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千変万化!  作者: 守山じゅういち
21/142

21 正体

 畑の収穫を魔法を使って手伝った。地中の作物を、傷つけないように飛び出させたり、カチカチの地面を範囲を指定して細かく破壊して柔らかくしたり、邪魔な木を根を残さないように土ごと撤去したり、アレやれコレやれ言ってくる農民に対するストレスを、乱入してくる魔物にぶつけたり。

「これで銅貨二枚かぁ」

 多分、普通に手作業で手伝っていたら、ここまで扱き使われる事は無かったんだろうな。

 追加の謝礼として売り物にならないキズ物野菜を背負い籠一杯に貰ってしまった。宿無しの身では持て余すので、これは孤児院に置いていこうと立ち寄ったら、ちょうど外出しようとするハル達と出くわした。

「おう、ちょうどいい所に。野菜を山盛りで貰っちまってな。孤児院で使ってくれよ」

「うわ、凄い量。うちとしては有難いけどいいの?」

 アイテムボックスから取り出した背負い籠を見て、料理担当のペレッタが問い掛けてきたが問題なしだ。

「構わん、一人で食いきれる量じゃないからな。それより、クエストか?」

「そう、三人揃ってのクエストは久しぶりだからね。様子見で軽いヤツだけど」

「ふ~ん。まあ、気をつけてな」

「は~い! じゃあ悪いけど、この野菜を調理場の勝手口に運んで、多分サティかエリオがいると思うから」


 孤児院の裏にある調理場直結の勝手口。かつては扉があったんだろうが、老朽化が進み無くなっている。

 これじゃあ虫とか入り放題だろうと思ったが、どうやら勝手口と外の境目に、ハルが弱い結界を張っているらしく、小さい虫は弾くらしい。

「お~い誰かいるか? 野菜を持ってきたんだけど」

 勝手口の前で声をかけて暫くすると、若い女の返事があった。どうやらサティのようだ。

「イオリさん? 今、手が離せないから入ってきて」

 調理場で料理中のサティの指示に従って、勝手口から入ると釜戸でフライパンを振るって炒め物を作るサティがいた。

「よぉサティ。野菜のお裾分けに来たんだが、キズ物なんだよ。なるべく早めに使った方がいいと思うんだが、どこに置く?」

 大量の炒め物を作り終えたサティが、持ってきた野菜を吟味する。

 孤児達のなかでは年長組のサティは、ややぽっちゃりした体型だが、手先が器用で将来は料理人を目指す女の子だ。

「う~ん、一度に使うのは勿体ないなぁ。リッキーとエリオに言ってヤバそうなのを仕分けさせて先に使っちゃうか。イオリさん、リッキーを呼んできて」

 この子、ナチュラルに俺をアゴで使うんだよな。別にいいけどさ。

 エリオは真面目な子で、ルウと同い年で働き者だ。

 それに対して、リッキーはサボり魔でよく姿を眩ませる。エリオより年上のくせに仕方のない奴だ。

 リッキーを探していると、広間でルウが栞に挟む札を作っていた。

「あ、おじさん。商業ギルドに売る分の栞を作ってよ」

「後でな。それよりリッキーはどこだ?」

「リッキー? 秘密基地でしょ」

 そう言って天井を指差した。

 この孤児院、元が貴族の屋敷なだけあって部屋の数が三十以上ある。その中でも、子ども達に人気なのが、屋根裏部屋、通称『秘密基地』。

 ギシギシと音を立てる階段を上がって、梯子を使って三階の天井にある屋根裏の扉をノックする。

「お~い、リッキー。調理場でサティが呼んでるぞ」

『……合い言葉を言え』

 知るかそんなもん。

「さっさと手伝いにいけ。じゃないと悪い魔法使いがお前を丸焼きにしちまうぞ」

『そんなんでビビるか、ばーか』

 この孤児院の子は、皆逞しいよな。本当に。

 でも世の中、強気だけでは渡って行けないって事を教えるのも大事な事だ。

 俺はそっと屋根裏部屋の扉に手を添えた。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『魔法使い』


『風よ、彼の地を覆う煙幕となれ 白消失(ホワイトアウト)

