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千変万化!  作者: 守山じゅういち
25/142

25 コケッ!

 目の前に土下座する女がいる。この後、どうする?

 ①頭を踏む

 ②ネチネチ責める

 ③手を取り、許す

「④やり返す、⑤拷問器具を使う、⑥兵舎に突き出す」

「あうぅ……わ、わざとじゃないだよぉ。ここらは治安が悪くて、びっくりして思わず」

「思わず殺っちまったから、地面に埋めて隠蔽しようとしたわけだ。生死も確認せずに。⑦奴隷に落とす」

「あうぅ」

 工房の裏庭に大穴が空いた所で俺が起き上がると、カルンは顎が外れるほど驚いていたな。

 いきなり殴られた俺が言うのも何だが、カルンの言い分も分からないでもない。職人街の端ともなると役人の目も届きにくい。力の強いドワーフの娘といえども普段から警戒が必要なのだろう。

 加えて、厳しい懐事情により腹を空かせて栄養不足に陥ってしまい、目を回して倒れてしまったのと、起き抜けだったせいで正常な判断がつかなかったわけだ。

 それらを加味して。

「⑧俺の依頼に全力で取り組む……で、どうだ?」

「え? も、勿論、誠心誠意、心を込めて造らせてもらう……と、言いたいが、ちょっと問題がある」

「問題? どんな?」

 カルンは言いにくそうにモジモジしながら。

「材料が、ない。材料を買う金も、ない」

「材料か……具体的には何がどれだけ必要なんだ?」

 カルンの話しだと、俺が求めているナイフを造るには鉄と魔石、特殊な石炭に少量の魔法金属が必要との事。

 どれも商業ギルドで購入可能な物だが、肝心の資金が足りず手に入らないそうだ。

「商業ギルドなら後払いとかで対応出来ないのか?」

「そ、それは正式なギルド加入者なら出来るけど、私は入ってない。というかクビになった」

 何と。冒険者ギルドにせよ商業ギルドにせよ、よっぽどの事が無い限り追放処分にはならない筈だが。

「何をやらかした」

「…………剣を折った」

「剣を?」


 カルンがまだ商業ギルドに所属していた頃に、ある一本の古びた剣の修繕依頼が入ったそうだ。

 その剣は多少の刃溢れがあったが大きな損傷も無く、決して難しい依頼ではなかった。ただ、依頼人に問題があった。

 修繕を終えた剣を受け取った依頼人が、カルンを殺そうとしたのだ。

 咄嗟に反撃した為、カルンに怪我は無かったが、反撃した際に修繕した剣を砕いてしまったのだ。

 カルンにしてみれば意味不明な話しだ。剣を直せと言われて直したら、殺されかけたのだから。しかし、役人が調査してその謎が解けた。

 カルンに襲いかかったのは盗賊で、盗んだ剣を高値で売る為にカルンに修繕を依頼したらしい。そして、剣の事を知るカルンを口封じの為に殺そうとしたわけだ。

 身の安全の為に反撃したカルンに落ち度は無い。

 だが、一つだけ問題があった。

 盗賊が盗み、カルンが砕いてしまった剣がとある国の国宝だった事だ。

 その一件で国宝を盗まれた国と色々揉めたが、国家間の話し合いではカルンにお咎めは無しとなった。だがそうは言っても、やはりケジメは必要だった。国宝を失った国に対して何かしらの行動を示さないとカルンに危害が及ぶ可能性があると商業ギルドは判断したのだ。

 そこでギルドからの追放処分にする事で相手国に謝意を示す事となったようだ。

 それ以来、カルンの人生は下降気味で、仕事が減る、良い材料が手に入らない、一部の同業者からは馬鹿にされる等々、何とも窮屈な日々を過ごしているそうだ。

 何か、同情してしまうな。

「というわけで、今の私にはナイフ一本造るのも難しいんだ」

「ふむ、では製作に必要な材料は俺が用意しよう」

 鉄は、壊れた武器でいいか。魔石、いや精霊石を出そう。魔法金属は手土産のミスリルで足りるかな?

