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千変万化!  作者: 守山じゅういち
20/142

20 右ストレート炸裂

 俺が孤児院で療養中にシンクが冒険者ギルドに報告を済ませていたようで、眠り病のクエストは表向き聖なる盾が解決した事になっていた。

 そもそも俺はこのクエストを正式に受けてないので、報酬さえ貰えれば別に問題ない。報酬としてはギルドに保管されている禁書の閲覧、写本をさせてもらおうと思っている。なんと言っても冒険者ギルドが制限している魔法書だ、きっと貴重な品に違いない。

 と言うわけで、アーリから報酬を受け取る為にギルドに顔を出した。

「あ、イオリさん。どうもありがとうございました。おかげで大切な友人を失わずに済みました」

「気にするな。報酬目当てだったんだからな」

 アーリの顔が強張る。あの時は、半分勢い任せで言っていたかもしれないが、逃がさない。

「それで報酬なんだが」

「そ、そうですね。ここに大銀貨五枚を用意しました。足りない分は後日という事でどうでしょう?」

「いやいや。報酬は金じゃなくて、アーリの働きで払って貰おうか」

 アーリの顔がさらに引きつる。

「いえいえ、私にあのクエストの対価となるほどの価値なんてありませんから。そうだ! 割りのいいクエストを紹介しましょう」

「いやいや、謙遜するな。君じゃないと俺も困るんだ。報酬を楽しみにしてたんだぞ、俺は」

 他の職員に頼んだ所で却下されるに決まってる。

「ぅう~……わかりました。じゃあ、明日の夜でいいですか?」

「いや、今すぐ頼む」

「今! こ、ここで? い、いくら何でも」

 アーリが挙動不審な様子で辺りを見回す。

「ああ、さっさと済ませるから。五分くらい?」

「早い! え、ぇえ? そんな」

「大丈夫、その位で済ませられる。さあ、行こうぜ」

「何で自信ありげ? そこは、ほら、何と言いますか」

 アーリがしどろもどろで、なかなか動かない。

「閲覧禁止の魔法書なんだから、出来るだけ手早く済ませた方がいいだろ?」

「え? 魔法書?」

「報酬は、ギルドの禁書を写本されてもらう事だよ。アーリ以外には頼めないだろ?」

 何だろう、アーリの顔から感情が消えたが。

「ほら、さっさと行こうぜ。……もしかして、スケ」


 殴られた。

 パーじゃなくて、グーで殴られた。

 何だよ、ちょっと言葉が足りなかったからって。自分が勝手に勘違いしたんじゃん。

「ギルドマスターの許可が下りました。特別に第二書庫の入室が可能です」

 案内されたギルド内部の奥、普段は近寄ることさえない第二書庫。アーリが扉の鍵を開けると中へと促された。

 そこは、ギルドの資料室と然程変わらない作りになっていて、保管されている書物も禁書というほどでもない、普通の魔法書みたいだが?

「こちらです」

 書庫の更に奥の壁に大きな扉があった。成る程、禁書はその奥か。

 太い鍵を差し込み、扉を開ける。

 長期間、人の出入りが無かったせいか少し埃っぽい。

 アーリが手にしたランプで部屋のなかを照らす。

「一応、どの本を閲覧したかをこちらも把握しておく必要があるので私も一緒にいますが、この部屋に居られる時間は十五分程度ですよ?」

 まあ、十分だろ。

「ゴーレム関係、強化魔法関係、空間魔法関係で探してくれ」

 時間が惜しいのでアーリに目的の本を片っ端から持ってきてもらう。

「貸し出しは無しですよ。十五分で読み切れます?」


 種族『人間 伊織 奏』 職業『召喚術士』


『主が命じる、書物を写しとれ 召喚・職人妖精』

 召喚した小人たちが、机の上に置かれた禁書の山を手分けして写していく。

 一人がページをめくり、一人が虫眼鏡で読む、一人が白紙の紙に内容を書き込み、一人が製本して、一人が完成した本を運ぶ、連携プレーで次々と複製した本が積み上がっていく。

「あら~、凄いじゃないですか! イオリさん、この子一人下さいよ。うちのギルド、事務処理が貯まってて猫の手も借りたいくらいなんですよ」

「駄目に決まってるだろ。この妖精さん達は、俺の魔力を対価にして召喚してるだけ。用が済めば帰るんだよ、必要なら、他の召喚術士に頼めよ」

「いや、無理でしょ。普通の召喚術士は知ってるモノしか喚べない筈ですよ? 戦った事のある魔物くらいしか喚べないでしょ」

 あれ、そうなの? 俺は召喚術士の職業スキル『召喚リスト』から選んで召喚してただけなんだが。

 意外と俺の変身スキルはチート(ズルい)だったんだな。

 選んだ全ての本を写し終えて、書庫を出た。

「残りの懲罰クエストはいつ出るんだ? なんか借金を残してるみたいでスッキリしないんだが」

「それでしたら、ギルドマスターが全て帳消しだと言ってましたよ」

 え? そうなの?

「マスター曰く、『ふん、あの野郎もまぁまぁ使えるからな、これ以上雑用させても意味ねぇだろ』だそうです」

 お~似てた似てた。

「という訳で、どうします? クエスト、選んでいきますか」

 そうだな。初日に少し見ただけで、どんなクエストがあるか、あんまり知らないんだよな。

 ギルドのクエストボードに貼られた紙を見ると、中央に貼られた紙とは別に、隅っこに避けてある紙がある。

 避けてある紙の内容は、懲罰クエストと同じような安い報酬、難題なクエストばかりみたいだ。

「どうしてもそういう条件の悪いクエストは残っちゃうんですよね。たまにイオリさんの時みたいにギルドが強制的に冒険者にやらせる事もありますが、基本的には貯まる一方です」

 畑の収穫手伝い、稀少素材の収集、魔物の巣の壊滅、建築作業の手伝い、行方不明者の捜索。

 報酬が相場の半値以下か。こりゃ誰も受けんわ。

 ここはクエストと考えず、スキル習熟の為の訓練と考えるか。

「まずは……これかな」

 畑の収穫手伝い、半日働いて銅貨二枚。

「え? 受けるんですか? ほとんど懲罰クエスト並みですよ」

「構わないよ。それじゃ」

 受け付けでクエスト受注の処理をして現場に向かう。

「……やっぱり変な人だわ」

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