33 絶対殺したいマン
眠っているデトルとラナケルを縛り、ランスにかけた眠りの魔法を解除する。
「……んぁ、あれ?」
眠っていたランスが目を覚ました。
「しっかりしろ。今の状況が分かるか?」
「え、あ~……箱を開けて…それからどうしたっけ?」
開けた後に金のインゴットを支配されかけた事は憶えていないようだ。
俺のアイテムボックス内に入れているが、きちんと封印しているわけでは無いから瘴気が漏れ出てくるかもしれない。
早いうちに処分したほうがいいだろうな。
「予想以上にヤバい品だったな。これが入っていた箱は、もう駄目か」
すでに朽ち果ててしまった。少しでも綻びが出来ると
、あっという間に壊れるな。
「兄さんの魔法で何とか出来ないか?」
「無茶言うな。本職の僧侶でも厳しいぞ」
脳裏にハルの顔が浮かんだが、無理かもしれない。それでも彼女なら、無理してでも何とかしようとするだろうな。
「誰かアイテムボックススキルを持ってる奴に処分出来る所まで運んでもらえばいいんじゃないか?」
思いつくのは有名な教会とかかな。それとも、いっそ火山の火口にでも投げ捨てるか。
「ん~……アイテムボックススキルと言えば商人か。商業ギルドに依頼するしかないが、受ける奴いるかなぁ」
「呪いのアイテムを運べと言われても二の足を踏むか。大金を積めば、受けるかもしれないぞ」
商人と言えば、金の為なら多少の危険も顧みない奴か金の為なら多少の悪事も目を瞑るような奴が多いから。
「そんな金無いから。言っとくけど、基本俺の活動費って少額だよ。冒険者としても稼ぐけど、強欲な商人を黙らせるほどの金額なんて出せ無いから。……と言って冒険者ギルドはもっと無理だしなぁ」
アイテムボックススキルは主に商人が得やすいスキルだ。他の職業だと持っている確率は低いだろうな。
アケルの冒険者ギルドに所属しているアイテムボックススキル持ちは数える程、その中で呪いのアイテムを運ぶ仕事を受けてくれる奴なんていないな。
アイテムボックス内は異空間だが、収納したアイテムを保護するような能力は無い。呪いのアイテムなんて入れたら他のアイテムまで悪影響が出てしまう。貴重なアイテムか予備の武具が使い物にならなくなる。仮にそれらの問題が無くても、見ず知らずの奴からの依頼で呪いの品を運ぶなんて、下手したら罪に問われるかもしれないと思うだろうな。
「自分の身は自分で守る。それを考えれば、危ない橋を渡るような仕事は敬遠される、か」
「こうなったら、兄さんに運んでもらうしか……」
現実的に考えると俺しかいない。
だが、問題はその後だ。
「俺が運ぶとして、どこへ? 強烈な瘴気を撒き散らして、下手に扱えば街一つ滅ぼしかねない品だぞ。浄化する当てはあるのか?」
「瘴気の浄化って事なら、アーク王国の王都の教会か他国の教会かな?」
「どちらも無理じゃないか? こんな品を国境を越えて運べば、それだけで捕まりかねない。最悪、自国への攻撃と受け取られるかもしれない。王都だって同じだろ、こんな危険物、どの街だって中には入れたくない筈だ」
残る手は、浄化魔法の使える僧侶だけを外に派遣してもらう方法だ。
「え~と、ここから王都に行って、上に話しを通してから教会に……あっ! 駄目だ。王都までに三つは検問がある。途中の検問で止められて、そこから使いを出しても……二十日以上はかかる。それに最初に来るのは使いっぱしりの下っ端だと思う」
上手く教会まで話しが通っても、色々と手順を踏まなければならず、希望通りにはいかないわけだ。
二十日以上あのインゴットを身近に置くのは、俺でも避けたい。
「そんなには待てん。他に方法が無いなら、俺がこのインゴットを使わせてもらう」
「使う? どういう意味だよ」
インゴットの瘴気を消すのは諦めて、このインゴットを素材にしてアイテムを作る。
きちんとした手順と処理を施せば、かなり強力なアイテムが出来る筈だ。出来上がった品は呪いのアイテムではあるが制御された状態になる筈、無秩序に瘴気を撒き散らす今の状態よりかは、遥かにマシだろう。
「当然、出来上がったアイテムは俺が使う。インゴットの強烈な呪いは、アイテムにしても変わらないと思うから俺以外だと正気を保てないと思う」
「そうだな……そのアイテムの詳細な情報を調べさせてもらえるなら、それでもいいかな。もしかしたら面倒な事になるかもだけど、これ以上の手段なんて思いつかねぇし、ぶっちゃけもう投げ出したい」
「仕事をしろ、国軍の狗」
「いやいや、俺みたいな下っ端は上からの命令には逆らえないけどさ、出来る事と出来ない事があるって」
ちょっと同情するけど、愚痴を言ってても始まらないだろ。
「でも、実際どうすんの? 生半可な技師じゃ、あのインゴットは扱えないでしょ。兄さん、錬金術士か鍛冶士に当てがあんの?」
「ちょうど今、俺の武器を作ってもらってる最中なんだよ。鍛冶士の腕は良いと思う、このナイフの製作者だからな」
腰に差した解体用のナイフをランスに見せる。
ランスがナイフを受け取り、観察する。鑑定スキルが無くても武器の良し悪しくらいは分かる。
「確かに、普通のナイフより良いね。でも、その鍛冶士に頼むなら、インゴットの影響で被害に遭わないように気を付けないとな」
そこは気を付けるさ。俺の狙いは、カルンが作っている戦闘用の大型ナイフに、錬金術士の合成スキルでインゴットを融合させる事だ。
これには俺だけじゃ無く、カルンの力も必要だ。
作業中にインゴットに支配されて暴れでもしたら、大変な事になる。その辺は、僧侶の魔法で防止出来ると思うけど、念のため失敗した時の事も考えておくか。
「よし、そうと決まれば、その鍛冶士に会いに……その前に、コイツらどうするかな」
眠ったままのデトルとラナケルか。魔法で眠らせたから簡単には起きないと思うが、万が一逃げられでもしたら大変だ。
かと言って、連れて歩くのも嫌だ。
「殺すか」
「待って。生かして捕らえたんだから、色々と取り調べたいんだよ。短気は良くないよ、兄さん」
仕方ない、小屋の外から鍵を掛けて閉じ込める事にした。後、小屋がボロいから扉以外の場所を破壊して出てくるかもしれない、その時は小屋が爆発するように魔法式の罠を仕掛けた。
「出来れば、その時に小屋の中に粘着性の可燃物が飛び散るように召喚魔法の罠も仕掛けたかったが時間が……」
「殺意強過ぎだろ、兄さん」