53 尾ひれ羽ひれ
ヤバい。背中のダメージを治癒魔法で治すよりも、先にアオバが来る。
「この……」
悲鳴を上げる身体を酷使して立ち上がる。
とりあえずアオバを何とかしなくては。とはいえ、動かない身体で出来る事は、あまり無い。
アオバの後ろにハルがいる。
「……はぁ、やれやれだ」
悪魔剣パルスを抜き、魔力を込める。
「来い、黄金骸竜」
俺の背後に金色に輝く骨竜が現れる。突如現れた巨大な魔物に対して、意識の無いアオバ達が動揺することも無く、平然と向かってくる。
「だよな……」
アオバの剣が俺を斬り裂く寸前、黄金骸竜のテイルアタックが俺の背中を打ち、ついでにアオバを巻き込んだ。
まったく言う事を聞かない召喚獣の攻撃で吹き飛ぶ俺とアオバ。
だが狙い通りハル達から遠下がり、森の中に落ちた。
上手く距離が取れた、今のうちに。
種族『人間 伊織 奏』 職業『僧侶』
『我が身を癒せ 治癒光』
森に落下したダメージよりも、ハルの膝蹴りを食らい黄金骸竜のテイルアタックを食らった背中のダメージの方が大きい。
折れてはいないようだが、完全に治るまで時間がかかりそうだ。
ハル達が追いかけてくるかと思ったが、来ないな。
痛む身体を引き摺って城が見える所まで戻ると、ハル達が眠る幼女の周りを囲むように立っていた。
どうやら主を守る為に、森へは入って来なかったようだ。
「ハル達の攻撃を掻い潜ってあのガキをどうにかするのは難しいか……う~ん」
そうなると、先に他の連中を行動不能にしなくてはいけないわけか。眠りの魔法が効くか分からないし、手足を縛るのも簡単では無い。
「う~ん、何とかあのガキに言う事を聞かせ……」
あ、待てよ。
種族『城主吸血鬼 キャロル・バリー』
職業『僧侶』
姿を変え、あの幼女キャロル・バリーと同一の存在になると、キャロルが土地に施した鮮血魔方陣の効果が俺の方にもやって来た。
消耗した魔力があっという間に全回復し、高速再生スキルで身体に残ったダメージも消えた。
「これでうまくめいれいをうわがきできるかも」
ちょっと喋りにくい。
意を決して三人の前に出る。こちらを向いて反応はするが、襲ってくる気配は無い。
「え~と……けいかいをかいじょして、ねむれ」
ハル、ルリ、ボルターが糸の切れた人形のように倒れ、眠りについた。
「よし……しはいかいじょっと」
どうやら魂魄支配は、視界に入った抵抗力の低い者を
支配出来るスキルのようだ。呪文を唱える必要もなく、一瞬で支配出来るとは恐ろしいスキルだ。
さて、一緒になって眠っている幼女を起こさなくてはな。
「おい、おきろ」
頬をぺちぺちと叩くと、むくっと起き上がり。
「ふぇ……だれぇ?」
涎を滴しながら、だらしない顔でキャロルが聞いてくる。自分の顔とは気付いていないようだ。
「おれは、このしろのちょうさにきたものだ。このしろのぬしは、おまえか?」
「あ~……しあぁ~い、はぁふぅ」
しっかりしろ。まだ寝惚けているのか。
「しらない、じゃないだろ。しろのにかい、かんおけのなかにいたのはきゃろる・ばりー、おまえだろ」
さらに問い詰めても首を傾げて、ぽかんとしている。
「……あ、きゃろるはきぃちゃんのなまえだ! あなたはなんてなまえ?」
いまいち会話にならん。
「おれは、いおり。それで、おまえは……」
「じゃあ、いっちゃん! あそぼ、いっちゃん!」
こりゃ駄目だ。話しが前に進まない。
種族『人間 伊織 奏』 職業『僧侶』
「すごいすごい! ほかには?」
「遊びじゃないっての。本当にコイツが危険な魔物なのか?」
遊び感覚で他人を支配しているのは確かに問題だが、多大な被害を出すほど危険な奴とも思えないし、本気で討伐出来なかったとも思えん。もしかしたら伝え残された情報が正確な物ではない可能性もあるな、何しろ数十年前だし。どっかで歪んだか?
殺すのも野放しするのも面倒で、封印して後回しにし続けた結果、尾ヒレが付いて今に至ったとか?
どちらにせよ。ここに放置は出来ないな。
「おい、キャロル。もう一度眠りにつくか、多少不自由でも外に行くか。どっちが良い?」
「そと? いくぅ!」
即答だな。
種族『人間 伊織 奏』 職業『従魔術士』
「外の世界に行くなら最低限守らなくちゃいけないルールがある。まず人の街で人を殺していけない、街で欲しい物を得るには対価を払わなくてはいけない、あとは……」
「???」
あ。どうやら頭に入っていないようだ。
もう少し分かりやすくしないと。
「え~と……俺の姿が見えなくなるまで離れない事、まずはこれを守ろう」
「うぃ! わかったぁ」
しばらくはこれで様子を見るか。
「それじゃ、術をかけるぞ」
キャロルのクセの強い天パ頭に手を乗せ。
『従属接続』
「うっきゃあ! ぞわぞわするぅ」
楽しそうにジタバタ暴れるキャロルの頭を撫でて宥める。あまり強く縛るのは嫌なので、緩く繋がる程度に抑えたが、大丈夫かな。
まぁ、細かい事はお姫さんに丸投げしよう。




