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千変万化!  作者: 守山じゅういち
31/142

31 結果良ければ全て良し

 自爆したアンデッドを操っていた奴は、すでにその場から遠ざかっていた。

 あの仕掛けには自信があったのか、自爆した時点でランスを仕留めたと早合点したようだ。

「さて、どうする? 今なら奇襲も出来そうだが」

 ランスが奇襲を提案してきた。犯人が油断している今なら成功する可能性は高いが、一工夫必要だろう。

「う~ん。死霊術士なら周囲に使役している亡霊を配置している筈。近づくにはソイツらをどうにかしないと」

 きっと死霊術士なら索敵には亡霊を使い、自身の護衛には実体のある腐鬼(ゾンビ)系を使う筈。亡霊は物理攻撃が効かない反面、盾にも壁にも使えないからな。

 ランスの槍に聖属性を付与すれば、アンデッド相手でも瞬殺出来るだろう。後は、どうやって槍の間合いまで気づかれずに近づくか。

 索敵に出している亡霊の監視網を上手くすり抜ける方法が無いと、また罠を仕掛けられるか逃げられる。

「兄さんが亡霊を抑える事は出来ねぇの?」

「無理だな。多分、相手の実力の方が上だ」

 亡霊を直接抑えるのは無理。だが死霊術で使役された亡霊は術者に意思を封じられてるから、そこに付け入る隙がある。

「一つ作戦がある。だがその前に……俺の戦闘に関する情報は他言しないと約束しろ」

「まぁ冒険者ならあまり手の内は晒したくないわな。いいぜ、兄さんの事は誰にも言わねぇよ。けどさ、自分で言うのもなんだけど、そんなに俺を信用してもいいのかい?」

 普通なら初対面の人間を信用なんてしない。

それも国軍に属しているなら、余計に信用なんて出来ないだろうな。

「破るんなら破ってもいい。但し、それで俺が不利益を被れば……手段を選ばず、ヤるぞ」

「はは、怖いねぇ兄さんは。心配しなくても約束は守るさ。こう見えて、そこそこ信用出来る男だぜ、俺は」

 正直な所が信用出来るのか、そこそこ程度では信用出来ないのか。判断に迷うな。

「んで、兄さんの作戦ってのは?」


 作戦はシンプル。俺が囮になってランスが攻撃する。

 ランスの槍に聖属性を付与して、少し離れた場所に身を隠して待機させる。


 種族『人間 ランス』 職業『死霊術士』


 敵はランスに相当な恨みがある。この姿で近づけば、すぐにでも襲いかかってくる筈だ。その時、敵の意識は俺に釘付けとなり、本物のランスが隠れているなどとは思わないだろう。適当に苦戦して追い詰められたフリをすれば相手が油断して姿を現すかもしれない。

 十分に敵を引き付けて、俺が合図を送る。

 そこをランスが強襲する手筈だ。

 わざと音を立てながら、敵が逃げた方向に進む。

 周囲には敵が連れているアンデッドの瘴気が、まるでナメクジの這った跡のように残っている。

 通っただけでこれだけの瘴気を残すという事は、護衛として連れているアンデッドはかなり強力な個体だな。

「……来た」

 読み通り、まずは亡霊が襲ってきた。使役する亡霊越しに俺の姿を確認した筈だ。だが、使役獣越しだと視界が朧気で細かい部分ははっきりとは見えないから多少の不自然さには気付かないだろう。

 亡霊の攻撃を大袈裟に避けて、ついでに怪我をしているような動作もしてみる。これで自爆攻撃のダメージで弱っていて止めを刺すチャンスだと思い、引き返してくれば予定通り。

