47 トランプしようぜ
「ん~、これ!」
リップが俺の手札から一枚選び取り、自分の手札に加える。
「はい、ハルの番」
「え~と……では、これで」
続けてハルがリップの手札から一枚取る。揃ったらしく手札から二枚捨てた。
「ではアオバ君、どうぞ」
「お、おう」
にっこり笑うハルに、アオバがちょっと照れながら一枚取る。横でルリが冷たい視線を送っているぞ。
「おらよ」
「……ん」
ルリがアオバの手札から一枚取り、顔をしかめた。
アオバがにやりと笑っている所を見ると、ジョーカーを引いたか。
「うぅ~……どぞ」
ルリの差し出した手札から一枚選ぶ。
「お、揃った」
「ちっ」
舌打ちした?
馬車移動は魔物の襲来もなく、長閑な旅路だ。
暇を持て余しているとアオバがトランプを出してきた。ルリは行きの馬車で散々やってきたので、ちょっとうんざりしているようだったが、リップが勝利者には夕食時にスペシャルなデザートを用意すると言うと、俄然やる気を出した。
ババ抜きはルールが簡単だから、トランプ初心者のハルやリップでも問題無く出来る。デザートはジョーカーを最後まで持っていた者以外で分ける事になった。
「あっ揃いました」
ハルが最初に上がったか。ルリが羨ましそうだ。
「……ほい、上がり」
俺も上がった。ルリが焦り出した。
「いえ~い、私も上っがりぃ」
リップも上がったか。ルリの目が怖い。
そんなにデザートが食べたいのか。
残された二人の間で、ジョーカーが行ったり来たりしている。
「あぁ、もう! アオバがビリでいいじゃん!」
「何でだよ! 俺だって甘い物食いてぇよ!」
余程二人の表情は分かりやすいのか、なかなか勝負が決まらない。
「この辺りは、魔物が出ませんね」
「そうだな。平和で結構な事だが、暇だな」
街道は人の往来があって、あまり魔物も寄り付かない。出てくるとしたら禁域近くかな。
俺は少し声を落とし。
「例の計画の犯人。ハルは何か気付いたか?」
「いえ、流石に見た目だけでは何とも……ボルターさんが目を光らせてはいますが、全員を見張るのは難しいでしょうね。おそらく囮役の者が禁域の吸血城に入る前に取り押さえられ、ボルターさん達の注目がそちらに向いている隙に事を成すつもりでしょう」
多分、そうだろうな。だとすると手紙を渡すのは早い方が良いか。
「手紙は今夜にでも渡した方が……」
「えぇ。ボルターさんは殿下が認めた方ですし、一晩あれば良い策を考えて下さるでしょう」
トランプの決着がついたのか、ルリが両手を上げて勝どきを上げている。
「よっしゃああぁ!」
その傍らでアオバが落ち込んでいる。
「いや~私の料理でここまで喜んでくれるなんて、嬉しいねぇ」
リップもニッコニコだ。
「甘い物の魅力ってのは、デカイんだな」
「僧侶として教会に勤めていると、甘い物なんて滅多に食べられないでしょうから」
だがルリよ。興奮してガッツポーズを取るのはいいが、アオバを足蹴にしたら駄目だろ。従者の本分を忘れるなよ。
禁域までの旅路もあと僅か。今日はここで野宿だ。
「さぁて準備開始だよ」
調査隊から少し離れた場所で料理をする為のテントを張り、リップとハルが料理担当、残りが細々とした雑用担当する。
竈になる石壁を作ろう。
種族『人間 伊織 奏』 職業『魔法使い』
『土よ、厚みのある壁となれ 石壁』
程よく加減して、腰ほどの高さで壁が止まる。次は器具を置く穴だな。
『土よ、円柱の穴を穿て 土掘削』
壁の中に二つの縦穴が出来た。続けて下に薪をくべる穴を開けて完成だ。
