03 会いたくなかったぜ、パパ
二郎、三郎と別れた俺は、一人寂しくダンジョンを進んでいた。とりあえず進んでいるが、出口に向かっているのか最奥に向かっているのか、どっちだろう?
気のせいか、魔物の襲撃が激しくなっているような気がする。
大蝙蝠、黒狂犬、粘体生物、大蜘蛛、毒牙蛇、小鬼。
小鬼は種類が多く、小鬼剣士、小鬼魔法使い、小鬼僧侶、小鬼召喚士、小鬼呪術士、小鬼狩人小鬼錬金術士……
一番変だと思ったのが、小鬼商人。ダンジョン内で誰と商売するというのか。
小鬼たちは職業持ちのせいか少し手強い感じだが、こちらもスキルを使って対応した。
そして今、面倒な相手と戦っている。
狂地霊という半分魔物、半分精霊みたいな存在だ。コイツは岩石装甲というスキルで岩の鎧を身に纏っているので、物理攻撃の効果が薄い。
魔法攻撃をしても、今度は地中遊泳スキルで地面に潜って隠れてしまう。
「まったく! 戦う気がないなら、どっか行けよ!」
もぐら叩きのように隠れては現れ、現れては隠れる、をひたすら繰り返している。
ウザい、物凄くウザい。
こちらが立ち去ろうとすると、小石をぶつけてくるのだ。血管切れそう。
「うがああぁ!」
変身!
種族『狂地霊』 職業『魔法使い』
同じ狂地霊になり、地面の中を逃げる狂地霊を追いかける。移動速度は、お互いあまり速くはないがこちらは魔法を使って加速する。
そしてようやく追いつき、両手で相手の頭を掴む。
『土よ、暴れ狂いて弾け飛べ、死ねぇ! 岩石破壊!』
両手の中で振動と共に小規模の爆発が起こり狂地霊の頭部が弾けた。ようやく苛つきが収まった。
因みに、魔法の呪文に決まりはない。自分の中で魔法のイメージがしっかりしていれば『死ね』でも『焼肉定食』でも、何でもいいのだ。
だが、今使った魔法はイメージよりも威力が低かったように思う。やっぱり、攻撃対象と同じ属性だと効き難いのかな。
それにしてもここまで結構な数の魔物を殺してきたのに、何も感じないな。罪悪感もなければ、変に興奮する訳でもなく、ただ当然のように、殺している。それが正しいのだと本能が言っているように思う。
まぁ、躊躇して返り討ちにあう位ならキッチリ殺しておこう。
俺の願いは、平穏に暮らす事だ。それを邪魔するものは、人間も魔物も等しく潰してしまおう。
相変わらずダンジョンの中を迷子のように歩いていると、初めて宝箱らしきものを見つけた。
「おぉ! 本当にあるんだな。中身、何だろ」
無造作に箱を開けた。開けてから気づいたが、罠の可能性を忘れていたな。次から注意しよう。
箱の中身は、草だった。
「……草って。そんな物貰ってもなぁ」
ちょっとテンションが下がった。
もう少し心が躍るものが良かったな。
「どうするかな、これ。別に欲しいわけじゃないし……」
捨てるか? 既に、これまでに拾ったゴブリンの剣や弓矢なんかの戦利品で、限界まで荷物を抱えてるしな。
よく分からん草なんて……あ、鑑定か。
商人の鑑定スキルなら何か分かるかな。変身。
種族『人間 カウカ』 職業『商人』
よし、鑑定スキル発動。
『アポリキ草 毒性の強い草』
毒の草なんか要らんわ!
思わず投げ捨てようと思ったが、商人の職業スキルに『アイテムボックス』があるのに気づき、とりあえず収納しておく事にした。
もしかしたら薬の材料になるかもしれない。
他の荷物もアイテムボックスに入れて、剣と小盾だけを装備した。
荷物が減り、動きやすくなると魔物との戦いも捗る。
とはいえ、装備した剣はナマクラで、職業を剣士にしていても今一つ攻撃力が足りない。ゴブリンの剣だから仕方ないか。
魔物の肉や骨を砕いているうちに刃が欠けて、剣を何本も捨てている。小鬼剣士は飽きるほど出てくるので武器の補充には困らないが。
魔物との戦闘が一段落したところで、足が止まった。
「何だ……」
進行方向から嫌な気配がする。初めての事で、よくわからないがこのまま進んではいけないような、妙な重圧を感じる。
「何かいるのか……?」
調査の為に、感知能力の高い魔物に変身する。
種族『黒狂犬』 職業『狩人』
ダンジョンに住む黒狂犬は、視覚よりも嗅覚や聴覚に優れている。さらに狩人に変身する事で元々の感知・索敵能力を増幅させて、通路の先を調べてみる。
その能力によると、この先にいる魔物は二体。一体は知っている匂い、小鬼だ。問題は、もう一つの匂い。
強い。大きくて、強い。今までダンジョンで出会ったどの魔物よりも、強い。
ダンジョンを守る守護者か主人かもしれない。
種族を人間に戻し、ため息をつく。
「どうやらダンジョンの最奥に進んでたみたいだな。運が悪いぜ……」
思えば、重要な場所に近づいていたから魔物の数が多かったんだな。もっと早く気がつけば良かった。
「さぁて、どうするかな……戦わずに引き返すか、一戦交えるか」
別に出口が塞がれているわけでもないんだから、ここは引き返すのが正解か。
前世の俺なら、間違いなくそうしていただろうな。
だが今の俺は、戦いを求めている。例え自分より強い相手でも、敵と認識したら噛みつかずにはいられない。
「これが魔物の本能か……」
やれやれと思いながら、俺はダンジョンの奥へと向かった。
そこにいたのは、長剣と盾を装備した大鬼だった。
姿が見えたところで、素早く職業を商人にして鑑定スキルを使う。
『大鬼騎士 大鬼の亜種 迷宮主』 『小鬼僧侶 迷宮主の配下』
迷宮主で騎士か。たしか剣士の上級職で、剣や槍以外にも盾のスキルも持ってる筈だな。騎乗スキルもありそうだが、ここに馬はいない。
お供は小鬼僧侶が一体。治療と補助が目的かな。
こちらがさらに一歩進むと、向こうも気づいたようだ。
大鬼騎士と俺、両者が吠えて開戦の合図となった。