45 出発前日
剣将軍に斬られた足を治して、改めて残りの素材を集める。薬品の効果も消えて、解体していても魔物は寄ってこないようだ。
魔犬から毛皮と魔石、牙熊から毛皮と牙と魔石、猪鬼から肉と魔石、虫はほとんど何も取れず、ゴーレムから魔石、ゴブリンから魔石。
一日の稼ぎとしてはまぁまぁかな。
残った残骸は焼却処分して帰るとしよう。
森での連戦で、結構な返り血を浴びてしまい街への帰り道、街道を行く人々から不審な目で見られてしまった。後で洗濯しよう。
「イオリさん……もう少し身嗜みに気を使いましょうよ」
「ま、まぁ……気をつけるよ。素材の査定を頼む」
冒険者ギルドのアーリに血塗れの服を軽く注意され、若干居心地が悪い。さっさと帰ろう。
「ところでイオリさん。王都から禁域調査隊がやって来るのをご存知ですか」
「……あぁ、噂で知ってるよ」
成り行きで騎士団入りしているんだが、バレたら不味いかな?
「実はその調査隊に同行する依頼が来てるんです。内容としてはほぼ雑用なんですけどね。この依頼、イオリさんにお願いしたいんです」
すでに同行するつもりだったけど、冒険者として同行した方がいいのかな?
アーリが周囲の目を気にしながら、顔を寄せてきて。
「あの……ハルから聞いたんですが、騎士団に入ったんですよね?」
「あ、バレてんのか。やっぱり不味い?」
「そうですね。冒険者ギルドと国は、ある程度の距離を取るべきというのが表向きの見解ですから」
表向き?
「そうは言ってもお互いに相手の内情は知っておきたいという事で、暗黙のルールとして少数に限り両方に所属するのを認めているんです」
はぁ~成る程。
ちなみに国軍に所属している事は、言い触らさないで欲しいと言われた。人によっては両方に所属する事に良い顔をしない者もいるとの事で、このギルドでも知っているのはアーリとギルドマスターだけだそうだ。
「人によるんですけど、中には国軍に協力する人を裏切り者呼ばわりするくらい嫌ってる人もいますので」
そうなってくると国軍が出した依頼には、なかなか引き受け手がいないそうだ。
「今回の禁域調査隊も本音としては、ギルド側ももっと関与すべきなんですけど、国主導の仕事だとどうしても騒ぐ人がいて……正直、ハルやイオリさんがいて助かってます」
「そんなに感謝されるとは……報酬は期待しても?」
「いえ、国軍から支払われる報酬は少ないですね。依頼内容が調査隊補助という名の雑用なもので。おかげで余計に引き受けてくれる人がいないんですよ。足りない分はギルドの方で、何らかの優遇処置をするという事でお願いします」
優遇処置。つまり、貸し一つって事か。
今回の禁域調査隊の仕事は、面倒が有りそうなのに。
文句を言いたい所だが、事前に知った情報を迂闊に喋る訳にもいかないな。
翌日、冒険者ギルドの近くでハルと出くわし禁域調査隊がアケルに到着したと知らされ、そのまま第八騎士団の隠れ宿へ来た。
部屋に入ると、皮鎧姿のお姫さんとオースが出迎えてくれた。
「調査隊が到着したようだな。連中はこの街で一泊し、明日の朝に禁域に出発する。隊長のボルター・カルクイードには、まだ私の事は話すな。奴の事は信頼しているが、あまり腹芸の出来る奴じゃないんでな。下手に話して隊に紛れ込んでいる賊を見つけようと動いたら台無しになりかねん。奴には禁域に到着してから私の手紙を渡せ」
お姫さんは直筆の手紙をハルへと手渡した。
何でも緊急時の符丁が記してあるので信用してもらえるそうだ。
「いいか、調査隊が現場に到着する頃に、私を閉じ込めたままと思い込んでいる奴らは他国の使者と取り引きをする筈だ。私達はその取り引きを潰し、連中を捕らえる。お前達はボルターと協力し不審者を捕らえよ、場合によっては始末しても構わん。他国の者が介入しても同様だ」
随分と強気だな。他国の者を捕えるか、殺せか。
自国の立ち入り禁止の警戒区域に足を踏み入れた時点で国の法に触れているって事か。
それにしても、気のせいだろうか。お姫さん怒ってないか?
いや、怒るというより気が立っている感じか。
かなり気合いが入っているな。考えてみれば自分を売り飛ばそうした奴に、これから反撃するんだから心の奥底では荒れに荒れまくってるだろうな。
「一つ聞いておきたいんだが」
「何だ?」
「禁域に封じられている魔物について。上級吸血鬼と聞いてるけど、もう少し詳しく教えて欲しい……万が一に備えて」
どうにも気になるんだよな。上級とはいえ弱点の多い吸血鬼を倒さずに封印し続けているのが。何らかの理由があるんだろうけど。
「いいだろう。封印されているのは城主吸血鬼。拠点としている場所では魔力、防御力などが上昇するスキルを持つ特殊な魔族だ。弱点は聖魔法か日の光りだと思われるが、記録では三日間、戦い続けても殺し切れず已む無く封印する事となったそうだ」
ふむ、聖魔法でも日光でも死なないアンデッドか。
復活したら面倒この上ない。注意しよう。
でも、魔王には顎で使われる奴なんだから無敵というわけではない筈だよな。完全に殺すには何か条件があるんだろう。
「もし封印を解かれた場合、出来得る限りの情報を収集し、ボルターの安全を確保しつつ街まで後退しろ。魔物は再封印するまで放置する事になっても構わん。無理に立ち向かおうとは考えるな」
そうは言っても、封印が解けて吸血鬼が自由になったら一番最初に狙われるのはアケルの街だろう。
もしもの時は、あらゆる手を使ってどうにかしないとな。
隠れ宿を出たハルと俺は、調査隊の隊長さんと顔合わせする為に冒険者ギルド前で待ち合わせした。
「そう言えば、ハルは一人で参加するのか? シンクとペレッタはどうするんだ?」
「二人はお留守番ですね。流石に今回の禁域調査には連れて行けません」
封印解除を目論む奴が何をしでかすか、わからないもんな。
「じゃあ、参加する冒険者は俺とハルだけか」
「いえ、あと一人いるそうですよ」
あと一人? 一体誰が、と問い掛ける前にギルドから見覚えのある赤毛の女が出てきた。
「ちぃ~す」
「あら、リップ。イオリさん、この子がさっき言っていた三人目ですよ」
「よろしくぅ。料理人のリップだよ、禁域の素材に興味があって参加したんだ。どんな素材でも料理してみせるから楽しみしててよ」
うげげ、コイツかよ。
しかも禁域の素材を料理するだと? 怪しげな物を食わそうとするな!
「おま……!」
文句を言おうとするが、それよりも視線の先に見えた異物に驚き言葉を失った。
完全防備の全身鎧で通りを闊歩する騎士がいた。
通りを歩く者がその異様な姿に驚き道を開けていく。
派手な飾り細工を施した兜を被り、分厚い金属鎧に身を包んだ騎士は俺達の近くへ来ると。
「失礼、私はアーク王国所属禁域調査隊隊長のボルター・カルクイード男爵である。その方達は調査隊に同行する冒険者かな?」
「お……おう」
頭二つ分は大きいボルターの問い掛けに、思わず吃ってしまった。
何でコイツ、街中で鎧なんか着てるんだ?




