそれを嫌ってイオリさんを試験官に指名したんだと思う」
「つまり、どちら側からしても言う通りに出来ないおっさんは邪魔だったて事だな。ついでにおっさんを始末したあとの後釜には、自分たちにとって有利な試験官を推薦するつもりだったんじゃねぇか?」
やれやれだよ。この分だと、ダンジョンの最奥にいたあの男とはまたぶつかりそうだな。
次は顔を見た瞬間にヤっちまおう。