58 キラキラ煌めくキラメキスティック
街の牢獄前に馬車は停車し、お姫さんを先頭に馬車を降りていくが、キャロルが馬車にしがみついて降りるのを拒否した。
「む、くさい」
臭い? 別に何も臭わないが、子供を連れていくような場所ではないし、置いていくか。
「ハル、すまないがキャロルを頼んでいいか?」
「わかりました。では、キャロちゃんと留守番してますね」
キャロルをハルに預けて、俺はお姫さんの後を追った。
暗い入り口に入ると若干の湿っぽさと陰気な雰囲気でテンションが下がる。キャロルはこれを嫌がったのかな?
「こっちだ」
施設の中の死体安置所に入ると、見覚えのある死体とは別に、鼠獣人の死体もあった。
「こいつは?」
「シクリ・バンシャー。バンシャー商会の会長だ」
あぁ、口封じで殺された仲介屋か。
「まずは今朝死んだ捕虜の方から始めてくれ」
「わかった」
種族『人間 伊織 奏』 職業『死霊術士』
『我が呼び声に従え 亡霊召喚』
捕虜の肉体に術をかけ、冥府に落ちた霊を呼ぶ。
うむむ。術の感触が鈍い。
発動してから暫くして、漸く捕虜の亡霊を呼び出す事が出来たが、その霊体には呪文が絡み付いていた。
これは命を奪うと同時に魂の自由を縛る呪いだな。
「まいったな、かなり強力な呪いが掛けられている。これじゃ喋らせるのは無理だな」
「何とかならないか?」
そうは言っても……そうだ、確か従魔術士のスキルには従魔に自分のスキルを使わせたり、逆に従魔のスキルを自分が使えるようにするスキルがあったな。
呼び出した亡霊を一時的に魔方陣で縛って、行動不能にしておこう。元から自由意思が無いから放置しても問題ないと思うが、念の為。
次に従魔術士に変身だ。
種族『人間 伊織 奏』 職業『従魔術士』
(キャロル。聞こえるか、キャロル)
(う? なぁにぃ)
(ちょっとお前の力を借りたい。スキルを使わせて欲しいんだが、いいかな?)
(……あ~おみやげほしいなぁ~、あめたべたいなぁ)
このやろ。
(わかった。後で出店に寄ってやる)
(わっふぅ! じゃあいいよ)
従魔の了承を得られた事で、契約の繋がりを通して城主吸血鬼の魂魄支配スキルが発動する。
「よし……どうやら呪術士の呪いスキルより此方のスキル効果の方が上みたいだな、上手く支配出来た」
「では質問しよう。まず、お前の名前を言え」
霊体に絡み付く呪文を無効化し、亡霊がゆっくりと答える。
『ワタし……わタシは、タナーと』
「では、タナート。お前の……」
捕虜のタナート、鼠獣人のシクリ・バンシャーから情報を聞き終え、二人の死体は墓地へと葬られる事となった。
「今回は助かったぞ、イオリ。君のお陰で色々と知る事が出来た。だが、この情報を他の者に流すのは……」
「心配しなくても、そんな事に興味は無い。俺は色々と忙しいんだ、面倒事に首を突っ込みたくなんか無いね」
「そうだな。君は他の事を気にすべきだな。例えば、あのキャロル・バリーとかな」
「……え~と、もしかして」
「あの子が禁域に封印されていた城主吸血鬼だという事は、最初から知ってたよ。王家には一般に知られている以上の情報が伝わっているんだ。勿論、その中には禁域の魔物についても詳しく伝わっている」
あ~、どうしよう。
ここは、闇にほうむ……
「結論から言うと、私はあの子をどうこうするつもりは無い。あの子のスキルは手に負えんからな。何故君にあの子のスキルが効かないのかは知らないが、多少なりとも制御出来るというなら、君に任せる」
おや、随分と甘い処置じゃないか?
「良いのかい? 大昔とはいえ戦争してた相手だろ」
「仕方あるまい。最早、昔の事として区切りをつけて対処した方が、利が大きいと判断した。上手くすれば今後、大きな戦力となってくれるかもしれん」
変に感情的にならず、利害で判断してくれたか。
とはいえ、いつ判断が覆ってもおかしくない。
自衛の力は持っておくべきだな。
「孤児院まで馬車で送ってやろう」
「あ。悪いけど、商業ギルドに寄ってくれる?」
「……やれやれ、君に礼節を期待するのは無理だな」
「やあぁぁ! ふたつほしいぃぃ!」
「いい加減にしろっ! キラメキスティックかフルーツ飴、どっちか一つだけ!」
無駄に煌めいている玩具と果汁飴を前にしてどちらも手放そうとしないキャロル。
まったく言う事聞かないんだが。