表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千変万化!  作者: 守山じゅういち
70/142

70 金剛角王

 種族『人間 伊織 奏』 職業『召喚術士』


 悪いな、身代わりにして。

 召喚した変幻獣(シェイプシフター)を変身させて大猪鬼に誤認させた。案の定、頭に血が上った大猪鬼は煙幕の中で匂いだけを頼りにして、俺の姿に変身した変幻獣を狙って攻撃した。

 大猪鬼の視線は宙を舞う変幻獣を追い、地に伏せた俺に気付いていない。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『剣士』


『魔波刃!』

 大猪鬼の下腹部から肩へと、魔力の刃が貫いた。大猪鬼は相当に腕力は強いが防御力に関してはそれほどでもない。

 体内の魔石は外したが、致命傷だ。倒れるのを堪えようとはしているが、傷口から溢れ出る流血とともに身体を支える力は失われ、やがて膝をつく。

「何してやがる! さっさと奴を殺せと言ってるだろうがっ! この役立たずの木偶の坊が!」

 遠くの方で叫んでいる奴がいるな。そこまで言うなら自分も参戦すればいいのに。

「まったく……デカい図体で、一人始末する事も出来んとは」

 男が何かの魔法を発動させた。何だ、何をした?

「ギィアアァァッ!」

 力尽き、死にかけていた大猪鬼が絶叫した。

 同時に全身の肉が蠢いて鎧が弾け飛び、皮膚を破って筋肉が膨張し身体が肥大化していく。

「お前、何をしたぁ!」

「そこの役立たずに最後のチャンスをやったのさ。言っただろ? ギリギリ制御可能なラインまで強化したと……それでも勝てないなら、制御など無視して強化し続ければ良い。最後には死ぬだろうが、せめてアンタぐらいは巻き添えにして死ねって事だよ」

 肉も骨も砕けては再生を繰り返し、血が吹き出そうが肉が破裂しようがお構い無しに膨張していく。身体のバランスも崩れて右腕の方が異常に巨大化し、狂ったように暴れている。

「うへ、ありゃあ長くはもたねぇな。最期まで付き合う気は無いんでね。あばよ」

 男は懐からアイテムを取り出すと、一瞬で消えた。

 空間移動系の脱出アイテムか。

 男には逃げられたが、今は目の前の大猪鬼に集中しよう。

 膨れ上がった右腕が鱗で覆われると手の平が裂け、そこに目玉が出現した。

 これはただの強化じゃない。

「グゥオオオォォ!」

 大猪鬼の右腕が千切れても、さらに変形していく。

 これは最早、独立した別の魔物だ。

 そうやって大猪鬼から切り離された右腕が、何故か大猪鬼に襲い掛かる。

 この限定的な空間では自分以外の生物は全て敵という事か。それとも同じ血肉の存在を取り込み、さらに強くなろうとしているのか。

 大猪鬼に巻き付き身体を砕こうとしているが、大猪鬼はその怪力で巻き付いた右腕を引き剥がして踏みつけ、両手槌を手の平の目玉に叩き込んだ。

「ゥウオオォオッ!」

 右腕を討伐した大猪鬼の身体がボロボロと崩壊していく。

 命が尽きたのか?

「……いや、違う」

 異常に膨れ上がった無駄な部分だけが削れ落ち、その中から新たな肉体が現れる。

「あれは……大猪鬼じゃ、ない?」

 大猪鬼と同じくらいの大きさだが、放たれる覇気は途轍もない圧だ。

 額には水晶の角から、光輝く金剛石の角へと変わり、全身に魔紋が刻まれている。

「暴走を抑え込んで進化したか……」

 先ほどまでとは打って変わって、静寂の中で目の前の魔物が此方を睨み付けている。

 次は俺の番って事か。

 此方が身構えた瞬間、魔物の姿が消えた。

「……な」

 頭で理解するよりも先に、身体が動いた。

 う。

 え。

 だぁっ!

 咄嗟に身を屈めた。両手槌が頭を掠めた。

 地面を転がってその場を離脱する。

「い、いつの間に……」

「グ、グフフ……コノ、モンショウノチカラ、ダ」

 喋りやがった。進化して知性を持ったか。

「クウカン、テンイノチカラガ、アル。スグニハ、ツカエナイ、ヨウダガ……」

 空間転移の魔紋か、連続使用出来ないのが救いか。

「へ、へえ。進化して良く喋るようになったじゃないか。一体、何に進化したんだ?」

「ワレハ、コンゴウカクオウ、ナリ」

 コンゴウカクオウ? 金剛、カクオウ。金剛角王か。

 なるほど額の角は伊達ではないと。

「それじゃあ金剛角王さんよ、帰りたいんで通らせてもらえるかな?」

「フフ、フ、ココマデキテ、タワケタ、コトヲ」

 金剛角王が笑いながら両手槌をひと振りする。溢れる過剰魔力が放電という形で溢れる。

「ダンジョンデ、マモノト、ニンゲンガ、デアエバコロシアウ。ソレガオキテデ、アロウ」

 もう一度、両手槌を振るう。放たれた雷が地面を撫で、岩を砕く。

「……? ……まさか」

「フフフ、ニンゲンハコレヲ、スキルト、ヨブノダロウ?」

 両手槌を空振る度に放たれる雷が強力になっていく。

 戦士系スキル『終の一撃(ファイナルストライク)』だ。攻撃を空振ると次の攻撃の威力が上がるスキル。

 金剛角王が構える両手槌に強烈な雷が帯電する。

 両手槌に溜まった破壊力は、ダンジョンすらも破壊してしまうかもしれない。

 アレを受けては駄目だ。

「カワサ、ナクテハ、トカンガエテ、イルノカ?」

 此方の心中を言い当てて、金剛角王がニヤリと笑う。

「ムダダ。ハンパニ、ヨケレバ、クルシミガ、ナガビクダケ、ダ」

 あの両手槌、たとえ直撃を避けても余波だけでかなりのダメージがあるのは確かだ。

 いくら防御力の高い魔物に変身しても死は逃れられない。竜甲大亀の甲羅など簡単に砕けるだろう。

 となれば、余波を食らう覚悟で攻めるか。

「……死中に活」

 悪魔剣を構え、突撃する。

「ヨイ、カクゴダ」

 光輝く雷を纏った両手槌が迫る。ギリギリの所で飛び上がり躱す。雷の余波に打たれた痛みをねじ伏せ、金剛角王を捉え……

「!」

 金剛角王が消えた。と同時に横から両手槌が迫る。

 空間転移を使われた。

 最早、止まれない。辛うじて剣を動かすだけ……

 轟音と衝撃が襲い来る。

 意識が、飛ぶ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