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千変万化!  作者: 守山じゅういち
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05 ワンコとじゃれる

 来た道を引き返す。一応、ダンジョンだから通路は沢山あるが、横たわる無数の魔物の死体があるから道に迷う事は無い。ふふ、ヘンゼルとグレーテルみたい。

 さっき気になった事を確認しようと、適当な小鬼の胸を裂いて探ってみると、小さな小石が出てきた。

「これかぁ?」

 迷宮主の大鬼騎士に比べて、かなり小さく色も鮮やかとは言えない。宝石というより鉱石に近いような気がする。

 数を集めれば、それなりの値段になるかもしれないが結構な重労働だぞ、面倒くさい。

 まだ売れるとわかったわけでもないので、とりあえず2、3個だけ取り出すことにした。



「眩しいな」

 漸くダンジョンの出口に辿り着き、外に出ると強い日射しに照らされて思わず目が眩んだ。

 徐々に目が慣れてくると、そこは草原だった。

 異世界といっても、元の世界の景色とそう違わない。ちょっと残念なような安心するような妙な気分だな。

 後ろを振り向くとダンジョンの出入り口がある。巨岩を組み合わせた単純な作りで、とても迷宮っぽくは見えないな。他のダンジョンも似たような作りなのかな?

 いつか行ってみるのもいいかもしれないが、まずは生活基盤を整えるのが先か。

 街を目指すにも、見える範囲には建物も道もない。

 急ぐわけでもないし、適当に進むか。

 気の向くままに歩き出す。

 向かう先には森がある。反対側は登り坂だったので、何となくこっちにした。

 森のそばまでくると、先程は気付かなかったが道を見つけた。馬車くらいなら通れそうな道だ。街まで続いていればいいが。

 このまま森に入って、魔物の奇襲を受けてもつまらない。入る前に、少し探ろう。


 種族『黒狂犬』 職業『狩人』


 静かに匂いを探る。ふむ、ダンジョンに比べると魔物の数が少ないな。あ、反対方向にダンジョンにいた人間たちの匂いもする。遠ざかっているな、もしかして街はあっちか?

 ん? 血の匂い、僅かに悲鳴も聞こえる。

 鼻と耳に届いた情報を頼りに、森の中へと入る。

 しばらく道なりに進むと、次第に匂いも音も大きくなっていくがここで一旦、足を止める。

 伝わってくる情報から、人間三、犬系五だな。

 人間のうち一人は極端に弱って死にかけている。実質、二対五だな。かなり危険だ。

 現場を視認できる場所までくると荷馬車とその前で戦う剣士の男がいた。戦っているのは、剣士の男一人だけのようだ。残りは荷台にいる。

 とりあえず魔物に感知されないうちに、奇襲に有効な場所まで移動しよう。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『商人』


 元の人間の姿に変身し、アイテムボックスから小鬼の弓矢を取り出す。この弓矢の性能は良くないが、そこはスキルで補うとしよう。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『狩人』


 弓を構え、静かに狙いを定める。有利なのは最初の一発、あとは状況に応じて、臨機応変に攻めるとしよう。


強射撃(パワーショット)

 スキルを乗せた矢が命中する前に、続けて二本目の矢を放つ。

湾曲射撃(トリックショット)!」

 放たれた矢は大きく弧を描いて、最初の矢とは別方向から他の犬に襲いかかる。

「ギャウゥ!」

「グッ!」

 強射撃の矢は、犬の身体を貫通し、隣りの犬の身体に食い込んだ。

 湾曲射撃の矢は、外れた。残念。

「勝手に手を出したが、構わないよな?」

「た、助かる……一番奥に、いるのは、刃牙狼(エッジファングウルフ)だ、気をつけ、ろ…」

 荷馬車を守っていた男は、息も絶え絶えに呟いた。

 犬に噛みつかれたのか、裂けた左腕から大量に出血している。

 確かに、奥にいる刃牙狼は他の犬より一回り大きく、口から伸びた二本の牙はナイフのような形状をしている。それに、その牙は血で濡れていた。

 どうやら男の腕の傷は、あの刃牙狼にやられたもののようだ。残った右腕で必死に剣を振り回して、犬たちを追い払っている。

 奇襲攻撃で犬二匹が死に、残った三匹が唸り声をあげる。怒っているな、噛み殺そうとにじり寄ってくる。

 俺は矢を二本掴むと、犬たちに背を向けた。

 目の前の獲物が背を向けた事で、犬たちは反射的に飛び掛かって来た。ここでくるりと反転。

二重射撃(ダブルショット)!」

 同時に放たれた二本の矢は、噛みつこうとした二匹の口のなかに命中し、後頭部に突き抜ける。

「グゥガアアァ!」

 絶命した二匹の陰から最後の刃牙狼が襲いかかってくる。矢を放った直後で、俺には次の矢を取る余裕がない。

 血で濡れた鋭い牙が俺の身体に届く前に、咄嗟に手にした弓を噛ませる。

 防ぐ事ができたのは一瞬だけ。強靭な顎で、木製の弓は噛み砕かれた。

 だが、一瞬あれば十分。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『格闘家』


 格闘家に変身し、巴投げの要領で刃牙狼を空中に放り投げ、前足を掴み、巻き込むように転がりながら体勢を変える。刃牙狼の上にのし掛かると、膝を押しつけてスキルを発動する。

加重圧(ヘビーウエイト)!」

 急激に増加する重量で、刃牙狼の骨が砕けて、内臓が潰れていく感触が足に伝わってくる。

 刃牙狼は血を吐き、激しく暴れていた身体から力が抜けていく。

 だが、まだ目には力がある。

 例え致命傷を負っていても、まだ負けていない、まだ死んでいない、まだ終わっていない。そう思っているんだろう。俺もだよ。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『狩人』


 俺が力を弛めた瞬間、刃牙狼が俺の首を目掛けて大きく口を開け襲いかかってくるが、その牙が俺の首を噛み切るより先に、俺はトドメのスキルを乗せた矢を突きだした。

猛毒矢(ポイズンアロー)!」

 スキルで猛毒を付与された矢尻が刃牙狼の眼窩を貫き、脳に達する。

 これで完全に刃牙狼の身体が倒れた。

 ちょっと危なかったが、何とか勝てたな。


 襲われていた男の所に戻ると、荷馬車の側で力なく座り込んでいた。

「お~い、大丈夫か?」

「あ、あぁ……こんな、とこ、で死ねないから、な。大丈夫、だよ、ははは……」

 虚ろな目で笑ってる。駄目かもしれない。

 男が座り込んだ地面に血溜まりが出来ている。相当な出血量だ。もう一仕事、必要か。

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