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千変万化!  作者: 守山じゅういち
40/142

40 バンシャーは黒

「バンシャー商会に向けられた疑いを逸らすには、疑っている者自身に確認させた方が良い。この街で暗躍するバンシャー商会が一番厄介だと思う者は、この街に属さない者。つまり国軍だ。その中でアケルの街で動いているのは第八騎士団の者」

 半ば強引な推測だな。でも、一つの街に別々の騎士団が活動するとは思えない。それに手段を選ばず伸し上がろうという商会だ、街の役人程度は買収している筈。

 表立って調査しようとしても妨害されるだろう。

 それでもバンシャー商会の調査をするならば、秘密裏に活動するしかない。

「国軍と冒険者ギルドは馴れ合わない」

「!」

「悪党を捕まえるのは冒険者の仕事じゃない。まして悪事の調査なんて冒険者に任せるわけがない。だとすると今ここにいるお前は、国軍に所属していると俺は思うんだが、どうかな」

 それまで大人しく話しを聞いていたハルが、縛っていた縄を引き千切り立ち上がった。

「大まかな所は合ってます。私はDランクの冒険者であり、第八騎士団三級騎士ハル・ウェルナーです」

「掛け持ちってアリなのか」

「あ~、その事は極秘でお願いしますぅ。イオリさんが言った通り、国軍とギルドにはちょっと壁がありましてぇ、ハッキリと規則があるわけじゃないんですけどぉ。バレると色々と都合が悪いんですぅ」

 土下座でもしそうな勢いで拝み倒す。

「シンクとペレッタは違うのか」

「二人は違いますよ。国軍に所属しているのは私だけです」

 ハルも元々はただの冒険者だったが、放置されていた貴族の屋敷の提供や孤児院の援助などを条件にスカウトされたそうだ。

「一応、シンクとペレッタは事情を知っていますが、ギルドには内緒にしてるんです。情報の横流しなどはしない約束にはなっているんですが、国軍のスパイと思われても仕方ないですからね……それでも、私は街の人達を守る為なら、どんな敵にも立ち向かいますよ!」

 ふむ、その言葉に嘘は無いだろう。

 その決意の下、バンシャー商会の悪事を暴露する為にこの倉庫に来たのか。

 だがそんな事は相手も予想している筈。

「この倉庫を調べるのは止めた方が良いな」

「どうしても、邪魔をするんですか」

 今度は本気で俺を倒す気だ。

「この倉庫には罠が仕掛けてある。俺なら疑いの目を誤魔化すだけじゃなく、侵入者の排除も狙う」

 貧民区で小屋に罠を仕掛けた事がある。あの時は中に閉じ込めた奴らが逃げないように、致死性の罠を仕掛けた。今回は外から侵入する奴を始末する罠があるように感じるんだ。

 その方がバンシャー商会にとって都合が良い。

 冒険者ギルドに倉庫番の依頼を出し、第三者の冒険者に倉庫の侵入者を発見させるのが目的か。

 倉庫に侵入しようとする国軍の者が、冒険者を殺すとは考えにくい。気絶させるか或いは気付かれないように侵入するか。

「俺なら正面から扉を開けようとする奴を攻撃する罠を仕掛ける。毒か、もしくは魔法トラップ。扉以外の場所から侵入する奴には中で始末できるように……そうだな、倉庫内を真空にして窒息させるかな。結界魔法で出来そうだ」

 ハルが信じられないとでも言いそうな顔でこちらを見ている。

 そんな事は無いとでも思っているのか?

「悪事を働くような奴が仕掛ける罠だぞ? これくらいはあり得るだろうが」

「いや……よくそんな事を思いつくな、と」

 俺に呆れてんのか。

「悪党ならこのくらいやるだろ、普通。まさか何も警戒せずに扉を開けるつもりだったのか!」

 冒険者だろうが! ダンジョンで罠を警戒したりしないのか?