 手のひらの向こう側が騒がしくなり、狭い屋根裏部屋の中に白い煙りが充満する頃、扉から小柄な少年が飛び出してきた。

「ちくしょう! 滅茶苦茶すんな、おっさん!」

「うるさいんだよ、くそがき。ほれ、さっさと調理場に行け」

 ぶつくさ文句を言いながら、リッキーが下に降りていく。リッキーは年下のルウやエリオより背が低い事を気にしている。ある程度の年になると、必要以上に見た目を気にしてしまうからな。だから悪ぶって少しでも上に立とうとするが、ほぼ空回ってる。

 広間で押し花の栞を作り、代金を受け取って帰ろうとしたが、夕食を誘われた。キズ物野菜のお礼って訳だ。

 折角だし、お呼ばれするか。


 本日の夕食のメニューは、野菜の炒め物、野菜煮込みスープ、野菜サラダ。野菜尽くしだ。

 子ども達の良い所は、逞しい事と好き嫌いがあっても文句を言わない事だな。

「所で、ハル達が帰って来ないな。軽いクエストと言ってたが」

「夜の仕事だって言ってたから、帰ってくるのは明日の朝だよ」

 じゃあ子ども達だけで留守番か。あまり口出しする事じゃないが、少し心配だな。

 しかし当の子ども達は慣れているのか、少しも不安がる様子がない。

「夜の仕事は時々あったから、もう慣れっこだよ。それに仕事の次の日には、おかずが豪華になるから楽しみなんだ~」

 夜の仕事ねぇ。幾らハルやペレッタが顔立ちが良くてスタイルが良いと言っても、想像しているような仕事のわけないしな。

「気になる? 案内しようか」

「案内? クエストの邪魔になる訳には……」

「大丈夫、他にも大勢の人がいるから」

 う~ん。どんなクエストだ?


 ルウに案内されたのは、街の中心部にある闘技場だった。普段は、演劇、歌謡、大道芸等にも使われるが夜は専ら、賭け試合が繰り広げられている。

 対人から魔物戦まで、どれも人気のバトルだ。

「成る程、僧侶スキルを活かして治療班として働いているって事か」

「あははは……」

 ? 何故か、ルウが苦笑いを浮かべている。

 俺達は、最後尾の立ち見席だ。闘技台の上で巨漢の男が小柄な男をぶん投げている。巨漢の男は体格を活かした格闘家、小柄な男は速度重視の剣士か。使ってる武器は刃引きしてあるが、それでも簡単に骨は砕ける。

 両者共に息が荒い。巨漢の男は片足のダメージで動きが鈍く、剣士の男の剣は半で折れている。

 意を決して剣士が攻める。巨漢の怪我した足を狙うと見せ掛けて、意識が下に向けられた隙を突き、剣を振りかぶって頭部を狙う。

 だが、ギリギリで巨漢の男が頭をずらし、肩で受ける。骨は折れたが、剣士の咽に手刀を叩き込み、その勢いのまま闘技台に叩きつけて試合終了となった。

 負傷者が担架で運ばれ、闘技台の上を片付けた後、進行役の男が闘技台の中央に立つ。

「皆様、お待たせ致しました! 本日、最後の試合! アケルの闘技場チャンプ、ボルダートの入場です」

 その瞬間、闘技場が観客の絶叫に包まれた。

 闘技場チャンプか。自信の現れなのか、鎧のような防具は身に付けず、武器は二つの戦槌だ。

 あれで殴られれば死亡する可能性もあるな。対戦相手も相当な荒くれ者か。

「続いて、対戦者の入場です。冥府の番人を倒して舞い戻ってきた! アケルの街の美しき猛獣、マスクドオォ……タァイィガアアァ!」

 チャンプの時より一層大きな歓声で、対戦者が出てきた。

 身体にフィットした魔物素材のコスチュームに身を包み、一纏めにした長い金髪を尻尾のように揺らして、マスクドタイガーが闘技場に進む。

 その後ろにセコンドとしてシンクとペレッタが続く。

 虎を模した覆面を被っているが、あれは。

「………………はぁ?」

 思わず間抜けな声が出た。

「ある時は孤児院の母、ある時は腕利き冒険者、しかしその正体は、闘技場の星マスクドタイガーなのだ!」

 横でルウが説明してくれたが理解が追いつかない。

 と言うより開いた口が塞がらない。

 そうしてる間にも、闘技台ではハル……マスクドタイガーが片手を突き上げ。

「がおー」

 締まりのない声で吠えた。

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