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千変万化!  作者: 守山じゅういち
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六十五 上層にて

 アルロワ遺跡ダンジョンに突入した伊織とイサン達を最初に出迎えたのは赤く燃える人型炎の魔物だった。

「おぉ、すげえな。炎人(ファイアマン)がこんな入り口付近で出て来るなんて、このダンジョンは思ったより難易度高めだな」

 伊織から少し離れた場所でカウカが襲撃してきた魔物を眺めて言った。

 伊織と交戦中の魔物、炎人は低難易度のダンジョンならば各階層の番人『フロアボス』として出現してもおかしくないほどの魔物だ。

 見た目通り身体が炎で構成されている為、物理攻撃が効きにくく弱い水魔法では有効打になりにくい。

 苦労して倒しても魔石以外に売れる物が無い、冒険者達には不人気な魔物だ。

「イオリさんの剣は、リーチは少し短いけど魔剣っぽいよね。魔法生物の炎人には有効なんじゃない?」

「あぁ、物は良さそうだ。だが、炎人も一体だけじゃないみたいだぞ」

 イサンが指摘した通り、物陰から遅れて二体の炎人が出現した。

 炎人三体が伊織を襲う。

 燃え盛る腕が掠める度に、伊織の皮膚を炙っていく。

「おっ? 上手く腕を斬り落としたな」

 腕を掻い潜り、空振った腕を斬り裂くと本体から離れた腕が空中へ霧散した。

 だがその腕もすぐに再生し、再び襲い来る。

「さて、どうするかな? 例え首を落としてもすぐに元に戻ってしまうが」

「剣士スキルの『魔波刃』が使えればマシかもね」

「どうかな? 『魔波刃』は結構、上位スキルだから扱えるかわからない……ん?」

 イサンとリンが会話していると、伊織が腕を突き出して掌を炎人に向けた。

 一瞬の間の後に、三体の炎人の身体が粉々になり魔石が露出した。

「え、何だ今のは? リン、魔法か?」

「う~ん、発動が早かったからよくわかんないよ」

「しっかりしろよ。俺達は試験官なんだぞ、『何が起こったかわかりませんでした』なんてマヌケな報告は出来ねぇんだよ!」

「わかってるってば! 呪文の詠唱は聞こえ無かったから無詠唱か呪文短縮だと思うけど、今の魔法かな?」

 炎人三体分の魔石を回収し、伊織が三人の下に来た。

「そういえば聞いてなかったんだが、試験中に手に入れた物の価値が合否に関係するのかな?」

「あまり気にしなくてもいいんじゃないかな? 余程のレアアイテムじゃなければ試験の成績には影響しないし、そんなアイテムは滅多に出てこないよ」

 イサンの説明に伊織は納得し、ダンジョンの奥へと進んで行く。

「やっぱ、さっきのは風系の魔法を撃ち出したのかな。炎人の身体を一気に霧散させたって事は、圧縮して撃ち出したのかも……」

 最後尾で考え込むリンをイサンが注意する。

「リン、集中しろ。ダンジョンの中なんだからどこから魔物が来るかわからないんだぞ」

「うん……わかってる」

 次に出てきたのは小型蜘蛛の群れ。

 瞬く間に先頭を行く伊織の側まで近付いてきた。

小蜘蛛(リトルスパイダー)か、弱毒持ちだがこれだけの数に襲われると危険だ。一気に駆け抜けたほうがいいかな。カウカ、リン、準備をしとけ」

「うん、わかっ……寒っ!」

「な、何だこの冷気は」

 前方から流れてきた冷気に三人が驚き、白い息を吐きながら冷気を放つ伊織を注視した。

 伊織に襲いかかろうとした蜘蛛達の動きは冷気によって急速に鈍り、やがて完全に止まった。

「はぁ~、虫系の魔物は動きが速くて倒すのが難しいのにな。しかも群れを纏めて倒すとは……」

「だね。火や水、風系だと強めの魔法を使わなくちゃ群れを一掃出来なかったと思う。氷系を選んだのは良い判断だよ。多分これ、攻撃系の魔法じゃないから魔力消費も抑えられたんじゃないかな?」

 蜘蛛の魔石は取らずに、行く手に転がる蜘蛛を踏み潰しながら先へ進む。

 岩肌剥き出しの通路を進むと小鬼や爬虫類系の弱い魔物に混じって大鬼やアンデッド系の魔物も出現した。

 普通ならばパーティーを組んで討伐するような魔物相手でも、ソロの伊織はたじろぐ事なく、魔剣を手に難なく倒していく。

 そして下層へ続く階段を見つけたが、そこには一際強力な魔物が居座っていた。

「あれは……双頭獄犬(ダブルヘルドッグ)

 犬系魔物の中でも上位に位置する。体高三メートルの見上げるほどの巨体、二つの口から覗く牙には炎を宿し岩をも砕く強靭な顎で獲物の肉を焼きながら食い千切るのだ。

「う~ん。ちょっとDランクには手が余りそうだな」

「どうする? おっさんにリタイアを勧めるか?」

 クエストで危険を察知して撤退するか、それとも諦めずに進むかは本人が判断しなければならない。

「あ、やる気だ」

 伊織が双頭獄犬に近づく。相手も伊織を認識し、唸り声を上げる。

 イサンの脳裏に噛みつかれて絶命する伊織の姿が浮かぶ。助けるべきか? 試験官としてイサンは救助を考えたが、自分達が双頭獄犬の相手をするには荷が重い、自分の力量を測り損ねた奴を庇ってパーティーに損害は出したくないと思い、そのまま状況を見守った。

「おっ。おっさんが仕掛けるぞ」

 双頭獄犬が動き出しより先に、伊織の召喚術が発動した。

 呼び出されたのは毒々しい蕾の植物で、閉じた蕾が大きく膨らむと何かを射出した。

「あれは種子弾草(シードシューター)か」

「確か毒霧の種を射ち出す植物系の魔物だよね」

 射ち出された種は双頭獄犬には命中しなかったが、着弾とともに周囲に毒霧が立ち込め、漂う毒霧を吸い込んだ双頭獄犬が叫び声を上げて暴れだした。

「これは……うぐっ!」

 三人の下に漂ってきた僅かな毒霧を吸い込みその刺激性の強さに、堪らず咳き込み涙が滲んできた。

 鋭い嗅覚を持つ双頭獄犬は毒霧に苦しみながらも、仕掛けてきた伊織を睨みつけ、激しく怒りを燃やして真っ直ぐに突っ込んでいった。

 伊織の下まであと僅かというところで、双頭獄犬の脚に蔦が絡まり動きが止まった。

「木魔法の樹木束縛(ウッドバインド)……毒霧で冷静さを失って突っ込んで来た所に罠か」

 後ろ脚に絡まる蔦を炎の牙で噛みきろうとするが、新たな蔦が顔や脚に張りついてくる。

 身体の自由を失った双頭獄犬の背中に伊織が飛び乗り、剣士スキル『魔波刃』で首の頸椎辺りに深々と刃を突き立てると、ふらつく双頭獄犬にトドメの雷魔法を流し込んだ。

「まさかソロで双頭獄犬を討伐するなんて……もう、試験する必要なくないか?」

「まだ駄目だよ。折角用意した()()が無駄になるじゃない」

「そうだぜ。むしろアレが本番じゃねぇか」

 こそこそと三人が話す通り、このダンジョン攻略試験にはある課題が用意されていた。

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