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千変万化!  作者: 守山じゅういち
26/142

26 大穴タクール号

 チャンプのマスケード号が翼を大きく広げ、唸り声を上げて突進してくる。そのまま真っ直ぐに突っ込んでくると見せ掛けて、大きく蛇行して二羽の鶏の間をすり抜けていった。

 棒立ち状態だった二羽が血を吹き出して倒れる。

 すり抜ける瞬間、マスケード号の翼に生えた刃物のような鉤爪が二羽を切り裂いていた。

「クッケエエェェ!」

 血の匂いで更に興奮したマスケード号が奇声を上げて跳び上がる。

 竜を彷彿させるような強靭な脚で蹴りを繰り出してくる。狙いは俺か。

 素早くもう一羽の陰に隠れてかわす。

 蹴りを外したマスケード号が、俺とマスケード号の間にいた残り一羽を力任せに観客の所まで蹴り飛ばし、闘技場には俺とマスケード号だけとなった。

 獲物を狙い定めるようにゆっくりと身を引き、爆発的な突進と共に、嘴を使った突き攻撃が容赦なく襲い掛かってくる。

「クゥケッ!(食らうか!)」

 俺は広げた片翼を使って、闘牛士のようにギリギリでかわす。大きなダメージは無いが、突進を逸らした翼がボロボロだ。

 そう何度も受けられん。

 よろめくように後退し、闘技場の端ギリギリまで下がると、正面からマスケード号を迎え撃つ。

「ケエエエェェ!」

「クェ!(来い!)」

 土煙を上げてマスケード号が突っ込んでくる。

 岩にも穴を開けられそうな嘴が迫る。

「ケケェ(ここだ)」

 嘴が刺さる直前、寝転がるようにかわしてマスケード号の無防備な腹を蹴り上げた。

 ダメージは大して与えられてはいないが、突進の勢いも相まってマスケード号が観客の頭上を越え、テントの外に飛び出していった。

 思わず呆然とする観客達と進行役。

 闘技場に残ったのは俺だけ。進行役の足をつついて、先を促す。

「あ……タクール号の、勝ち」

 テントが悲鳴で埋め尽くされた。


 テントを出ると、賭け札を握り締め落ち着かない様子で辺りをキョロキョロするカルンがいた。

「よぉカルン、ちゃんと賭け札は」

 軽い調子で声をかけたが、直ぐ様カルンに口を塞がれた。

「しぃー! 他の奴らにバレたら襲われるっつーの!」

「わかったよ。それじゃあ換金しに行こうぜ」

「それがさぁ、胴元に呼び出しを受けたんだよ」

 もしかしてイカサマでも疑われたかな。無理も無い話だけど、念のためカルンには何も言わずにおいたからバレる事は無い筈。


 賭けが行われていたテントの程近く、周囲に護衛を配置した小屋に案内された。

 中にいたのは年老いた獣人だった。年配ながらも弱々しさを感じさせない鋭い眼差しで、顔に刻まれた古傷が男の戦歴を物語っている。

「よぉ、随分と儲けたじゃねぇか。カルン」

「いやー、今までの負け分を取り戻そうと半ばヤケクソの大穴狙いが、たまたま当たってさぁ、私も吃驚だよ。この後の予定があるから、さっさと換金してくれないかな」

 賭けの胴元らしき男は、カルンが話してる間も此方を探るようにジッと見ていたが、話し終えた後にニヤリと笑い。

「まぁ、いいか。たまに番狂わせがあった方が客も喜ぶしな」

 何とか乗りきったか。

 男が合図するとカルンの前に幾つかの荷箱が運ばれてきた。

「まずは、頼まれていた特殊加工された魔鉱石炭。それから希少金属を使った壊れた武具。確認してくれ」

 箱を開けたカルンの顔が引き攣る。

「こ、これはあの時の……」

 あの時? もしかして、カルンが叩き折った国宝の剣か。でも何で返還した筈の剣が此処にあるんだ?

