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千変万化!  作者: 守山じゅういち
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41 怒りの鉄拳

 とりあえず、あの木箱を念入りに調べるか。

 確かバンシャー商会で扱っている美術品って言ってたな。


 種族『怨霊 伊織 奏』 職業『魔法使い』


 倉庫の壁を通り抜けて、中へ侵入する。生物ではない怨霊なら、ゴーレムには感知されないようだ。

『念の為、ゴーレムの術を機能停止させておくか』

 彫像に掛けられたゴーレムの術に、ゴーレム解除の術を上書きする。

 ゴーレムがただの彫像になった所で、木箱を開ける。

 怨霊の念力スキルで箱を解体すると、中の美術品が露になった。

『おや?』

 中に入っていたのは石像だった。美術センスが無いからなのか、何だか大雑把な作品に見える。

 モチーフは何だろう? 木? 滝? 

 こんな物に金を払うのか?

 それに、作品を保護する綿やおが屑も無しか。

 普通、運搬時に壊れる事を恐れて緩衝材で囲むんじゃないのか。

『まさか、この中に……』


 種族『怨霊 伊織 奏』 職業『狩人』


 石像の中が空洞になっていて、そこに閉じ込められているんじゃないかと考え、生命感知で探ってみるが反応はない。直に石像を通り抜けても、石だけだ。空洞はない。

『違ったか……』

 う~ん、どういう事だ。ハルの読みが間違っていたのか……或いは、俺が何かを見落としている?

 倉庫内をウロウロしても、隠し扉の類いなど無い。

 他の木箱を通り抜けても、中は石像だった。沈黙させたゴーレムの中も石しか無い。

『バンシャー商会が罠まで仕掛けた場所だ。きっとこの倉庫に被害者達がいる筈なのに……』

 さて、どうしたものか。こうなったら死霊術で、亡霊達に周辺を隈無く探させるか。それこそ地面の下も潜らせてみるか。

 もしかしたら骨の一本でも見つかるかもしれない。


 種族『怨霊 伊織 奏』 職業『死霊術士』


 ふと木箱から出した石像に目をやると、死霊術士の瘴気視スキルが石像の濃い瘴気を確認した。

 何だ? 何故、ただの石像にこれだけの瘴気が?

 そう言えば、呪術士の術で確認した時に見た木箱に絡み付く思念は、中身が美術品だという事で、てっきり作品に対する強い思念だと思ったが。


 種族『怨霊 伊織 奏』 職業『呪術士』


 術式操作スキルで注意深く観察すると僅かに反応がある。

 この美術品は、一部に呪術が使われているのか?

 これだけの大きさだ。手作業で作るより魔法を使って作る方が効率的だろう。その場合、痕跡として残るのは魔力残滓か状態維持の為の魔法術式だ。

 そして、そう言ったモノは()()()()()()()では確認出来ない。呪術士が確認出来るのは、呪術の痕跡だけ。

 呪術の痕跡、強い瘴気、つまり呪い。

 呪われた石像。違う、呪いで作った石像。

『石化だ!』

 呪術による状態異常の一つ、石化によって人を石に変え、その上から土魔法を使い石を被せる。

 そうする事で、生きた人間を探している者の目を誤魔化し、捕らえた者の生命維持や逃亡の恐れを無くしたわけか。一石二鳥だな。

 まずは、確認だ。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『魔法使い』


『石よ、形を変え流れ落ちよ 変流化石(チェンジングストーン)

