46 オマケ付き
「調査隊に同行する冒険者は三人か……馬車で運んだ物質を運搬してもらいたい。アイテムボックススキルはあるかな?」
「俺が使える」
「私も使えるよ」
どうやら調査隊が、アイテムボックススキル持ちを同行させたいとギルドに注文していたようだ。だから俺やリップに話が来たんだろう。
ボルターが案内した馬車の駐車場で、王都から運んできた荷馬車の中身をチェックする。
複数の馬車が停まっていて、乗り心地の良さそうな豪勢な馬車もあれば、頑丈さに特化した造りの荷馬車もある。この荷馬車には大量の木箱が積んである。
この荷物をアイテムボックスに入れて禁域へと向かうようだ。途中までは馬車移動だが、禁域に近付くほどに道が悪くなるので、ある程度近付いたら徒歩で移動する為、大量の荷物を運ぶ人手としてスキル持ちの冒険者を雇ったようだ。
禁域調査隊記録係の文官三人、護衛の騎士五人、護衛の魔法使い三人、封印を確認する為の僧侶二人、隊長一人、合計十四人分の食料やら予備の武具やら野宿の為の道具類やら合わせて荷馬車二台分の荷物。
「これを二人で運ぶのか……」
「ちなみにこれとは別に、私ら冒険者側の荷物も運ばなきゃいけないんだぞ」
そうは言っても冒険者の荷物は、調査隊の荷物に比べて少ない。必要最低限の物しか持たないからな。
「これ全部入りますか? 無理そうなら私が背負いますが」
ハルが無茶な事を言うが、どうだろう。入るかな?
荷馬車に乗って荷台の奥に進む。
「……!」
ん~?
「誰だ、お前ら?」
木箱の陰に隠れている奴らがいる。明らかに怪しい。
「ちょっ……! ま、待って……引っ張んなって!」
とりあえず小僧を捕まえて外に出す。王国の馬車に盗みに入るとは恐れ知らずな奴だ。
「どっから紛れ込んだか知らねぇが、逃げらんねぇぞ」
「逃げやしねぇって!」
「ぬぉ! 貴様、アオバではないか! それにルリまで……どうしてお前達がここにいる!」
何だ? ボルターの知り合いか。
「調査隊に参加させてくれる約束だろ。なのに直前になって留守番なんて、あんまりじゃねぇか!」
「そ、それは仕方なかろう。直前であの騒ぎがあって指揮権が他の者に移ってしまい、新たな責任者がお前達の同行を許可しなかったのだから」
「そうよ。上の決定なんだから素直に王都に居ればいいのに……アンタが無茶するから私まで付き合わされて、いい迷惑よ」
「だったらルリは王都に残れば良かったじゃねぇか!」
「アホなの? いえ、アホね! ほんっとアホだわ。勇者一人好き勝手させて、もしもの事があれば私の立場が無くなるのよ、このアホ!」
今、勇者って言ったか。
こちらを無視して口喧嘩を始めた二人は放っておいて。
「え~と、あの小僧が勇者? マジで?」
「う、うむ。一応、秘密で頼む。今は修行中の身だからな。今回は、予定ならば経験を積む為に同行させる筈だったのだが、急遽変更になってな」
「それが不服で、ここまで付いて来たと。どうすんだい、連れていくのか?」
「うむむぅ……」
ボルターの言っていた騒ぎってのは、お姫さんが倒れたってやつか。
それにしても、勇者っているんだ。
「なぁハル。勇者がいるって知ってたか?」
「いえ、私も初耳です。他国には何人かいるとは聞いた事がありますが、この国ににもいたとは……しかし、まだまだ実力不足ですね。私なら直ぐ様、倒せそうです」
ハルは、静かにあのアオバとかいう勇者の力を推し測っている。
確かに。見た感じ、俺でも倒せそうだ。まぁ、修行中の身って言ってたからな。
そうこうしていると、アオバの頭に手甲を付けたボルターの拳が落ちた。
頭を押さえて、無言で地面を転がるアオバ。
「お前達は、荷馬車の荷物を見てくれ。二人の事は明日の出発までには決める」
「へ~い」
さて仕事に戻るか。
荷馬車二台分の荷物。とりあえず生活雑貨や食料はリップが持ち、戦闘用の武具や薬品は俺のアイテムボックスに入れた。
