37 ランクアップ
ひとまず悪魔剣パルスをカルンに預け、最終的な磨きと鞘などを作ってもらう。
ランスは貧民区に置いてきた捕虜を回収し、他の仲間に引き渡しに行った。他にも捕虜の尋問やら調査等で、色々忙しいらしい。
俺もギルドで受けた素材採取のクエストがある。幻夢茸と吸血花は確保出来た。あとは千年幼虫だ。
再び、森へ。
忘れていたが蜂達の捜索は終了していた。召喚していた大牙女王蜂には俺がすでに幻夢茸と吸血花を得ている事は伝わっていて、蜂達は残った千年幼虫を集めていた。
俺が大牙女王蜂の所に戻ると、そこには森中から集められた千年幼虫が、大牙女王蜂の下に転がっていた。
芋虫姿もここまで大きいと気色悪さよりも、むしろ可愛げを感じてしまうな。
昆虫類の黒々した腹とワシャワシャ動く脚は苦手だが、丸々とした幼虫の姿には思わず看取れてしまう。
だが、素材は素材。金の為、気持ちを切り替えて、千年幼虫達を袋に詰めていく。一匹三、四十キロほどの重さがある。このまま街まで運ぶのは難儀しそうだ。
「運搬用に魔物を呼ぶか」
種族『人間 伊織 奏』 職業『召喚術士』
『主の呼び声に応えよ 召喚・戦闘馬』
呼び出したのは大型の馬系魔物だ。かなり体格が良くて見た目通り、力が強い。
馬だが牙が生えていて、肉食だ。平原なんかで出会せばあっという間に追い詰められて狩られてしまうだろう。
蜂達が集めた千年幼虫は五匹。一匹ずつ袋詰めにして袋の口をロープで繋ぎ、戦闘馬の背に一対ずつ引っ掛けて運ぶとなると一匹余るな。
「……よし、これは女王への貢ぎ物だ」
長い事放置してたからなぁ、詫びの意味も込めて贈ろう。喜んで処分してくれるだろう。
背後に咀嚼音を聞きながら、戦闘馬を歩かせる。
「へぇ、よく集まりましたね」
ギルドのカウンターで、アーリが呆れたように言う。
すごい、と言うより、マジかって感じだな。
「取れた数にバラつきが有るんだよな。どこに出す? ここだとちょっと狭いが」
「駄目ですよ、あれらは扱いに注意が必要だと言ったでしょう。ギルド裏手の作業場で受け取ります」
ギルド裏の解体作業場は、大型の魔物素材を運び込める様に広く作ってある。
血や毒の飛沫対策なのか、頭から足先まで完全防備でマスクをした作業員に混じってアーリもやって来た。
「まずは幻夢茸な。傘が開いた奴と開いて無い奴」
「え? 凄い量ですね」
そうだろうな。ランスが焼却処分する為に集めていた分を貰ったからな。
「偶然、幻夢茸を集めている奴がいてね。譲ってもらったんだ」
基本的にトラブルにならないのなら、方法は各自の自由。他人から譲ってもらっても、金で買い集めても問題無い。
「次に吸血花。ちょっと焦げた奴も有るけど、どうかな?」
「あ~、焦げは駄目ですね。でも、それ以外は大丈夫そうです」
最後に戦闘馬を作業場に入れて、背に乗せた四つの袋を下ろす。
「ひぃ! 動いてるぅ」
「千年幼虫が四匹、確認してくれ」
虫嫌いなのか、アーリの腰が引けている。
アーリの代わりに作業員が袋を開けて、千年幼虫を取り出した。
さっさと確認しろとばかりに、作業員が千年幼虫を持ち上げてアーリに近づける。
「もういいです! 確認しました! ……全部開けなくていいですってば!」
「何言ってる。もしも種類を間違えてたらどうするんだよ。ほれ、ちゃんと確認しろよ。結構、可愛いだろ?」
「はぁ? ぶち殺しますよ? 袋越しでも鑑定出来てます。千年幼虫、四匹ですね」
本当かな。まぁ、カウンターで素材を確認するのも受付嬢の仕事だから、鑑定スキルを持っててもおかしくないか。
「はい、三種の素材採取のクエスト、クリアです」
「はいよ、ありがとさん。……ちなみにこの素材は、ギルドの食堂に出るのか?」
「出ませんよ。あそこ、ギルド職員だって利用してるんですよ? こんな素材を料理提供なんてしたら、冒険者ギルドの職員が全滅してギルドが潰れますよ」
じゃあ何に使うんだ?
「確か、食用として使うと聞いたんだが?」
「私も詳しくは知らないんですけど、リップって料理人兼冒険者が個人的に求めたんですよ。ギルドの食堂経由なのは依頼料の割り引き目的らしいんですけど」
リップ? 多分、あの料理人だな。
「ふ~ん、まぁ個人でどう楽しもうと好きにすればいいか。報酬を貰ったら、帰るわ」
深くは突っ込まない方がいいんだろうな。
クエスト報酬を貰おうと催促すると。
「ちょっとお待ちを。イオリさん、ランクアップの手続きがあります」
ランクアップか。
そう言えば、まだFランクだったな。これで一個上がって、Eランクか。
古い身分証を返却し、新たな身分証を受け取る。刻印が変わっただけだが。
「イオリさんがEランクに昇格した事で、受け取れる報酬がアップします。あと、ダンジョンへの挑戦が可能になります」
「ダンジョンへの挑戦?」
「はい。冒険者ギルドが管理しているダンジョンの通行許可ですね。ダンジョンには色々なアイテムが手に入りますから、冒険者には人気なんですよ」
どうやら世界のあちこちにダンジョンは存在し、その内の幾つかは安全の為、冒険者ギルドがゆるい通行規制をかけているようだ。
一番下のFランクには許可が下りないのは、ランクも上げられないような奴がダンジョンに入っても死ぬだけだからかな。
「ダンジョンも生きていますからね。無駄に犠牲者を出していまうと、ダンジョンが活性化し過ぎて、暴走状態になって危ないんです」
アーリの話しでは、過去に強欲な国の国王がダンジョンの希少なアイテムを独占しようと犠牲を無視して国民をダンジョンへと送り込んだ事があったそうだ。
その結果、ダンジョンは暴走し、次々と魔物を産んでその国を飲み込んだと言う。
「以来、ダンジョンでの犠牲を抑える為、最低でもEランクに昇格出来た者にダンジョンへの挑戦を許す事になったんです」
暴走とは怖いな。それにしても、ダンジョン攻略か。すでに俺は一つダンジョンを潰しているんだが、他の冒険者はどうしてるんだ?
「ダンジョンの最奥まで行った冒険者は、ダンジョンマスターとかどうしてんのかな?」
「ダンジョンマスターですか。可能なら倒します、倒してもしばらくすれば別のマスターが誕生して、ダンジョンは活動しますね」
なるほど、ダンジョンコアさえあればマスターを倒しても問題無いのか。
個人的にはコアも破壊して力をつけたいんだが、そうなると管理されていないダンジョンを見つけないといけない。
「なぁアーリ。ギルドが管理していないダンジョンって無いのかな」
「え? 結構有りますよ。でも、そういう所は大体足を踏み入れるのが困難なくらい、人里から離れてたりしますね。それ以外だと、生まれて間もないダンジョンとかですかね」
俺が生まれたダンジョンは後者だな。浅かったし、大したアイテムも無かったし。
ちょっと探してみるか。上手くいけば、小さいダンジョンを狩れるかもしれない。