30 即席パーティー
幻夢茸はランスが焼却処分前に確保していた分を貰い、吸血花は群生地まで案内して貰う事にした。
「吸血花が生える条件には新鮮な死体が必要でね。死体の水分や血を吸って成長するから、吸血花っていうんだよ。因みに人間の死体より、魔物の死体の方が質の良い吸血花が生えるんだってさ」
道すがらランスから素材の情報を聞いている。
死体に生える花か……それを食用に? 直接食うのかどうか知らないが、俺は遠慮するな。
「千年幼虫は、俺にもわかんねぇな。どっかの地中にずっと潜ってて、この時期に羽化する為に顔を出すって話しだから地道に歩いて探すしか無いね」
千年幼虫は本当に千年生きる訳ではないが、それでもかなり長生きする虫で、蛹に成るために地中から這い出てきた所を捕まえるしかない。
虫なら大丈夫。昆虫食はそんなに吃驚しない。
大きさが一メートルって事以外は、大丈夫。
「メートル級の芋虫か……そんなデカい奴が地中から出てきたのに、何で見つからないのか不思議だな」
「そう不思議でもないさ。動きが鈍くて栄養価の高い獲物なんて、森に住む魔物にしてみれば高級デザートみたいなもんだろ。見つけ次第、ソッコー食われてるさ」
「成る程。……その千年幼虫の、何が危険物指定を受けるくらいヤバいんだ? 幻夢茸と吸血花は毒性の強い植物と聞いてるけどな」
ギルドで説明を受けた時も、直接触るのは厳禁だと念押しされたしな。てっきり千年幼虫も同じ理由かと思ったが、魔物が食うなら毒性は無い?
「千年幼虫は森殺しなんだよ。地中で大きくなる為に木や土地の栄養を吸い上げて、周辺の環境を荒らしちまうんだ。他の奴とは別の意味で危険な害虫って事」
ランスが槍で茂みを払うと、目当ての吸血花を見つけた。何かの魔物を苗床にして身体を覆い尽くすように蔦が伸びて、幾つか花も咲いている。鮮やかな赤い花だ。
「見た目は綺麗だな……死体に生えるって事を気にしなければ」
「それよりさっさと採取してくれよ、兄さん。コイツがこれ以上花粉を飛ばす前に焼かなきゃいけないんだからよ」
「はいはい。え~と、開花した花と蕾だったな」
指定されていた部分を切り取り、専用の袋に入れるとランスが油袋を片手に近寄ってきた。
「ん? んん!?」
死体が動いた? 見間違いか?
「やっぱり動いてやがる、ランス!」
「ちぃ!」
手にした油袋を槍で切り裂き、着火材で火を付けた。
死体を覆っていた吸血花の蔦が激しく燃えて、苗床になっていた魔物の姿が露出した。
かなり大きな個体。猪鬼か大鬼かな。
「大して効いてねぇな」
「マジで面倒くせぇ。兄さん、わりぃけどもう一度よろしく」
枯れてミイラ化した腕を切り飛ばしても、怯むこと無く襲いかかってくる。
死霊術士の瘴気視スキルで術士の痕跡を探る。
アンデッドの身体を覆う瘴気の膜から伸びた流れを見つけた。
今度は少し遠いか。十数メートルは離れているな。
「ランス。アンデッドの後方、十数メー……」
瘴気視スキルが、周囲の瘴気が急速にアンデッドの体内に集まっていくのを捉えた。このまま異常スピードで瘴気が圧縮していくと……
「不味い! 自爆するぞ、離れろランス!」
「!」
即座にアンデッドの両足を破壊し、動きを封じると少しでも遠くへ逃れようとするが、間に合わない。
十分な距離まで逃れるよりも、先に爆発に飲み込まれる。それも瘴気に汚染された爆発だ。死んだらアンデッド化するかもしれない。
種族『人間 伊織 奏』 職業『魔法使い』
『大地よ、災いを飲み込み、押し潰せ 地層圧縮』
魔法によって生まれた地割れにアンデッドが落下していき、地割れが閉じる。
そして亀裂の入った地面が吹き飛んだ。間一髪、処理が間に合った。
種族『人間 伊織 奏』 職業『僧侶』
『穢れた大地を浄化せよ 浄化円陣』
黒い煙りと瘴気を吐き出す地割れに広範囲の浄化魔法をかける。流石にこれは放置出来ない。
「死霊術士……遠隔操作……自爆」
ランスが何か一人言を呟いている。
一度目も二度目も死霊術士の仕業だ。それもかなりの殺意を感じさせる罠だったな。
一度目は、まだランス一人でも対処出来たかもしれないが、二度目は無理だろう。接近戦で近くに引き寄せてから至近距離で自爆。本来ならどうにもならなかった筈だ。
「随分と恨まれてるようだが、心当たり無いのか。見境無く襲いかかってくるなら、俺はこのまま立ち去りたいんだが」
「あ~、思い出した。この手口は、クソッたれなネクラマンサーどもだ」
「ネクロマンサーだろ」
「いや、マジで根暗な奴らでよ。実験と称して幾つもの村を襲い、そこの住人を殺しまくった連中でな。そいつらを俺と仲間で皆殺しにした筈なんだが、生き残りがいたのか? 念入りに潰したんだがな」
「そのイカれた連中の仇討ちの為にお前を狙ってるんなら、逃げ切れた奴がいたんだろうな。ま、精々気をつけるんだな。それじゃ俺はこれで」
焼け残っていた吸血花も回収して立ち去ろうとするとランスが引き留めにきた。
「何だよ、つれないこと言うなよ兄さん。一緒に死地を潜り抜けた仲じゃないか。それに素材集めにも協力してやっただろ?」
「狙われているのはお前だけみたいだし。一緒にいない方が俺にとっても都合が良いと思うんだが?」
どうもこのまま巻き込もうとしているな、コイツ。
「そう言うなよ。この犯人と俺は、相性が悪い。危ない連中だったからな、もしも俺が殺られたら、次は近くの街を襲うかもしれないぞ。地域住民の為にも、ここで一緒に終わらせようぜ、兄さん」
う~ん、確かに。安全の為には、餌に食いついてる内に片付けた方が良いか。
「仕方ないか……冒険者に緊急依頼を出すんだから、それなりの報酬は払うよな、アーク王国軍は?」
「あらら、やっぱりバレてたか。でもさ、ウチの財布は意外と固くてねぇ。あまり期待しないでくれよ」