60 定番遊具
改良型ゴーレム試作一号。のパーツを造ろう。
『仮初めの命を与える、立ち上がれ 力の従者・左腕』
『仮初めの命を与える、立ち上がれ 力の従者・右足』
『仮初めの命を与える、立ち上がれ 力の従者・左足』
『仮初めの命を与える、立ち上がれ 力の従者・胴』
『仮初めの命を与える、立ち上がれ 力の従者・頭』
地面に六つのパーツが揃った。
「こんなもんか……次は、えっと……合体しろ」
適当な命令だったけど、滅茶苦茶な形にならずに済んだ。もしかしたら手足の位置が逆になったりするかと思ったが、此方の意図を察してくれたのか想像した通りの形に合体してくれた。
「では、立て」
命じた途端、ジタバタと手足を動かしてゴーレムが暴れだした。
「ぅわっ! 何だ何だ……あっ」
程なくして手足の関節部が捥げて、胴体にも亀裂が走って砕けた。
「あ~あ~」
何だよ、もう。
どうやら各パーツの魔石が命令に反応して、各々の判断で動こうとしたようだ。意思の統一がなされていなかった事が原因か。
それと胴体の反応が手足のパーツより遅かったな。
身体を起こそうとして上半身を曲げる変形が間に合っていなかった。
上半身と下半身を分けて、腰部分を造るか。
改良型ゴーレム試作二号。今度は胴体を二つに分けて全部でパーツは七つだ。パーツはこれ以上増やしたくないな。
先の失敗からメインの魔石を上半身パーツとし、残りの魔石は補助とした。戦闘になれば、手足や頭は壊される可能性が高いからな。
「よし、立ってみろ」
少々ぎこちないが立ち上がった。
「……片足立ちをしろ」
言われるがまま片足を上げて。
そのまま倒れた。
「あ~やっぱりか」
ゴーレムは使い捨てだからな。単純な動き以外はほぼ出来ない。
バランスを取るのは勿論、倒れないように行動する事も倒れた後にすぐ立ち上がるのも難しい。
「動きの参考データが足りないんだよな」
これを解決するには時間をかけて覚えさせるか、或いは別のデータを組み込むかだな。
「え~……魔石に『記録』と『連動』を仕込んで、モーションキャプチャーみたいに出来ないかな?」
あとはこの魔石を服に付けるだけだが。
「ただ服に縫い付けるってのも面白くないな」
ちょっと細工をするか。
種族『人間 伊織 奏』 職業『鍛冶士』
「まずは型だな。ゴーレムの破片でいっか」
固めの土を立方体に整形し、上部に涙滴型の窪みを造る。
「土台の素材は……銅貨にするか。『この物体の形を変えよ 変形態・液体』」
窪みに置いた銅貨が液体となり、窪みの形に合わせて広がる。
広がった液体の中央に、『記録』と『連動』の魔法を仕込んだ魔石を置き。
『この液体の形を変えよ 変形態・固体』
液体から固体に変わり、手のひらサイズのブローチが完成した。
「よし、これを……」
キャロルにでも着けさせようと思ったが、アイツあんまり言う事聞かないんだよなぁ。
これを着けて走ったり跳ねたり転んだりしろって言っても上手くいかないかもなぁ。
「子供の興味を引いて、何度も動き回ったり転んだりするように仕向ける……遊具でも用意するか」
敷地の空きスペースに移動し。
「用意するのは……丸太橋、滑り台、ジャングルジムにしようか」
バランスを取って進む、転んでから起きる、物を掴んで登る。取れるデータはこんなとこかな。
およそ六メートルほどの石製の丸い平均台。
背の低い子供でも遊びやすいように高さは低めにして少し楕円形にしよう。転んでも痛くないよう周りを砂地にしておくか。
次に滑り台。
三メートルの小山を造って、滑る面はツルツルにして登る階段は無しにしよう。頂上に登る為に小山を登坂すれば斜面を移動するデータが取れる。
最後にジャングルジム。鉄ではなく石製になる。両手両足を使った動きが何の役に立つかわからないが、とりあえずデータは取っておこう。
「おお~っ! なに、これ!」
「遊んで良いの?」
「ルウちゃん、あれあれ」
「ぅわわっ! 落ちるぅ」
「登りにく~い」
反応は様々だが、早速飛び付いている。キャロルも興奮した様子で突撃しようとしていたが、その前に動作記録用のブローチを胸元に着ける。
「キャロル、コイツを着けとけ。動きを記録するアイテムだ」
「ん。にあう?」
「あ~、似合う似合う。じゃあ、遊んでこい」
ニンマリ笑ったキャロルがジャングルジムを目指して突っ走っていく。
子供達が三つの遊具に群がって遊んでいる。想定した使い方をしていたかと思えば、思いもよらない行動を取ったりする。
丸太橋で逆立ちしたり、一人背負って渡ったり、わざと余所見して渡ったり。
一人が滑り台を逆走して登頂すると真似したり。
「待て待て! ジャングルジムの上で走り回るのは止めろっ! 危ない!」
最初は様子見する余裕があったのに、怪我上等みたいな無謀な遊び方が怖すぎる。
年少は良いんだ。身体が小さいから必然的に大人しく失敗しながら遊んでくれる。
問題が、キャロルを初めとしたヤンチャな奴らだ。
下手に運動能力が高いから刺激を求めて行動がエスカレートしていく。
「ヤン、リッキー、キャロル! 足場が悪い所でふざけるんじゃ……キャロル! 飛ぶな!」
ヤンは高い所が平気なのか軽い足取りでジャングルジムの頂上を歩き回っている。リッキーは若干腰が引けている。
下で慌てている俺の反応が面白いのか、キャロルが飛び降りそうな仕草でおちょくってくる。
「なになに、一体どうしたの?」
市場へ買い出しに出掛けていたペレッタが帰ってきて、此方に来た。
「いつの間に……これ、イオリさんが?」
「あ。悪いな勝手に造って、邪魔なら片付けるが」
居候の身で少々勝手し過ぎたか。
「いやいや、良いよぉ。皆楽しそうだし」
笑って許してくれた。研究と実験に熱が入りすぎたな反省しよう。
「それで、何を騒いでたの?」
「あぁ、三人がちょっと危ない事をしてたんでな」
「危ない?」
ジャングルジムの頂上で、リッキーがキャロルを肩車してヤンの後を追って動き回っている。
それを見ても慌てる事なく。
「別に平気じゃない? そうだ。ヤン、夕食の準備するから手伝って」
「は~い!」
返事をしたヤンが軽くジャンプをしてジャングルジムの頂上から飛び降り、地面に難なく着地した。
あれ? もしかしてこの程度の高さは楽勝なのか?
そうは言ってもリッキーは普通に降りてきた。
「個人差はあるが思ったよりたくまし、んがっ!」
ジャングルジムから飛び降りたキャロルが、衝撃と共に俺の肩にダイレクトで飛び乗り肩車しやがった。
「んん! きまった!」
「こ、このアホ……」
肩と腰にダメージを食らった。
あとで説教が要るな。
痛めた腰を擦りながら、身体に治癒魔法をかける。