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千変万化!  作者: 守山じゅういち
28/142

28 見つからない

『おい、ランス。どうした?』

『いや、気のせいだったかな……とりあえず、俺はもう少し他を探って情報を集めてみるわ』

 ランスは槍を引き抜き、立ち去って行った。

 残された男は影蛇が潜んでいる事にも気付かず、その場を離れ、拠点としているらしい宿に入ると、自室の鍵を閉めて報告書を書き始めた。男が机に向かっている間に影蛇に部屋の中を探らさせる。

 大して広くない部屋だが、机に立て掛けてある長剣に猛禽類の鳥が翼を広げた姿の紋章が刻まれている。確かアケルの街の紋章は花の紋章だったから、コイツは他所の街か、他国の紋章かな。

 男が報告書を書き終え、机の引き出しに仕舞うと厳重に鍵を掛けて出ていった。

 チャンス。

 影蛇を引き出しの隙間からスルスルと中に忍び込ませて、先程の報告書を飲み込ませる。

『取り込んだ物をこの手に 召喚転送(サモントランスファー)

 召喚獣との繋がりを通じて、飲み込んだ報告書が手元に送られてきた。

「え~と……」

 書かれていたのは大した内容ではない。眠り病を解決した者はまだ見つかっていない事、冒険者ギルドの隠している情報は調査中である事、新人の冒険者はハズレである事。ハズレって俺の事か、この野郎。

「……アーク王国第八騎士団二級騎士オース」

 報告書の最後に署名がされていた。あの男、やはり騎士だったか。という事は、ランスも騎士かな。

 でも何で自国の騎士がこそこそ調査してるんだ? もしかして冒険者ギルドと国って、あまり仲が良くない?

 あり得るな。冒険者ギルドは世界各国に支部がある。国内に支部を持つ国は、冒険者ギルドとある程度の協力関係を築いていても、万が一を考えてギルドの動向を探り、あわよくば弱味の一つでも握り有利な立場に立とうとするのだろう。何とも面倒な事だ。

 とりあえず、今はこれ以上の情報は手に入らないだろう。ハズレ呼ばわりは気に入らないが、何かしらの面倒に巻き込まれずに済んだと思えばいいか。 

 報告書を送り返し、影蛇の召喚を解除すると適当なクエストを選んでギルドを後にした。


 アケルの街の近く、いつもの森で召喚獣を呼び出して訓練を行う。武器が出来上がるまでは、格闘と魔法の訓練だけとなるが休むわけにはいかない。

 小鬼剛腕拳士との訓練も、多少の攻撃を食らいつつも時間切れになるまで粘れるようになり、以前のような一方的に殴られ続けていた頃に比べれば進歩していると言えるだろう。

 続けて魔法の訓練に移る。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『魔法使い』


 魔法の訓練は、シンプルだ。指先に小さな火球を灯して、後は魔力が続く限りその状態を維持するだけ。

 これはギルドで手に入れた禁書に書かれていた訓練方法だ。最初にこの訓練を始めた時は、簡単過ぎて意味が無いんじゃないか? と思ったけど、実際やってみると想像以上にキツい方法だった。

 小さい力を維持し続けるのは、大きな力を一瞬だけ出す事よりも遥かに難しいのだ。魔力を操る繊細な技術や集中力が無ければ、小さい火球はすぐに消えるか巨大化してしまう。

 火球に意識を集中させると同時に魔力の流れを一定に保つ、二つの作業を平行して行わなくてはいけない。

 この訓練を始めてからはよく頭痛に襲われる。知恵熱だな。

 数分で魔力切れとなり、少しの休憩を挟んで魔力が回復すると、また格闘訓練に移る。


 訓練を終え、切り株に腰かけて一休みしていたが程々のところで受注したクエストをこなすべく腰を上げる。

 クエストは、レア素材の確保。

 ギルドの食堂からの依頼だが、あの女料理人が出したんじゃないだろうな。

 何でもこの時期にしか採れない素材が数種類あるらしいんだが、その内容が茸に花に虫ときたもんだ。

 怪しい匂いがぷんぷんするぜぇ。どれも本来は食用と言うよりも薬用に向いているそうなのだが、アケルの錬金術士では扱えない程の高難度の素材だそうで、ここ数年は採れても他所の街に流していたそうだ。

