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千変万化!  作者: 守山じゅういち
34/142

34 混ぜるな危険!

 城壁の隠し通路を通って、街の中に入る。

 隠し通路を使ってもランスは何も言わなかった。国軍に所属する奴があの抜け穴を見過ごしていいのかと疑問に思ったが、あの程度の抜け穴はどの街にもあるそうで、その管理は街の統治をする貴族が責任を負う事になっているそうだ。

 この街の真面目な兵士なら上司に報告を上げても問題ないだろうが、他所の、しかも国軍に所属するランスがこの街の事に口を挟むのは歓迎されないそうだ。それに街を統治をする貴族なら、この抜け穴の事はすでに把握している筈だという。

 その上で、あえて放置しているのだろう。

「ここが鍛冶士の工房かい?」

「ああ、カルンって名前でな」

 敷地に入ると、疲れた様子のカルンが小さな庭で休憩取っていた。

「おぅイオリ、来たのかい。ナイフはもうちょっとで完成するぞ」

 飲み物片手に笑顔で迎えてくれるカルンに、丹精込めて作ったナイフに手を加えろと言うのは心苦しい。


「……つまり、私の作ったナイフと呪いのインゴットを混ぜて瘴気を抑え込むってわけか」

 俺達の目的を話すとやはり不機嫌になった。まぁ無理も無い話しだが、どうにか納得してもらわなくては。

「現状だと取れる手がそれ以外に無い。自分の作品に余計な物を加えるのは気が進まないだろうが、頼む」

「俺からも、よろしく頼むぜ。このインゴットを放置すれば多くの人が苦しむ事になる。これをどうにか出来るのはカルンと兄さんだけなんだ」

 俺とランスの説得に、大きな溜め息を一つ吐き。

「分かったよ。元々あのナイフの依頼人はイオリなんだから、依頼人の意向は可能な限り添うのは仕事人としては当然だ」

 何とか了承してくれたか。

 工房の奥から完成間近なナイフを持ってきてくれた。

 厚みのある薄い青色の片刃は、鋼鉄すら切り裂けそうな鋭さを感じさせ、全体からは微かに魔力が放たれている。

「こ、これは魔法剣かい? いや、まだ加工前か」

 ランスが魔法剣特有の魔力波動を感じたようだが、このナイフはまだ完全には魔法処理はされていない。

 本当なら注文していた魔法効果の増幅をこのナイフの魔力で付与してもらう筈だったが。

「失敗出来ない、一発勝負だからね。休憩して集中力を高めてからやるつもりだったんだ」

 鍛冶士の付与技術ってのは刃に魔法を刻み込む作業らしく、かなり細かい細工になる為、心と身体を酷使する事になるそうだ。

「それにしても、まだ魔法を発動させていない素の状態なのにこれ程魔力を感じるなんて驚きだな。これなら抑え込む器として十分だと思うけど、材料費を聞くのが怖くなるよ」

 だろうな。国宝級の剣に使われている金属、高品質のミスリル、通常の魔石以上の精霊石、どれも一級の素材だ。ハッキリ言って、もう二度と手に入らないだろう。

「さあ、兄さん。合成を始めようぜ」

「わかった」


 種族『人間 伊織 奏』 『僧侶』


 まずは精神異常対策から。

『不浄の念より我らを守れ 保護衣(セーフティコート)

 これで魅了されないと思うが、どうだろう。

「それじゃアイテムボックスからインゴットを出すけど、頭おかしくならないようにしてくれよ」

「おう、わかった。……けど、イオリも何かと面倒な物ばっかり手に入れるな」

「面倒な物?」

 面倒な物? 何かあったっけ?