最終的に荷馬車の荷物は全て入ったが、自分たちの荷物までは入りきらず俺とハルが背負う事となった。
アイテムボックスに空きがあれば問題無かったんだが食料等の荷物も三人分ともなると結構な重さだが、ハルは軽々と背負い。
「うん、問題無いですね」
「マジかよ」
俺の荷物の倍くらいあるのにな。強化魔法無しでも、三人の中で一番力があるんじゃないかな。
「ふむ、これで準備は整ったな。では明日の朝、この場所を集合場所とする。遅れるでないぞ!」
ガシャガシャと音を立てて、鎧姿のボルターはアオバとルリを連れて併設された宿屋に入っていった。
「……どうなるんでしょう」
「まぁ、俺達が気にしても仕方ない」
「だね。もう荷物も持てないし、連れていくなら自分の荷物は自分で持ってもらわなきゃね」
さて、どうなるか。
ボルターも封印を解こうとする奴を警戒しなきゃならん筈。子守りなんて面倒な事をしている暇もないと思うんだが。
翌朝、待ち合わせの駐車場で隊員と顔を合わせた。
軽装の鎧姿の騎士に混じって、頭から足先まで防具を装備したボルターが目印になって目立っている。
この中に悪さする奴が混じっているのか。
騎士か魔法使い、あるいは僧侶か。封印を破るならそれなりのスキル持ちだろうしな。
隊員達がそれぞれの馬車に乗り込んでいく。
どんな話し合いがあったか知らないが、アオバとルリは連れていくようだ。
調査隊が乗る馬車に余裕は無いので、彼らは俺達と同じ乗り心地の悪い荷馬車に乗る。
「道中の索敵はどうするんだ? 馬車の中に居ちゃあ出遅れると思うんだが」
「案ずるな、索敵に適した魔物は連れておる」
どうやら隊員の一人が従魔術士らしく、二羽の鳥を連れている、他にも魔犬もいる。鳥の目と犬の鼻があれば、近付く魔物を見逃す事も無いか。
これまでの道中でも能力を発揮してきたようだ。
隊員達が馬車に乗り込み、荷馬車に冒険者組とオマケの二人が乗り込む。
「では、出発!」
鎧姿のボルターが先頭の馬車に乗り、号令をかける。
続いて調査隊の隊員を乗せた三台の馬車が進み、最後に俺達が乗る荷馬車が行く。
「あっちの馬車は乗り心地が良さそうだな」
こっちの馬車はガタガタと揺れる。
「しゃあないよ。私ら雇われだし、自前で馬車用意しろって言われないだけマシだよ」
目的地まで馬車で一日掛かる。途中で、野宿だな。
「私、アケルの街で冒険者をしております、ハル・ウェルナーと申します。勇者の方にお会いするの初めてなんですよ。よろしくお願いいたします」
「俺は伊織。冒険者としての経験は浅いから、あんまり頼りにならんかもだけど、よろしく」
「私はリップ、料理人だよ。道中のご飯は私が担当するから」
こちらが自己紹介すると。
「ふ~ん、まぁよろしく」
アオバが片手を上げて答えた。随分とぞんざいな態度だな、と思っていると。横に座るルリの手刀がアオバの喉を突いた。
「連れが申し訳ありません。己が希少な存在だと少々、調子に乗っているようで。コイツはアオバ、勇者候補です。私は従者を務める、ルリと申します」
悶絶するアオバは無視して、ルリが頭を下げた。
「ん? 勇者候補? まだ勇者じゃないって事か?」
「はい。ボルター様が言っていたように、コイツはまだ皆さんの足元にも及ばない未熟者ですから。勇者候補から覚醒勇者へと至る為の試練すらまだ受けられません」
どうやら勇者の卵ってわけか。
その試練をクリアして漸く本物の勇者と言えるのか。
ただ一般人からしてみると候補でも十分強いので、覚醒勇者になっていなくても勇者と呼ばれるらしい。
「もっとも、コイツはまだ勇者と呼ばれるには強さが足りませんから。今回の旅にはどうしても参加したかったみたいです。ご迷惑をお掛けするかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」