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千変万化!  作者: 守山じゅういち
32/142

32 妖しい黄金

 ランスが、息絶えた男の屍から情報となりそうな物が無いか調べている。

「さっきコイツが言っていた仲間ってのが他に居ないのか気になる。それに拠点にしていた場所に関する何か手掛かりになりそうな物を持っていればと思ったが……無いな」

 街でラータに襲われて死んだ奴以外にも仲間が居るかもしれないしな。

 明らかに不審者と分かる連中が街中でウロウロしていたとは考えにくい。

 拠点にするなら、同じような人間が多数いる街の外の貧民区か近くの森の中だと思うんだが。

「どうすっかなぁ。万が一仲間がいたら、モタモタしてるうちに逃げられるかもしれねぇぞ」

「多少リスクがあるが調べる方法がある」


 種族『人間 伊織 奏』 職業『死霊術士』


『我が呼び声に従え 亡霊召喚(サモンゴースト)

 先程殺した男の亡霊を、敢えて弱体化させて召喚し、念のため大きさも手のひらサイズまで縮小させた。

「コイツから情報を引き出すってわけか。危なくねぇのか」

「リスクはある。死霊術士としての力はコイツの方が上だからな。力と意思はギリギリまで削ってあるから、多分大丈夫だ」

 俺の手のひらに消えかけた煙りのような髑髏が現れた。

 弱らせたとは言え、死霊術士相手となると亡霊状態でも油断出来ない。拘束するのに意識を集中するため、質問はランスに任せる事にした。

「よし、まずはアケルの街に何人で来た?」

『……ご、ごに…ん』

「残りの仲間は何人残ってる?」

『ふた……り』

 五人の内、三人死んでる。コイツを除くと二人がラータに殺られたわけだ。

「残りの仲間は、どこにいる?」

『す、ら…む』

 やっぱり貧民区か。

「仲間の名前は?」

『……でと、る……らなけ、る』

「仲間の能力は? お前と同じ死霊術士か?」

『……か』

 髑髏の動きがピタリと止まった。

「? おい、どうした」

『か……かかかかかかかかっ!』

 髑髏が制御を外れ、異常行動を始めた。

 嫌な予感がして、即座に髑髏を遠ざけた。数秒の後、髑髏は軽い衝撃とともに破裂した。

「大丈夫か、兄さん」

「あ、あぁ。やっぱり罠を仕掛けていたか……力を削っておいて良かったぜ。元のまま召喚していたら被害が出ていたかもな」

 頭のイカれた死霊術士なら自分の魂に仕掛けをしていてもおかしくないと思ったが、本当にやりやがったな。

「再召喚は出来るかい?」

「無理だな。魂が粉々になったんだ、復元するにしても時間がかかるよ」

「これ以上は無理か……残りのデトルとラナケルって奴を捕らえないとな」

 場所がわかっても、顔がわからない相手を探すのは難しい。あまり時間をかけては、異変に気付いて逃げ出すかもしれない。

「……兄さん。もうちっと手を貸してくれ」

「何か作戦があるのか?」

 自信があるのか、ランスがニヤリと笑った。



 種族『人間 クウェン』 職業『商人』


 ランスを縛り上げて、貧民区の入り口で残りの二人が出てくるのを待つ。クウェンと言うのが、自爆した死霊術士だな。残りのデトルとラナケルの顔が分からないから向こうから接触してくるまで待つ事にした。

 近付いてきたら、商人の鑑定スキルで確認して可能な限り被害が出ないように捕らえる作戦だ。

 因みにランスを縛っている縄は、すぐに解けるように

なっている。

「見れば見るほど、面白いスキルだなぁ。マジでそっくりだわ」

「うるせぇ、静かにしてろ。もっと捕虜っぽくしねぇと怪しまれるかもしれねぇぞ」

「大丈夫だろ。基本的に研究ばっかしてるような連中なんだから。嘘を見破るような技術を持ってるとは思えねぇよ」

 そうこうしているうちに、フードを被って顔を隠した二人組が近寄ってきた。

 距離があるうちに鑑定しておこう。


 『デトル・バナセール 呪術士 呪病感染中』

 『ラナケル・ハマー 魔法使い 呪病感染中』


 おいおい。何やら呪いの一種、呪病に感染してるじゃないか。詳しい内容は分からないが、あまり長い時間接触していると危険か?

「クウェン、ソイツは何だ?」

「……何だとは? コイツの顔が分からないのか」

 ランスの顔を確認させても反応が鈍い。仇敵の顔も知らなかったのか?

