64 試験開始
強烈な異臭を放ち、触れた物を瞬く間に溶かす毒液を適当にばら蒔いたら地面に埋まった奴らがベラベラと喋ってくれた。
彼らの目的は、昇格試験の期間終了まで俺を尾行するというものだった。俺と接触する事無く行動を細かく監視し、出来るなら尾行されている事を察知させて神経が磨り減るようにしろという仕事を受けたそうだ。
「お、俺らは闇ギルドの者だ。俺らに手を出したら闇ギルドが黙ってねぇぞ……」
ほう、闇ギルド。あるんだねぇ、闇ギルド。
「いや、それはどうかな? 金で犯罪行為を請け負うような奴らを従える組織が、下っぱが仕事に失敗して消されたからってわざわざ動くかな? むしろ捕まるようなヘマをした奴なんて切り捨てるんじゃないか?」
そんな想像が容易に浮かぶ。男達も同様に、己の未来を想像したのか青ざめている。
「所で相談なんだが」
絶望の未来を想像し顔色の悪い男達に起死回生のチャンスをやろう。
「何も無かった事にしないか?」
「へ?」
ここで始末してしまうのは簡単だが、そんな事をしても別の奴が仕事を引き継ぐだけだろう。だったら力量も知れている奴らに張り付いてもらって、此方が手綱を握った方がマシだと思うんだよね。
「お前達は引き続き監視をする、ついでにお前達以外の不審者がいれば知らせて欲しい」
「……監視して調べた情報は、報告しなきゃならねぇ。それは構わないのか?」
「構わないよ。あぁそうだ、時々情報交換もしようか。此方の予定を知らせる見返りに其方の情報も知らせろ」
男達は嫌だと言える状況では無いから、俺の提案を素直に飲んだ。
毒液に侵された奴を治療し、地面から解放してやる。
男達は自由の身になっても俺の視線に怯え、ビクついている。
そんな男達の姿にイタズラ心を刺激されたのか、キャロルがちょっかいを出した。
「……わっ!」
「ひぃ!」
驚いて腰を抜かす姿を見てキャロルがケラケラ笑っている。
「止めんか……悪かったな、お前ら」
「勘弁してくれよ。もう行ってもいいか?」
早く立ち去りたいのか。今にも走り出しそうな様子でジリジリと下がっていく。
「一応、予定を知らせておく。明日、冒険者ギルドに顔を出したあとはダンジョンに行くんだが、お前達は付いてくるのか?」
「ダンジョン? いや俺達は……そうだ、上から指示されたのは街の中の尾行だけだ。外に出た時はどうするのか確認したら、別の監視が付くから問題無いと言ってた」
ほう、そうか。
まあ、街の外なら何の遠慮もなく潰してしまえばいいか。
翌日、ダンジョンへ出発する前に冒険者ギルドへ顔を出した。
「アーリ、これからダンジョンに行こうと思う」
「わかりました。では、担当試験官を紹介しますね」
アーリが手招きすると食堂のテーブルに着いていた三人組が近寄ってきた。
「Dランクパーティー『青炎』のカウカさん、イサンさん、リンさんです。イオリさんには、この三人と臨時パーティーを組んでもらいます。現地に到着してからはイサンさんの指示に従って下さいね」
……どっかで見たような?
「よろしくな、おっさん」
「カウカ、失礼だぞ。よろしく、イオリさん」
「格闘家のカウカ、剣士のイサン、そして私が魔法使いのリンだよ」
手を差し伸べられ、それぞれと握手した。
「よろしく、伊織だ」
あ、そうだ。俺が生まれたダンジョンで初めて見た人間達だ。あの時は、前世の姿を取り戻していなかったっけ。なら、今の姿でも問題無いな。
「最後に一つ。昇格試験の合否は、イオリさんの行動を見て判断されます。ですから必ずしもダンジョン攻略に失敗したからといって不合格とは限りません。そこに至るまでの行動が大事ですから、無茶をして致命的な失敗をしないよう気を付けて下さいね」
「あいよ、わかった」
ダンジョン攻略を期待されてはいるが、それでも命を失うような結果は駄目ってわけね。
試験官のパーティー『青炎』を連れて街の外へ行き、しばらく歩く。
尾行に注意しているが特に怪しい奴はいないようだ。
「どうかしたか、おっさん」
「いや、別に。……そろそろいいか」
種族『人間 伊織 奏』 職業『召喚術士』
『我らを運べ 召喚・風翼鷲』
数人を楽に乗せられる大型の鷲を召喚し、青炎の奴らを乗せる。
「おぉ! 移動用の召喚獣かよ。羨ましいぜ」
「これなら、今日中にダンジョンに着きそうだな」
「うぅ……た、高いよぉ」
風翼鷲が上空へと飛び上がると、あっという間にアケル街が見えなくなった。これで尾行がいても撒けるだろう。
しばらく空を移動し、向かってくる小型の魔物は振り切って無駄な戦闘を避けて目的のダンジョンへとやってきた。
地上に降り立ち、召喚を解除して休憩する。
「リン、もういいか」
「う、うん。大丈夫、待たせたね」
パーティーメンバーに気遣われて、魔法使いのリンが重い腰を上げた。
ダンジョンの入り口まで魔物の出現はなかった。
「冒険者や国の兵士がダンジョンに挑戦する為に通るからね。適度に討伐されてるから、他の場所より魔物の数が少ないのさ……おっと、入り口が見えた」
イサンが指差した所に遺跡らしき廃墟があった。
「この辺りには遺跡が多くてね。近くに大規模ダンジョンがあって、そこの派生としてこのダンジョンが生まれたそうだ」
遺跡の中央部に地下へと向かう階段がある。
「それじゃここから先、俺達は居ないと思って行動してくれ。魔物が来た時、俺達は俺達で戦う。もしイオリさんが魔物に襲われそうになっても俺達は助けない。どうしてもヤバくなったら、リタイアを宣言してくれ。そうすれば俺達が助けるからさ」
「あぁ、わかった。ちなみに試験官が死んだ場合は、どうなるんだ? 試験は中止か?」
「悪いがそうなる。実は記録映像を撮るように言われていてね」
イサンが片眼鏡を取り出し説明してきた。
試験官の言葉だけでなく、あの片眼鏡の記録も判断材料になるわけか。
もしも試験官が死んだ場合、片眼鏡も持ち帰るように言われた。何が起こったかギルドに知らせる為だ。
「じゃあ、イオリさん。試験を開始しようか」




