66 羨望のユニークスキル
階段前に陣取っていた二つ頭のワンコロを倒し、解体して素材を手に入れた。
特に火属性の牙はかなりの値が付きそうだ。
「魔石と牙、毛皮くらいか……肉は臭いから駄目だな」
「お~い、イオリさん。そろそろ行こうぜ」
骨を取るかどうか悩んでいると試験官のイサンが急かしてきた。まぁ骨の値段は低そうだし捨てていくか。
素材の剥ぎ取りを中断し、階段を降っていく。この何とか遺跡ダンジョンは全部で五層からなる。
下に潜れば潜るほど魔物の強さは増していくと言うが地下一層の魔物を見る限り、ソロでも三層辺りまでは問題なく行けそうな気がする。
地下二層に出てくる魔物も上の階層とあまり変わらない。目新しい素材も無さそうだし、剥ぎ取るよりも下層に降りる方を優先しよう。
地下二層の下り階段前に突っ立っていたアンデッド系騎士を細切れにして、地下三層を目指して階段を降りていると。
「あのさ、イオリさんって職業は何なの?」
ダンジョンを進んでいると、唐突に魔法使いのリンが話しかけてきた。
「ダンジョンに来るのに使ったのは召喚術、炎人を倒した時は魔法、双頭獄犬の時は剣士スキル、何かまだ手札を持ってそうだよね」
「リン、正式な仲間でも無いのに詮索するのはマナー違反だぞ」
「そう言うイサンだって気になってんじゃないの?」
「そりゃそうだが……」
二人は此方の様子を伺いながら視線を向けてきた。
どうしようかな。適当にはぐらかすか。
馬鹿正直に正体を話すわけにもいかないし、イサンの言うように命を預ける仲間じゃ無いのに手の内を教える必要も無いな。それに複数の職業スキルを使える奴が他にいないとも限らない。
「異なる職業のスキルを使えるのって珍しいのか?」
「初歩的なものなら他の職業でも使えるけど、召喚術とか攻撃魔法ぐらいになると珍しいんじゃないかなぁ。ああいうのって適性が必要だって言うし」
適性か、なるほど。
「詳しくは言えないが、ちょっと便利なスキルがあってね。そのお陰で色々出来るんだよ」
「へぇ、それって……」
「それってユニークスキル!? あぁいいなぁ、私もユニークスキルが欲しいなぁ」
興奮したリンが羨望の眼差しで詰め寄ってきた。
ユニークスキルって事にすれば都合が良いか。
「まぁ、そんな訳であまり他人に知られたくないから黙っていてくれよ」
「えぇ~何で? 私だったら絶対、自慢しまくるけど」
「誰もがリンみたいにお気楽な性格してねぇんだよ。下手に情報が漏れたら、使い潰されたり狙われたり、最悪飼い殺しにされるかもしれねぇだろうが」
「カウカは夢が無いなぁ……あ~あ、ユニークスキルが有れば上のランクだって目指せるのに」
上のランク? CランクとかBランクとか?