 ゆっくりと石像の表面が流れ落ち、中から別の石像が出てきた。石化によって石にされた女性の像だ。

「とりあえず、この女性だけ確保しておくか」

 アイテムボックスに女性の石像を仕舞うと、床に溢れ落ちた液状の石を同じ形に成形し直した。

「あとは木箱に戻して……これで良し」

 仕組みは暴いた。証人となる女性も石化したままだが確保した。今は、これで十分だろ。

 バンシャー商会が人身売買で保管している倉庫が、ここだけとは限らない。今、騒いで黒幕に逃げられでもしたら面倒この上ない。

 獲物を仕留める時は、確実にやらねば。



「えっ! 拐われた人を見つけたんですか!」

 翌朝、倉庫番を交代してギルドで報酬を受け取りクエストを終了させると、再び倉庫近くに来た。

 監視の為に隣接する倉庫の陰でハルと合流し、判明した事を伝えた。

「そうですか、石化を利用して隠していたんですね。気付きませんでした……」

「まぁかなり特殊なやり方だと思うし、気付かなくても仕方ないだろ。それより俺が確保した女性像の石化、ハルなら解除出来るだろ」

「はい、状態異常の石化なら問題なく……それにしてもこの石像の女性、何だか見覚えがあるような?」

 アイテムボックスから取り出した石像を眺めて、ハルが首を傾げた。

「この街の住人なんじゃねぇの。同じ街に住んでいたなら顔を見た事があるんだろ」

「でも、この女性の服装を見る限り、上級貴族が着るような上等な服ですよ。この街にこんな貴族の方、いたかなぁ?」

 アケルの街は、どちらかというと辺境の街だ。街に住んでいる貴族の数なんて数える程だ。

「じゃあ他所の街の貴族なんだろ。石像に閉じ込めてから仕入れた商品としてバンシャー商会が街に運び込み、買い手が付いたら堂々と街から出して、買い手の下で石化を解除するって感じだろ」

「手順としてはそうなんでしょうけど……う~ん、引っ掛かるなぁ」

 昔の知り合いか、一度しか交流のない人間なんだろ。それより今は、調査をどうするかだ。

「どうするんだ。バンシャー商会の倉庫を押さえるだけじゃ駄目かもしれないぞ。広範囲で悪さしているなら、バンシャー商会だけでやっているとは限らない。下手に動いたらバンシャー商会を切り捨てて、他が逃げてしまう」

「そうですね。思っていたより敵の規模が大きいですから、個人で動くと不味いですね。一度上に報告して、他の騎士団にも増援を要請しないといけないでしょう」

 悔しいが、今は連中を見張る事が精一杯だろう。

「イオリさん、私と一緒にランスの所へ来て貰えませんか? 倉庫の中の様子も直接知らせて欲しいので」

「まぁそれくらいなら。だが、あまり深入りしたくは無いから、そこまでにさせてもらうぞ」

「もちろん。もう十分に協力して頂きましたから。と言うか、すでに危ない橋を渡らせているので、その事で私が怒られると思いますぅ」

 それもそうか。内部調査に証拠品の押収。本来、部外者の俺がやっていい事じゃない。

 この街の法律がどうなっているのか知らないが、下手すると捕まりそうな気がする。



 第八騎士団が拠点としているのは、以前二級騎士のオースが報告書を書いていた宿屋の一室だった。

 この宿屋。裏路地にある何の変哲もない、普通の安宿に見せ掛けて、第八騎士団の息がかかった宿屋だった。

 ハルに連れられてやって来た俺を警戒しつつ、二階へと通された。

「おいおい、何で兄さんまで一緒に来てんだよ」

 部屋の扉を開けたランスが呆れた顔で出迎えた。

「兄さん?」

「コイツが勝手に言ってるだけ、気にするな」

 部屋の中には、ランスとオース。そしてハルと俺の四人。ちょっと狭いな。

「ハル、例の任務はどうした」

 オースがハルを問い質す。

「倉庫内への侵入は失敗しましたが、こちらのイオリさんの協力により倉庫内部から違法な人身売買の被害者と思われる女性を一人保護しました」

「何、本当か!」

 ハルに促され、アイテムボックスから女性の石像を取り出した。

 ランスとオースに、俺が倉庫内部で見た物を全て伝えると、ハルと同様に驚愕していた。

「なんと……石化の呪いか」

「道理で見つからないわけだぜ。こりゃあバンシャー商会だけじゃねぇ。どっかの上級貴族も絡んでんな」

 ランスとオースが今後の対応を協議している間に、呪いを解除してやるか。

 女性が元に戻れば、更に情報が聞き出せるだろう。

「ハル、呪いを解除しよう」

「そうですね、では」

 この女性像、ちょっと前傾姿勢なんだよな。

 石化を解除したら倒れそうだ。受け止める為に、女性像の前に立った。

 ハルの石化解呪の魔法効果によって、石像の表面が硬い石から暖かみのある柔肌に変わった。

「うん、無事に……」

「死ねぇ! 賊がっ!」

 石像から人間へと戻った女性の右拳に打ち抜かれて吹き飛んだ。

「えっ! イオリさん!」

「何だよ、どうした?」

 困惑するハルとランス。だがオースだけは、俺を殴り飛ばした女性を見て、驚きの余り小刻みに震えながら。

「ま、まま、まさか、ピナリー殿下ですか!」

 誰やコイツ。

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