 だが今回、冒険者ギルドの料理人が初めて食用としてその素材を求めたわけだ。

 料理に対する好奇心が旺盛なんだろうけど、正直マジかよって思う。以前のような猛毒素材を使った料理みたいな物を作る気かな。まあ、金になるなら採ってくるけどさ。

 しかし広い森の中を探すとなると、一人で見つけるのは難しいな。ならば、数で勝負だ。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『召喚術士』


『主の呼び声に応えよ 召喚・大牙女王蜂(シザーズクインビー)

 呼び出したのはクワガタムシのような強靭な顎を持つ蜂型魔物だ。そして女王蜂は無数の働き蜂を呼び出す眷属召喚のスキルを持っている。

「よ~し、眷属の蜂に目的の素材を探させろ」

 大牙女王蜂が一鳴きすると数千匹の蜂達が集まり、一斉に四方に散った。これで後は蜂からの連絡待ちだ。

 連れて歩くには目立ちすぎるので、大牙女王蜂はその場で待機。


 種族『黒狂犬』 職業『狩人』


 黒狂犬の嗅覚を使ってみるが、そもそも探している茸や花の匂いを知らないからあんまり捗らないんだよな。

 とりあえず変わった匂いがないか嗅いでみる。

 ん~……わからんなぁ。

 知っている匂いもあれば知らない匂いもある。目的の食材ではないが、色々な茸を見つけた。鑑定するのは後にして、片っ端から確保していく。

 随分と森を探し回っても、目当ての素材が一向に見つからない。

 蜂達からの知らせもない。探す場所が悪いのかな?

 場所を変える為に森を走っていると遠くの戦闘音を拾った。

 大型魔物と人間が戦っている。焦りと苛立ちの混じった魔物の叫び声と漂ってくる血の匂いから、戦いは人間の方が優勢のようだ。

 あ、コイツはランスの匂いだ。戦っているのはランスだな。少し様子を見てみるか。

 気付かれないように、静かに近づく。

 ランスが戦っているのは獅子頭の猛獣だ。素早い動きで爪と牙を振るっているが、ランスには当たらない。空振る度に槍で傷をつけられて、辺りは飛び散った魔物の血で染まっていた。

 痛みと苛立ちで冷静さを失った魔物が、正面から突っ込んでいった。

 大きく開いた魔物の口に、ランスの槍が突き刺さる。

 槍は口蓋を貫き、魔物の後頭部を吹き飛ばしてその命を奪った。

 大型の猛獣相手に、ランスは無傷で勝利した。

 やはり相当な腕前だな。

 見つからない内に立ち去ろうとしたが。

「そこにいる奴、出てきな」

 バレた。決して気付かれるようなヘマはしていないんだが影蛇の時といい、やはり鋭い奴だ。

 このまましらを切るのも無理そうだ。

 人間の姿に戻り、そっと木陰から出るとランスの警戒が解けた。

「なんだ、兄さんかよ。こんな所で奇遇だな。クエストかい?」

「ああ、そうだよ。ある素材を……!」

 話してる途中で、死んだ筈の魔物が動いた。

 俺の驚きと同時にランスが魔物の頭を吹き飛ばすような駄目押しの一撃を繰り出したが、その一撃を食らって頭部の半分以上を失いながらも魔物は再び、立ち上がった。

「何だと……」

 しぶとい、なんてものじゃない。明らかに異常だ。

「おい、コイツは最初からアンデッドだったのか」

「いや、俺が仕留めるまでは普通の魔物だった……こんなすぐにアンデッド化する筈ないんだが」

 それは確かに。アンデッドになるまでには幾つかの条件がある。その中で、死体に瘴気が満ちるというのは絶対条件で、溜まるまでに相当な時間が掛かる筈。

 それなのに。

「どうなってんだ?」

 ランスが槍で牽制しても、先程よりも効いてない。アンデッドなんだから当然か。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『死霊術士』