ユニークスキルが無くても目指せば良いじゃないか。
そんな心の疑問が顔に浮かんでいたのか、イサンが説明してくれた。
「冒険者のランクには、ある壁があるんだよ。常人が届くのはCランクまで、Bランク以上となると人とは違う何かが必要ってね」
「それがユニークスキル?」
「まぁ絶対って話しじゃ無いけどね。でも、AランクやSランクが同じ人類なのか疑問を感じるほどの実力者なのは確かだよ」
ふ~ん。ユニークスキル一つでAやSランクの冒険者の常人離れした強さの説明がつくとは思えないが、それでも驚異的な効果をもたらすのは事実。
スキルの扱い方を間違えないようにしないとな。
地下三層に降ると硬い甲殻を持つ蟹っぽい魔物や金属のような光沢の蚯蚓が襲ってきた。
「重装甲蟹と鉄甲蚯蚓か、どちらも見た目通り硬い魔物だ」
耐久力も高く、魔法で仕留めようにも中々しぶとい魔物らしい。
鉄甲蚯蚓が奇襲を仕掛けてようと地面の下に潜り、重装甲蟹が鈍い動きでゆっくりと近寄ってくる。
攻撃されようとお構い無しの鈍さだ。余程甲羅の頑丈さに自信があるらしい。
だが、俺の悪魔剣なら容易に斬れる。
眼前まで来た重装甲蟹が振り下ろした蟹爪が硬い地面に突き刺さった隙に、太い蟹爪を斬り落とし背中に登ると岩盤のような甲羅を一気に両断した。
後ろから迫り来る鉄甲蚯蚓の岩をも砕く頭部を悪魔剣の刃で受け止め、そのまま真っ二つに斬り裂いた。頭部を半分以上失った蚯蚓がのたうち回り、程なく静かになった。
「むぅ。重装甲蟹は剣士泣かせの魔物なんだがな。その魔剣、反則だろ」
イサンがボヤいているが、確かにあの甲羅の硬さは通常なら剣よりもハンマーで叩く方が正解だな。
「武器の性能には助けられてるよ……この蟹肉は食えるかな?」
輪切りになった爪の中を見ると蟹肉が詰まっている。
何だか食欲が湧いてくるなぁ。この大きさだと調理が大変だが、焼いてみるか。
「はぁ? 重装甲蟹なんて小鬼でも食わねぇぞ?」
「いや、腹を空かせた小鬼なら何でも食うと思うぞ。でも普通の人間が食べるもんじゃない」
「てか、こんな物を見てよく食べる気になるね。お腹壊すよ? イオリさん」
散々な言われようだ。どうやら不味いらしい。残念。
アケルの街って内陸だから魚介類が少ないんだよね。
海の幸が恋しいわ。
ダンジョンに入ってから一気に降りてきたが、上手い具合に魔物のいない水場があったのでここらで休憩を取る事にした。
汲んだ水を錬金術で飲料水に合成し火にかけてお湯を沸かすと、用意しておいた焦がし豆の粉末をカップに入れて沸かしたお湯を注ぐ。
「ふぅ……にっが」
豆を焦がし過ぎたか、豆の質が悪いのか。ミルクと砂糖をドバドバ入れて味を誤魔化した。
自分で焙煎した豆だったが、まだまだ改善が必要だ。
一方、イサン達は難しい顔で何やら話し合っている。
何だろう? あまり良くない雰囲気だが、時折聞こえてくるのは『予定が』とか『トラブルが』とかだ。
いい加減、気になったので尋ねてみた。
「どうかしたか? 何か問題でもあったのか?」
「い、いや何でもねぇよ」
「そうそう、イオリさんは気にせず休んでてよ」
挙動不審なカウカとリンは気にするなと言うが、どう見ても問題発生してるだろ。
このダンジョンの地図を広げているようだが、すでに通過した部分に丸印がしてある。何だろう?
「もう十分休憩したから、出発したいんだが」
「そっかそっか、じゃあ出発しよう。まだ行ってない場所には宝箱があるかもしれないね。あっちに行ってみよう!」
明らかにおかしい。
「何故リンが道を決める? リンは試験官だろ? ここまでダンジョンをどう進むかは俺が自分で決めてたじゃないか。それとも彼方の道に進んで欲しい理由でもあるのかな?」
「え、え~とそれは……」
軽く問い詰めるとリンは視線を逸らし、助けを求めるようにイサンの袖を引っ張った。
「あ、あぁ、大した理由じゃ無いんだが……ほ、ほらイオリさんは腕が立つだろ。彼方の先に、ここら辺より強い魔物が出るって情報があってさ。イオリさんの実力をもう少し見ておきたいと思ってね」
「ふ~ん」
試験官の指示なら従うが、どうも怪しい。
もしかして街のチンピラが言っていた『別の尾行』って、コイツら? ……いや違うか。街中の尾行は俺にプレッシャーを与えて弱らせて、その後交渉して自分達の思惑通りにさせるのが目的だったが、街の外なら回りくどい尾行なんてせずに力尽くで言うことを聞かせた方が早い。
何と言っても、街を一歩出れば自己防衛、自己責任の世界だもんな。
彼ら『青炎』からは悪意を感じない。警戒すべき相手は別にいると見た方が良さそうだ。
仕掛けてくるとすれば俺が弱った時か、警戒を解いた時だな。