 何度か亡霊の攻撃を避けていると大型の腐鬼が突進してきた。

 俺は避けずに抵抗する事無く、そのまま腐鬼に押え込まれた。

 完全に身動きが取れなくなったのを確認した敵が護衛の腐鬼を連れて近寄ってきた。

 予想通りの行動に、思わず笑みがこぼれそうになる。

「まさか、あの自爆から逃れていたとは……もう一人を身代わりにでもしたか」

「さぁどうかな、意外とショボい威力だったから助かったのかも。きっと作った奴の腕が悪かったんだろ」

「貴様ぁ!」

 ぐぇ。腐鬼の押える力が強まった。

 少しからかっただけで、すぐ頭に血が上る。あまり冷静なタイプではないようだ。俺が偽者だと気付いてもいない。

「国軍の狗め、私の事を覚えているだろう」

 被っていたフードを取り、顔を見せてきた。死にかけの老人みたいな顔をした男だ。痩せこけていて、顔色も悪い。生気の無い顔のせいで年寄りにも見える。

 そして目付きが悪い。理性が吹っ飛んだような狂信的な目だ。近寄り難い雰囲気を漂わせている。

「え~と誰だっけな……悪党の顔なんざ似たような感じで覚えてねぇわ」

「そうか……まぁいい。貴様らが組織を潰したせいで、私の研究が台無しにされた。それを取り戻す為に、残った仲間とアケルの街に来たが……まさか、お前に出会えるとは幸運だったよ」

 ちょっと待て。仲間だと?

「その仲間はどうしたんだ? 喧嘩でもしたか?」

「死んだよ。封印されていた亡霊を使役しようとして失敗し、取り込まれてね」

 あれ、それってラータの事か。コイツらのせいで眠り病が起こったのか。

 ランスが眠り病を解決した奴を探していたのは、コイツらが絡んでいたからか。

「何とも面倒臭い事をしやがる」

「此方としても本当なら使役した亡霊を使って、貴様らを始末し街の連中を使って更なる研究を進める予定だったのだが……上手くいかんわ」

 男が溜め息をつき。

「せめてお前を亡霊に変えて、国軍に……いや王族を狙わせるか」

「勝手な事を言いやがる。だがもう『終わりだ!』」

 ランスに合言葉の合図を送る。

「……どうした? 終わりなのはお前だぞ、狗」

「いや『終わり』! 『終わり』だ! 『終わり』!」

 俺の声が虚しく響き渡る。

「マジか……」

 え? 逃げた?

「気は済んだか。では、死……」

 男が術を発動させる前に、隠れていたランスが攻撃を仕掛けるが、腐鬼が男を庇うように前に出て槍の攻撃を受けた。

「遅いわ! 何してやがった!」

「仕方ないだろ! 槍の効果が消えたんだから!」

 あ、本当だ。付与した聖属性の光が消えてる。

 待ち時間が長過ぎたか。

 という事は、さっきの腐鬼に食らわせた攻撃も大して効いてないな。

「こ、これは、どういう? 同じ、人間が二人?」

 男は混乱し、隙だらけだ。

『我が声に従え 死者支配(デッドコントロール)

 男が落ち着く前に、此方の術を発動させる。

『土に還れ!』

 腐鬼の命令を上書きしようとするが、男の支配力の方が高いせいで失敗した。

「は、はは、残念だったな。無駄……!」

 術の失敗に男が安堵したのもつかの間、腐鬼の防御を潜り抜けてランスの槍が男の背中を刺し貫いた。

「な……」

 さっきの術は腐鬼の支配を解く事は出来なかったが、一瞬だけ行動を抑制する事は出来た。その隙を突いてランスは間合いを詰めたんだ。

 男の意識が会話をしていた俺に向いていたのも敗北の原因だな。

 術者が死んで術が解除された事で、使役されていた亡霊や腐鬼達も消えた。

「ふぅ、一時はどうなる事かと思ったぜ。この男が戦い慣れしてなかったお陰で上手くいったな」

「焦ったのは此方だよ。合言葉を送っても出てこないんだからよぉ、マジで見捨てやがったと思ったわ」

「悪かったって……それよりその姿を何とかしてくれよ。自分と喋ってると思うと気持ち悪い」

 気持ち悪いとは失礼な。

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