「こ、この石は……何だ? 初めて見る。魔石に似ているが魔力量が桁違いだ。こっちはミスリルか! これも凄い純度だ」

 えらく驚いているな。これは期待出来そうだ。

「良いナイフが造れるかな」

「いや駄目だな。魔石とミスリルの力に対して鉄の質が悪過ぎる。これじゃあバランスが取れなくて良いナイフが造れない」

 先程までの項垂れた様子からは一変して、厳しい目で材料を吟味している。その姿は正に匠って感じだな。

 それにしても、バランスか。

 まぁ、確かに。このままではママチャリにジェットエンジンを積むようなものか。

 精霊石とミスリルに釣り合う鉄って言われても、一番マシな大鬼騎士の剣はもう売ってしまったからな。

 此処まで来て質を下げるのは面白くない。何とか良質な鉄を手に入れないと。

「カルン、どこか金が掛からなくて材料を手に入れる場所は無いのか」

 いざとなったら、また地中に潜って探すまでだ。

「ん~……一つ当てがある。ついでに残りの材料も手に入れられるかもしれない」

 そう言うと工房を出て目的の場所へと案内された。職人街の外れから更に奥、アケルの街をぐるりと囲む巨大な城壁近くまで来た。

 カルンは辺りを気にしながら一軒の小屋に近づいた。

 城壁にくっつくように建てられた小屋だ。

「この中だ」

 小屋の中には粗末な机と椅子があるが、管理人のような男が一人いるだけで他は誰もいない。

 そんな質素な小屋に入ってすぐ目の前に、外の石壁があった。壁には人が通れそうな大きな穴が空いている。どうやらこの穴を隠す為に、この小屋は建てられたようだ。

「もしかして外に通じてる?」

「ああ、だから他人には黙っててくれよ」

 数メートル進むと外に出た。場所は貧民区のようだ。

 カルンは慣れた足取りで、一際大きなテントにやってきた。

「ここは貧民区の娯楽テントで、中で賭けをしてるんだ。で、その賭けに勝つと金か景品が貰える」

 その景品というのが日用品から禁制の品まで色々あるそうだ。さすが違法賭博、なかなかバイオレンスだな。

 テントに入ると、数十人の客が悲鳴や怒号を上げて中心部の闘技場に詰め寄せていた。

 行われているのは闘鶏だ。二羽の鶏が血塗れになりながら戦っている。

「さてどいつに賭けるかな。出来るだけ倍率が高い奴にするか、手堅く賭けるか、後は……」

 気のせいか、こいつ手馴れてないか? まさか普段、金欠なのはギャンブルに嵌まったせいなんじゃ……

 そんな俺の視線に気付いたカルンが慌てて。

「た、たまにだぞ。たま~にやるだけ。あ、見ろ、チャンプのマスケード号だ。勝ちは確実だから倍率は低いが賭けるか?」

 あんな低い倍率では賭けた所で意味ないだろ。手持ちの小銭を必要な額まで増やすとなると勝ち続けるか、かなりの大穴を当てないと無理だ。

「なぁカルン。次の試合の倍率は合ってるのか? 百倍以上になってる奴がいるんだが」

「ん? 合ってるよ。次の試合はチャンプが参加する複数羽によるバトルロイヤルだから勝率の低い弱い鶏は真っ先に消えるんだよ」

 閃いた。

「カルン、一番倍率の高いタクール号に全額賭けろ」

「え? ないない、あのタクールは無いって。負け続きで食肉用になりそうな奴だよ?」

「いいから全額をタクールにだ。ついでにこのミスリルも賭け金に加えてくれ」

「えぇ! マジかよ、絶対大損するぞ」

「多分、大丈夫だ。俺はちょっと用事があるから結果を見ておいてくれ」

 さて、鶏たちの控え室はテントの奥かな。


 種族『怨霊 伊織 奏』 職業『魔法使い』


 巨大テントの裏に設置された小さなテント。無数のケージの中には試合を控えた鶏たちがいた。

「おい、聞いたか。最弱のタクールに賭ける馬鹿がいるってよ」

 鶏の世話係が相方に話しかけた。

「お忍びの貴族か豪商が遊び半分で賭けてんだろ。全く、ド素人もいいトコだぜ」

「それがよ、あのドワーフ娘のカルンなんだと。しかもどこから手に入れたのか、ミスリルまで賭けやがったってよ」

「はぁ? 負けが嵩み過ぎて頭がイカれたのかねぇ。こっちとしては儲かるけどよ」

 カルンの奴、たまにとか言ってたけど嘘だな。顔と名前を覚えられるほど通ってんじゃねぇか。

 怨霊に変身してテントに侵入すると、世話係が話しに夢中になっている隙に、ケージで眠っているタクール号を外に出して入れ替わる。


 種族『青魔鶏 タクール』 職業『格闘家』


「お、そろそろ時間だな」

 二人の世話係が、俺を含めて五つのケージを闘技場に運び込むと、ケージを乱暴にひっくり返して鶏たちを怒らせる。さらに進行役の男が、興奮作用のある薬品を鶏たちにかけて闘争を後押しする。

「クゥオオォケエエェ!」

「コオォオ!」

「クルォォ」

「ゴゲエェ!」

 四羽の魔鶏が狂乱状態で襲い掛かってくる。

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