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千変万化!  作者: 守山じゅういち
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06 オツカーレ

 種族『人間 伊織 奏』 職業『僧侶』


 改めて男の左腕を見る。刃牙狼の牙で縦に大きく裂かれた傷は、かなり深く、骨まで達している。

「な、何を……?」

「治療するぞ。このままじゃ死んでしまう」

 男の返答は無かったが、気にせず治療を始める。僧侶の知識によると、今の俺が使える下級魔法では男の傷を治す為にかなりの魔力を消費し、傷も完全には治せないようだ。

 しかし、僧侶の知識には、熟練の術者が行えば高い治療効果を発揮し、完治できるともある。

 これは治療に関する知識などがちゃんとイメージ出来ているかどうかが関係しているのか。俺は前世で医者だったわけではないが、持っている知識が役に立つかどうか、この男で実験してみよう。

 切り裂かれた筋肉繊維を一本一本繋げるイメージ、折れた骨を正しい位置に戻すイメージ、切れた血管を繋げるイメージ、細胞分裂を促すイメージ……。

『傷ついた身体に生命の息吹きを、治癒光(ヒール)

「おぉ……すげぇ」

 ゆっくりではあるが左腕の傷が消えていく。

 男が傷ついていた左腕を凝視して、確認するように動かすが、その動きにおかしなところはない。

「な、治ったか……疲れた」

 思ったより魔力を消費したようだ。やっぱり、経験不足かな。

 最初の戦闘からずっとスキルを使い続けていたから精神的疲労が溜まっていたのかな。妙に身体が重い、動くのがダルい。

「ぁ、ありがとう。刃牙狼からも助けてもらったし、傷の治療まで……」

「ん? まぁ気にするなよ、別に善意で助けたわけじゃない。俺は街まで行きたいんだけど、乗っけてくれよ」

 駄目なら荷馬車だけ、もらうけど。

「もちろんいいとも! 命の恩人だからね!」

 答えたのは荷台に乗っていた中年の男だった。

「私はゴランっていうんだ。この先のアケルって街の商人でね、今回『聖なる盾』に護衛を依頼して仕入れから帰ってる途中だったんだよ」

「そうだ。あんた、僧侶だよな! 妹を診てくれよ!」

 中年の男ゴランが自己紹介を聞いていると、剣士の男が荷台に寝かされていた最後の一人を指差した。

「おぉ、そうだ。私からも頼むよ。こっちのペレッタっていう子が急病なんだよ」

「ん? まぁ、いいか。俺は伊織っていうんだ」

「シ、シンクだ。必ず礼はする! 頼むよ!」

 とりあえず紹介を終えると、荷台のペレッタとかいう子を診てみる。

「ふむ……ふむ……なるほど。駄目だ、手遅れだな」

 下級の治癒魔法は、対象の生命力や魔力を増幅して治療する。なのである程度、残っていないと発動しないのだ。ペレッタの生命力は、最早尽きる寸前、俺の治癒魔法ではどうにもならん。


「うぅ……ペレッタ、ペレッタァ……」

 ペレッタの冷たくなった手を握り、シンクはボロボロと泣きながら妹の名を呼び続けた。

「狼たちに襲われる前に、小鬼の戦いで毒矢を受けすぎちまって……間の悪い事に手持ちの解毒ポーションを使い果たしててねぇ、何とか治療の為に街までの最短距離を突っ切ろうとして、あのザマさ」

 溜め息をついて、ゴランが状況を説明してくれた。

 どこかに逃げ出していた馬を連れ戻し、ゴランが出発の準備を進めている間も、シンクは立ち直れずにいた。

 なんでも聖なる盾というパーティーは、元々あと一人僧侶がいたそうだが、今は不在中らしく、戦力低下した状態で護衛クエストを無理に受けた結果、妹の命を危険に晒してしまったわけだ。

 まぁ正直、「ふーん」という感想しかないが、街までは連れていってくれるというし、多少辛気臭くても我慢するしかない。

「ごめん……ごめんよ、ペレッタ。俺のせいで……」

 まだ荷馬車は動かない……。

「こんな、事なら……もっと、もっと」

 ゴランまだぁ?

「俺のせいだ……俺の」

 …………。

「はぁ……確証はないが、まだ試していない方法がある」

 弾かれるようにシンクが振り返る。

「ほ、本当か!」

「秘密のウラ技ってヤツだ。助かるかどうかは約束出来ないぞ」

「そ、それでも!」

 荷台の端に置いてあった布を被って、ペレッタの傍に座る。

「これから行うのは、誰にも見せられないから。あっち向いてな」

 俺の後ろで、鬱陶しく覗きこむシンクを遠ざける。

 俺が何を行うのか? よりも、ただ妹が心配なだけだろうが、シンクは渋々後ろを向いた。

 さて、まずは。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『呪術士』


 呪術士の呪術スキルの中に、対象の生命力を奪う『精気搾取(エネルギードレイン)』というものがある。今回はそれを逆転させる。

 スキルの応用は、中々の高等技術だがいけるかな。

『生命の輝き、生命の流れ、ペレッタへと向かえ、精気搾取(エネルギードレイン)・逆転』

 身体の中から生命力を抜けていく。単純な疲労というより内臓の奥から冷えていくような不快感だ。

 だいたい二割くらいの生命力を注いでも、ペレッタの様子に変化はない。

 ()()()()()()()()()()()

 精気搾取は治癒魔法ではない。治療目的ではないのだから生命力の受け取り手、この場合はペレッタがちゃんと受け取らないといけないのだが、やはり意識のない状態ではただ垂れ流すだけのようだ。

 ここで、変身。


 種族『人間 ペレッタ』 職業『呪術士』


 今度は右手から生命力を流し、ペレッタの身体を通って左手で受け取る。

 俺がペレッタの空っぽだった身体に、同一人物の生命力を流し、その制御も代行する。

 よし、よぉし、よおーし!

 ペレッタの肌に僅かだが温もりが戻った。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『僧侶』


『身体から毒素を消し去れ、解毒(アンチドート)

 ペレッタの身体に治癒の光りが流れ込む。

 無事、解毒魔法は成功した。

「ふぅ…………もぅ動けん」

 生命力を半分以上失って、眩暈がする。

 疲れ果てて、そのままペレッタの横に倒れ込んだ。

「ぅ……誰?」

 その振動で目が覚めたのか、ペレッタが初めて声を上げた。

「ペレッタ! ペレッタ! ペレッタアァ!」

 異変に気付いたシンクが慌てて

 ぐぁえぇ! 俺の腹を、踏み、つけ……


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