表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千変万化!  作者: 守山じゅういち
67/142

67 竜種

 岩壁に何かがぶつかる音がする。

 衝突音に混じって魔物の唸り声もする。

 興奮して岩を破砕する魔物の低い声、かなりの大物。

「あれか……」

 亀型の魔物がダンジョンの岩壁に空いた小さな穴を目掛けて頭突きをしている。

 どうやら穴の奥に誰かいるらしい。時折悲鳴が聞こえる。あの亀は壁の穴に隠れた人間を狙って、穴を広げようとしているようだ。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『商人』


「鑑定……」

竜甲(ドラゴンシェル)大亀タートル 興奮中』

『硬い甲羅と鱗を持つ亜竜種』

『吐息は吐かないが竜の鱗に匹敵する硬度の甲羅を持つ』

 防御力特化型の魔物か。倒すのは時間が掛かりそうだし、別の獲物を狙ってるみたいだから放っておくか。

「や、やべぇ。よりにもよって亜竜かよ」

「この階層は防御力の高い魔物が多いようだな」

「どうしよう、どうやって助ける?」

 何故か救助しようという意見が出た。

「助ける? 俺は無理せず別の道を選んだ方が良いと思うんだが?」

 ダンジョンで人助けするのもいいが、竜種を相手に出来るのか疑問なんだが。

「イオリさん、確かにダンジョンにおいて自分の命は自分で責任を持つのが基本だ。だが目の前で助けを必要としている者に手を差し伸べるのも大事だ」

「イサンの言う事もわかるが、ダンジョンで助け合うにはお互いの信頼も大事だよな? さっきからお前達は何かを隠している。なのに俺には何も知らせず、ここで無茶な戦闘をさせようというのはフェアじゃ無いだろ」

 イサンは無反応だったがカウカとリンは思いっきり動揺して驚いた顔をしている。何故バレたって顔だ。

 何故あれでバレていないと思えたのかなぁ。

 あれこれ迷っていたイサンも観念して、溜め息を一つつき。

「そうだな……ここまで予定が崩れたら、黙っておく意味も無いか。イオリさん、後で必ず説明するから今は彼女らの救助に協力してくれ」

 彼女ら、と来たか。どうやら隠れている相手の素性も把握済みなのね。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『剣士』


「俺とリンで竜甲大亀の注意を引くから、奴が穴から離れたらイサンとカウカは透かさず救助に入ってくれ。リンは距離を取って奴に魔法をぶつけてくれ」

「良いけど……私の魔法じゃ大して効かないからね」

「構わない。威力より回数を重視して、出来るだけ多く当ててくれ」

 二手に別れて位置につく。

 俺が突撃するのに合わせて、リンの魔法が放たれる。

 顔付近に命中した事で、亀の注意が後ろに向く。

「せりゃっ!」

 気合いと共に後ろ脚に斬りつけたが表面を少しだけ傷つ、少量の血が垂れる程度だった。金属さえ斬り落とす悪魔剣パルスの刃が通じないとは。

「くそ、『魔波刃』!」

 剣に魔力の刃を纏わせ甲羅に突き立てたが、甲高い音を立てるだけで刃が食い込む事はなかった。予想していたが脚の鱗より硬い甲羅だ。

 作戦変更。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『呪術士』


『痛覚、不快感、熱量を誤認せよ 幻夢感覚(ファントムセンス)

 呪術で亀の知覚を弄る事で、与えた傷の痛みを数倍に増幅して亀の怒りを誘う。

 悪魔剣を振るい、後ろ脚に新たな傷をつけた。

「ィギィアアァッ!」

 これまで虫に集られた程度の反応だった亀が悲鳴を上げた。日頃は高い防御力のお陰で久しく感じる事の無かった『痛み』に激怒し、血走った目で俺を捉えた。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『暗殺者』


 俺の身体を食い千切ろうと首を伸ばし、必死に追いかけてくる。上手く釣れた。

 横からリンの魔法が当たっているが、最早俺の事しか見えていない。チラッと後方を見ると激走する亀の向こう側に冒険者らしき女達を担ぐカウカの姿が見えた。

 もう少し時間を稼ぐか。

 壁際まで亀を引きつけ、素早く身を躱してその勢いのまま岩壁に激突させた。亀の耐久力から見て、効果は薄いだろうが俺の姿は見失ったようだ。

「まさか、これが役に立つ日が来るとはな……」

 いつだったか、食堂でリップからもらった保存食の試作品。本人は失敗した食品と言っていたが、毒性の強い材料を使ったタダの毒薬だと思うんだよな。

 小瓶の口を開き、中身の丸薬を全て食った。

「にがっ……くっさぁ……後味、悪ぅ」

 毒耐性スキルのお陰で、身体に悪影響は無さそうだ。

「暗殺者スキル『毒付与』、『効果倍増』、『貫通』」

 体内の毒を強化し、悪魔剣の切先に付与して振りかぶる。

「くらえぇ!」

 亀の前脚に数センチ食い込んだ。スキル『貫通』を使っても僅かしか刺さらなかったが、それでも亀の身体に猛毒を流し込むには十分。

 暴れだす前に離れて様子を伺う。

「イオリさん、どうなったの?」

「まだ近付くな。多少、毒で弱らせたが……」

 目や口から夥しい量の出血があるが、まだ動けるようだ。力を込めた脚で地面を踏み締め、俺を噛み砕こうと突進してくる。

 大きく口を開け、噛みついた物が岩であろうと容赦なく砕いてしまう。

 毒の効果で体力は落ちていても、最早俺を殺す事しか頭に無いのだろう。障害物を避ける事も、どんな攻撃も無視して、ひたすらに前進する。身体を蝕む猛毒によって理性さえも失ったかのように暴れだした。

 職業変更だけでは対処出来ない。こうなれば。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『魔法使い』


『風よ、辺りを覆い隠せ 白消失(ホワイトアウト)

 竜甲大亀を中心にして、白い煙幕が辺りに充満する。

 姿が確認出来ない状況を作ると。


 種族『大鬼 伊織 奏』 職業『剣士』


「『魔波刃』!」

 大鬼の怪力で悪魔剣を振るう。魔力の刃が亀の首に食い込み太い首の半ばまで斬り裂いたが、まだ亀の命を断つには至らない。

 首から血が吹き出しながらも執念で噛みついてくる。

 身体に岩をも砕く圧を感じながら。


 種族『怨霊 伊織 奏』 職業『呪術士』


 亀の口からすり抜けた俺を見失い、獲物を逃がした亀が怒りの声を上げる。

『これで終いだ……『吸精(ドレイン)』』

 残り少ない亀の生命力を吸い上げると、巨体がゆっくりと倒れ煙幕が吹き飛ぶ。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『呪術士』


 横たわる亀の巨体にもたれ掛かる。さすがに疲れた。

 最後に生命力を吸い上げた事で身体の調子は悪くないが、一歩間違えれば結果が逆転していたかも。

 スキル、アイテム、経験、運、どれもが結果に左右する戦いだったな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