 確か、ギルドの禁書の中に死霊術の裏技があったな。

 生きている者に瘴気を纏わせる事で早死にさせて、アンデッド化を早める方法だったか。

 だとすると、近くに死霊術士か呪術士がいる。

「ランス! 近くに術者がいる筈だ!」

「術者? 成る程、人為的にアンデッド化させたわけか……人の勝負に手を出しやがって」

 死霊術士の瘴気視スキルで、アンデッド化した魔物と術者の繋がりが見える。割りと近い。

「後方四メートル、木の後ろ」

「大体、あの辺か……風刃槍!」

 槍士のスキル風刃槍は、投擲した時に風属性を付与して攻撃範囲と貫通力を高める技だな。

 アンデッド化した魔物が、糸が切れたように突然倒れて動かなくなった。

「術が不完全だったから、操る術が解けただけで動かなくなったんだな」

「お? じゃあ今ので術者も死んだかな?」

 槍が命中した辺りは大きく抉られ、地面に突き刺さった槍の側に、小鬼が倒れていた。

「何だ、小鬼(ゴブリン)死霊術士(ネクロマンサー)かよ。小鬼風情が邪魔しやがって」

「まだ油断するな」

 ランスが槍を回収しようとするのを、呼び止めた。

「どうしたよ、兄さん。この小鬼はちゃんと……」

 途中で、ランスも異変に気付いたようだ。

 風刃槍を食らって死んだにしては、血が出てない。この小鬼には、新しい切り傷はあっても血が出ていないのだ。つまり最初から死体だったわけだ。

「こりゃあ、一体……」

「死霊術士のスキルに遠隔操作ってもんがある。かなり高難度のスキルだが、作ったアンデッドを遠く離れた場所から操作して、アンデッド越しに会話したり術を使ったりも出来る。だから本体は、多分別の場所にいる」

「ふ~ん、じゃあこの小鬼がまた動き出したりするのかな」

 ランスが警戒しながら槍を回収し、倒れている小鬼の死体に刃を向ける。

「どうかな……普通なら一度解けた術は最初からやり直しなんだが、場合によっては即復活させる事も可能だ」

 こうして警戒してても、小鬼が復活する気配がないから今回は無いみたいだ。しかし、遠隔操作が出来る程の術者なら、アンデッドを倒して油断している相手を仕留める為に即復活の術を仕掛けていても不思議ではないんだがな。

「へぇ、兄さんは詳しいんだな。職業は死霊術士かい」

「いや、以前小耳に挟んだだけさ。それよりも、コイツの狙いはお前だろ。心当たりは?」

 本当は、死霊術士の職業スキルによる知識なんだが黙っておこう。

「ん~。狙われる理由なら沢山あるから、相手は特定出来ないね」

 命を狙われたというのにまるで気にしていない。

「兄さんのお陰で楽に対処出来た。何か礼をさせて欲しいな」

「別に……あ、そうだ。幻夢茸と吸血花と千年幼虫を探してんだけど、知らないか? 全然見つからないんだよ」

「……兄さん。それ全部、危険物だぞ」

 知ってるよ。

「ちゃんと冒険者ギルドのクエストで探してんだよ」

 素材の詳しい情報を知っていれば警戒するのも当然だが、ちゃんと冒険者ギルドの許可はあるんだから問題無し。問題なのは、いくら探しても見つからない事だ。

 今は時期なら、この森で見つかる筈なのに何でみつからないんだよ!

「あ~……その素材は国の危険物指定にされてるから、ここしばらくの間、見つけ次第処分してた」

 クソッたれ、お前の所為かよ!

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