「薪割り出来てるか?」
アオバとルリの作業を見ると、なかなか手際が良い。
アオバが斧で割り、ルリが鉈で細かく割っている。
「へぇ、手慣れてんな」
「俺は、これでも剣士だぜ。刃物の扱いなんてチョロいっての」
「王都の教会でも、こういう作業はよくやってましたから」
割れた薪を竈にくべて、火をつける。
『火よ、火力を調整し長く燃えよ 火力調整』
燃えすぎないように少し火力を調整する。
「器用な事するね。まぁ料理人に掛かれば、その辺の調整も出来るんだけどね」
大鍋を竈に乗せながら、リップが竈の火を強めた。
料理人スキルには、火や水の魔法適性があるらしい。戦闘が出来る程強くはないが、調理に使う水を出したり竈の火を調整したり何かと便利な能力だ。
大鍋の隣に鉄板を置く。
「料理人スキルにはこんなのもあるんだよ。『温度調整』」
リップの触れていた鉄板が、あっという間に熱を帯びた。
「触れている物の温度を上げたり下げたり出来るのさ」
材料の保存なんかには、重宝するようだ。竈の火や薪は必要無かったかと思ったが、このスキルを継続して使うのは疲れるそうで、あくまでも調理補助のスキルだそうだ。
「それでも便利なスキルだな」
「まぁね。デザートには氷菓を用意するから、期待しててよね」
温度調整で氷菓作りか。なるほど、今度真似してみよう。
夕食は、大鍋で炊いた粥と何かの調味料に漬けた肉の鉄板焼きだ。
禁域を前にして、最後の食事だ。調査隊も王都を出て長旅だったから、疲れが溜まっている。胃腸に易しい粥はありがたいだろう。
肉も驚くほど柔らかく、噛みきりやすい。白い調味料の効果かね?
それぞれ料理を受け取ると、適当にバラけて食事を取っている。日中の索敵で働いた鳥や犬達、従魔にも食事が与えられる。
一足先に食事を終えたリップが食後のデザート作りを始めた。大きめのボールに果物の果汁とほぐした果実を入れて勢いよく混ぜていく。
温度調整スキルを使っているらしく、かき混ぜた果汁がボールの中でみるみる凍っていく。
「ふぃ~、シャーベットの完成だよ」
調査隊の希望者と昼間のトランプで負けたアオバ以外のメンバーで分け合う。
「ん~冷たくて美味しいですね」
「甘い物、久しぶりですぅ」
ハルやルリが嬉しそうに味わっているとアオバが声をかけてきた。
「おっさん、ちょっといいか」
「デザートなら、もう無いぞ」
空の器を見せる。
「ちげぇよ……あのさ、おっさんって俺と同じ転移者なのか?」
あぁ、そっちか。隠し切れるもんでも無いし、当たり障りのない部分だけならいいか。
「まぁ、似たようなもんだよ。あまり大っぴらにはしたくないんで、言いふらさないでくれよ」
「やっぱ、そうか。イオリって日本語みたいな響きだったから、そうじゃないかと思ったんだよ。て事は、おっさんも転移する前にスキルをもらったんだろ? どんなスキルだよ」
興味本位で踏み込んでくるなぁ。けど、言うわけないだろ。
「内緒だ。お前も自分の手の内はあんまり見せるなよ」
「え? 何で?」
何でって……。
「敵にバレたら面倒くさい事になるだろ。対策取られたり、弱点を突かれたり」
「何言ってんだよ、魔物にそんな知恵無いって」
コイツの想定している敵は、下級の魔物だけか。
「魔物だけが敵とは限らないぞ。それに魔物の中には人間より知恵のある奴もいるだろうしな」
「ふ~ん、考え過ぎじゃねぇの?」
「そのくらい慎重に行動した方が良いって話だよ」
いまいちピンと来ないのか。話し半分でも心に留めてくれればいいんだが。