「我が組織を潰した国軍の狗だ」

「何だとっ! まさか我々の計画が漏れていたのか!」

「どうする、二人も死んで当初の計画に狂いが出ているんだぞ。狗どもが嗅ぎ付けてきた以上、ここに留まるのも危険だ。幸い、アレの効果範囲は広い。ここに放置してもそれなりの被害は期待出来る」

 デトルとラナケルがかなり危うい事を口走ってるぞ。

 計画ってのが何か知らないが、もう少し情報を引き出さないとな。

「こうして愚かな狗を捕らえたが、他に居ないとも限らん。やはりアレは別の場所に移した方が良くないか?」

 移動を提案して、アレとやらまで案内してもらおう。

「それはそうだが、動かすのも容易では無い。下手に動かして、逆に感づかれでもしたら不味いぞ」

 運ぶのも大変って、一体何を持って来たんだ?

 しかし、このままだと危険物を放置する事になる。どうしたものかと悩んでいると、突然ランスが貧民区の中に駆け込んでいった。

「狗が逃げたぞ!」

「捕まえるぞ!」

 デトルとラナケルが、逃げたランスを捕まえに後を追おうとする。

 ランスの奴は何故……、そうか!

「追うな! それより先にアレを移動させるぞ。逃げた狗が他の連中と合流したら面倒だ! 連中に先手を打たれる前に急ぐぞ!」

「ぬぅ、仕方ない……」

「計画は延期せねば……」

 上手く乗ってくれた。アレとやらがランスに処分されると思った二人が渋りながらも保管されている場所へと向かった。

 よしよし。二人の後を追うと、すぐ近くに隠れていたランスもこっそりと追いかけてきた。

 デトル達が辿り着いたのは、貧民区の中でも珍しい鎖と錠前の封印と魔法式の封印を使い、かなり厳重に施錠された小屋だった。

 鍵を使って扉に巻きついた鎖を解錠し、更に魔法による封印錠を解錠して室内に入る。

 部屋の中にあったのは箱が一つ。この箱は、何だ?


 『封印箱 耐瘴気仕様 劣化中』


 鑑定によると中身の瘴気が強すぎて、箱の耐久力が落ちている状態のようだ。

 そうか、二人の呪病は瘴気中毒によるものか。箱から漏れ出る瘴気を長期間浴び続けたせいだな。

 箱を前にして二人の動きが止まり、触る事にも躊躇している。

「どけ、俺が運ぶ」

 二人を押し退けて箱を持ち上げる。箱に触れていると指先の感覚が無くなっていくな。中身は一体何だ?

「どこに運ぶ? あまり長くは……」

 氷の塊でも持っているかのように腕全体に瘴気の汚染が回り、力が抜けていく。

「そうだな……とりあえず森の中に隠して、ほとぼりが冷めてから運ぶか?」

「そうだな、上手くいけば計画再開も可能だろう」

 二人が小屋を出た、しかしそこにはランスが待ち構えていた。

「はい、ご苦労さん」

「き、きさ……」

 二人が抵抗する前に、槍の石突で喉を打ち抜き、悶絶させる。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『魔法使い』


『深き眠りに落ちろ 深催眠』

 地面に転がる二人が、魔法の眠りによって意識を失った。

「上手くやってくれたな、兄さん。それで、その箱がヤバい物なのか?」

「ああ、ちょっと持っただけで気持ちが悪くなったよ。早い所、処分しないと奴らの言う通りかなりの被害が出るぞ」


 種族『人間 伊織 奏』 職業『僧侶』


「開けてみるか?」

「そうだな、中を確認したい。もしもヤバい物なら、兄さんの魔法で対処してくれ」

 出来る事なら封印箱は開けたく無いが、中身を確認しないわけにはいかないんだろう。

 ランスが緊張しながら箱に手を掛ける。

「……畜生、指先が震えやがる」

 瘴気汚染に耐えながら、ランスが蓋を開けた。

「これは……黄金?」

 箱には滑らかな光沢の金のインゴットが入っていた。

「すげぇ……金だ。ははは、金だぜ。これは俺の物だ」

 ランスの様子がおかしい。目の前のインゴットから目が離せないようだ。魅了された?

「おい、ランス」

「絶対に、誰に…も、わた……さ」

 ヤバい、目が虚ろになってきた。

『深き眠りに落ちろ 深催眠』

 抵抗する事なく、ランスが倒れた。

「一流の戦士でさえ一瞬で魅了される。誰も彼もが、この呪われた金を求めて奪い合うだろうな」

 そして殺し合い、インゴットの放つ瘴気で至るところにアンデッドが出現するようになるだろう。

「アケルの街はあっという間に死の街だ」

 このインゴット、どうするか。

 瘴気の強さで言えば、怨霊のラータ以上だ。魔法による浄化も難しいかも。

「かと言って放置も出来ん。と、なると」


 種族『人間 伊織 奏』 職業『商人』


『開け アイテムボックス』

 一時的に俺のアイテムボックスに入れておくしかないか。箱からインゴットを取り出し、アイテムボックスに仕舞う。支配無効スキルのお陰で、頭がパーにはならないが、至近距離で感じる濃厚な瘴気は堪える。

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