「本物か? カルン」

「ああ、本物だ。自分で直した剣なんだから間違い」

 だとすると、返還した剣の方がレプリカって事か。

「国のメンツってのは面倒なもんでな。盗まれた事も、壊された事も、国の名に傷が付くってんで例の一件は無かった事になったのさ。で、要らぬ問題を引き起こしかねないコイツは流れ流れて、今ここにあるって訳だ」

 この剣も哀れだな。国宝だから、ほとんど使われず飾られもせず、ただ宝物庫で埃を被っていたのかもしれん。折角修繕されても折られて、偽物に国宝の座を奪われて。

 何か泣けてきた。

「お前も苦労してんだなぁ」

「何言ってんの?」

 冷めた顔で言われた。はぁ。

 これで必要な材料は揃ったな。

 直ぐにでも作業に取り掛かって欲しいのだが、話しはまだ終わらない。

「残りの金はどうする? 魔鉱石炭と流れ品の剣を買っても、まだ金貨五十枚以上あるぞ。他にも掘り出し物があるが買っていくか?」

 タクール号で稼いだ金は俺の好きにしていい事になっているが、カルンに渡す報酬を差し引いても金貨で四十枚はあるな。あぶく銭だしパァーッと使うか。

「残りの金で買える物の中で、一番貴重な物は?」

「そうだな……Cランクの魔石か、奴隷か」

 どっちも要らねぇな。

「あるいは、卵か」

 卵? 栄養満点な超高級卵かな。

「うげ、魔物の卵かよ。おいイオリ、止めとけ。魔物の卵なんて危険な上に何が生まれるかわからないぞ」

「まぁな。従魔士以外にはあまり価値は無いが、上等な魔物が生まれたら売ったらいい。どうする?」

 ふむ、面白い。


「全く、とんだ道楽者だよ。金をドブに捨てるようなもんだぞ」

「いいだろ、別に。魔石や奴隷を買うより有意義だし夢もある」

「夢ねぇ」

 賭けで儲けた金全てを使い切った。

 カルンには、早速作業に取り掛かってもらう。

「それじゃあ始めるけど、造るのは長剣じゃなくて戦闘で使える大型ナイフでいいんだな?」

「ああ、可能な限り頑丈なナイフで頼む」

 カルンの話しだと完成までに十日前後掛かるとの事。

 それまで時々様子を見に来よう。

「様子を見に来るのもいいけど、卵をどうするのか考えた方がいいんじゃないか? 貧民区に流れてくるような魔物の卵なんて本当にとんでもない代物だと思うぞ」

「大丈夫だよ、従魔士の当てはある」

 呆れた様子のカルンに見送られ、工房を後にする。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『召喚術士』


『カルンの工房に悪意を持って近づく者を排除しろ 召喚・迷彩大梟 剛拳大猿』

 迷彩大梟と剛拳大猿を屋根の上に配置してカルンの護衛にする。どうせ賭けで大儲けした事は、直ぐに広まり中には無理矢理に奪おうとする奴が現れる筈だ。

 作業の邪魔をさせる訳にはいかない。カルンには良い物を造ってもらいたいからな。


 種族『魔甲蟲』 職業『狩人』


 小さな虫に変身すると外と中の通り道になっている城壁の穴の中に入り込み、種族スキルの操糸で通路に網を張る。

 狩人の潜伏スキルで身を隠し、感知スキルに反応があるまで待機する。ついでに糸に細工するか。


 種族『魔甲蟲』 職業『錬金術士』


『遅効性の眠り薬を生成、糸に付与する 催眠糸(スリーピングリード)

 錬金術士のスキルで通路に張られた糸に罠を仕掛ける。天井から垂れ下がった糸に触れた奴は、時間差で眠りに襲われるって訳だ。

 準備を整えて、不埒な襲撃者に備える。


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