「呪いのインゴットとか魔物の卵とかさ」

 あ。


 アイテムボックス内に入れた物は異空間に収納されるが、保護されているわけではない。

 あの呪いのインゴットをアイテムボックスに入れれば中に入っていた物は、その影響を受けて朽ち果てるか、呪われる。分かってた筈なのに、忘れてた。

「どうした、兄さん?」

「え、まさか、あの卵、入れてたのか?」

 賭けで稼いだ金を注ぎ込んで買った魔物の卵。

 適当な場所に置いてたら割れてしまうと思って、寝る時以外は便利なアイテムボックスに入れてたんだよな。

 恐る恐るアイテムボックスに手を入れて、取り出そうと卵に触れると違和感があった。

「えっ……デカい」

 異空間から取り出した魔物の卵は、元の大きさよりも二回りほどデカく、そして黄金に輝いていた。

「えっこれがあの卵?」

「ちょっと待てよ。金色って……兄さん、インゴットの方は?」

 そうだよ。卵が変わり果てた姿になったのもインゴットの所為だ。

 アイテムボックスに手を突っ込んでも、朽ち果てた道具類や食材などしか反応しない。金のインゴットが消えた。

「え、え~と……多分、それが食った? 吸収した?」

「はぁ? マジで無いのか?」

 アイテムボックス内に入れた物を、持ち主は把握出来ている。たとえ中が見えなくても、手を入れればすぐに取り出せるし、やろうと思えば全排出も出来る。

 念の為、全排出をすると分かってた通りゴミと化した道具類ばかりで、インゴットは消えていた。

「……これはもう、卵とインゴットが合体したと考えるしかないな。恐らく金のインゴットは普通ではない方法で作られていた為、かなり不安定な状態だったんだろう。そして魔物の卵が近くにあった。魔物の卵は成長する為に、周囲の魔力も糧にすると言うからな。金のインゴットの瘴気も吸収したんだろう」

「本当かよ」

「推測でしかないが、多分あってると思う」

 問題はこの金の卵。インゴットの魅了の効果が無くなっているが瘴気の濃さは変わっていない為、予定通り合成しなくてはいけないのだが。

「カルン、これ合成出来るのか?」

「いや、どうだろう。生き物は合成素材には出来ないけど、これ中身はもう死んでるよな」

 だったらいけるか? とりあえず試そう。

 

 種族『人間 伊織 奏』 職業『錬金術士』


 工房の作業台にナイフを置き、金の卵を隣に置く。

 まずはカルンの鍛冶魔法が発動する。

『この物体の形を変えよ 変形態(トランスフォーム)液体(リキッド)

 金の卵はドロリと溶けて、ナイフの方に流れていく。

 次は俺だな。

『混ざり合え 融合(フュージョン)

 金色の液体がナイフに纏わりつくと刀身に染み込んでいくように入っていく。

『異なるモノよ、一つの器として在れ 完全調和(パーフェクトバランス)

 ナイフの中で金の卵だった物質が均一に混ざり合い、ナイフの大きさが一回り大きくなったように感じる。そしてカルンがナイフの刀身を炉の中に入れて仕上げの叩きに入り、鍛え直す。

 驚くほどスムーズに行ったな。

「これで、終わり? 瘴気は?」

 ランスとしてはそこが気になる所だろう。見た所、ナイフと融合した辺りから瘴気が漏れ出る事は無くなっていた。浄化されたわけではなく、器のナイフにきちんと収まっている。

「何というか、大人しくなった? 感じかな」

「そうか。まぁ、上手くいったって事だよな」

 カルンの方も磨きの作業に入り、完成間近だ。

「どうだ、カルン。体調に変化は無いか?」

「あぁ大丈夫だ。触ってても問題ない……ただ、このナイフから妙な力を感じるな」

「妙な力? ヤバそうか?」

「ん~、もしかしたら並の魔剣以上かも。ヤバいかどうかは実際に使ってみないとわからん」

 ふむ。考えてみれば、街を滅ぼすほどのアイテムが、魔物の卵と合わさりその力を損なう事なく、一級品の魔剣ともいえるナイフと一つになったんだ。

 当初の予定を遥かに越えた品だ。

 むしろ俺に扱いきれるか心配になる。

「もう色々混ざってて、国宝級じゃね? これ下手な報告上げたら国が動いちまうな」

 嫌な事言うなぁ。折角、アレコレ用意して作ったんだから没収だけは勘弁して欲しいぜ。

 ちょっと鑑定でもしてみるか。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『商人』


 鑑定!

『悪魔剣パルス 悪魔パルスを素材にして作り上げられた魔剣 黄金骸竜を召喚する召喚具でもある』

 ……色々、ヤバい。 

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