「そ、そうですね。強化魔法で強化しておけば行けるかなぁって」

 コイツ、そう言えば闘技場で戦ったりするんだっけ。パーティーでも前衛だと言ってたな。だから基本、正面からぶつかりにいくのか、脳筋め。

「最悪、証拠隠滅に倉庫ごと吹き飛ばす可能性もあるんだから、慎重に動けよ」

「す、すみません」

 先ほどまでの気迫はどこにいったのやら。

「とにかく今夜は諦めろ。中を確かめるのは俺がやってやる」

「イオリさんが? でも巻き込むわけには……」

「お前がやるよりマシだ。それに誰がやるかなんて気にするより、問題を解決する方が大事だろ」

「……そうですね。分かりました、イオリさんにお任せします。私は離れた場所で待機して見張ります」


 種族『人間 伊織 奏』 職業『召喚術士』


『主の呼び声に応えよ 召喚・白鼠(ホワイトラット)

 一匹の鼠をハルに預けて連絡係にする。

「明日の朝、倉庫番を交代した後に中を調べる。何か見つけたら鼠に知らせる。それまでは動くなよ」

「はい、イオリさんも気を付けて」



 それにしても倉庫番の仕事をチェックする奴が来ないな。やっぱり侵入者が罠にかかるのを待っているのか?

 夜も更けてきた。このまま朝になるのかと思ったが、一人近づいてくるな。

「……この倉庫に何か用か?」

「アケル」

 漸くチェックが入るのか。

「バンシャー。随分と遅かったな、もう来ないのかと思ったぜ」

「いつ来るかなんて教えるわけないだろ」

 無愛想な男は倉庫の扉の前に立ち、幾つかの手順を踏んで扉に手をかけた。扉の罠を解除したな。

「倉庫の中を見ても良いか?」

「あぁ、構わん」

 あれ? 良いの? 許可なんて下りないと思ったのにな。

 倉庫の中は大きな長方形の木箱が幾つも並んでいた。

 特に怪しい物は無い、罠の気配も無い。流石に倉庫内の罠は俺の考えすぎだったか。

 暗い倉庫内を進むと巨大な彫像があった。

「これは、ゴーレム?」

「そうだ。万が一、侵入者がいたらコイツが起動する仕組みになっている」

 なるほど、広い場所では鈍重なだけのゴーレムも、狭い場所なら脅威的な存在だな。

 倉庫は木箱とゴーレムだけか。

「木箱の中身は?」

「商会で扱っている美術品だ。触るなよ」


 種族『人間 伊織 奏』 職業『狩人』


 狩人の生命感知スキルには引っ掛からない。

 倉庫内には、俺とチェックに来た男だけ。人身売買の被害者はいない。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『呪術士』


 呪術士の術式操作スキルでも木箱に術の気配は無い、ただの木箱だ。感じるのは彫像に掛けられたゴーレムの術と扉付近の魔法罠の気配だけ。

『想いをこの目に 想念視(メモリーアイズ)

 最後に木箱にどれだけの人の思念が纏わりついているか確認すると、かなり強い想いがついているのがわかった。

 ただ、この木箱の中身が美術品だとすると製作者の思念かもしれないので、現状では判別出来ない。

「おい、もう出ろ」

「あ、あぁ。すぐ出るよ」

 扉を閉めると再度、罠を仕掛けて男は去っていった。

 影蛇でも潜ませようかと考えたが、勘の鋭い奴だと気付かれるかもしれない。今は止めておくか。

 さっき倉庫の中身を俺に見せたのは、証人にする為だろうな。もし国軍があれこれ探りを入れてきても、探している被害者達は居なかったのを第三者の俺が確認している。

 バンシャー商会の狙いは、今夜倉庫に入り込もうとした奴に騒ぎを起こさせて捕縛し侵入した罪を問う事で、あわよくば調査を諦めさせる事か。いくら国軍に強い権限があったとしても問題行動が明るみに出れば、手を引かざるを得ないだろう。

「さて、どうするか」

 おそらくバンシャー商会は、黒。人身売買の証拠を見つけるには、被害者達を救出するのが手っ取り早い。

 ハルもそう考えて、ここに来た。

 だが倉庫内に生命反応は無かった。まさか、死体を売り買いしているわけでは無いだろう。多分、木箱の中身を調べられても、バンシャー商会は困らない筈。

「う~ん」

 被害者達はどこへ?

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