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千変万化!  作者: 守山じゅういち
141/142

141 さあ、出発だ

「お前……マジなのか? 本当の本当にテツヤ、なのか?」

「何だよ、忘れるなんて冷たいなぁ……城での地獄のような基礎訓練を一緒に乗り切った仲じゃねぇか」

『馬鹿言うんじゃない。何をどうしたらここまで老けるんだ! テツヤは俺達と大して歳は変わらないんだぞ。絶対に別人だ』

「つぅかお前、コウヘイか? 何だよお前も印象変わってんじゃん。同類同類」

『黙れ! お前がテツヤだと言う証拠でもあるのか!』

「ん~……そうだなぁ、じゃあコウヘイが初めて女子に告った時にやらかした話しをしようか?」

『ま、ままま、待て……え? あ、あれ本人?』

 アオバとコウヘイが自称勇者の中年男に詰め寄り本人かどうか確認していると、男が証拠としてコウヘイ本人が話した過去の黒歴史を喋りかけて、コウヘイが慌てて男の口を塞いだ。

 どうやら過去にうっかりテツヤに話してしまったらしく、その内容を知る者はテツヤだけらしい。

『マジかぁ……』

「おい、どうなってんだ? 何かの呪いなのか?」

「あっははは! 実はとある魔法実験の結果、こうなっちまってな」

 笑いながら自分の腹を叩いて、姿が変わってしまった出来事を語った。



「俺は自分の『魔力量・極大』スキルを活かす為に、普通の魔法使いでは使える者がいない古代の逸失魔法(ロストマジック)を習得しようと考えたんだ。そこで俺はアーク王国が把握している逸失魔法の眠る迷宮に仲間と共に挑んだんだ」

 逸失魔法か。話しによると古代の戦争時に開発された危険な魔法で、あまりの危険性に開発されてすぐに禁術となり、誰にも受け継がれる事なく資料だけが残された魔法らしい。

 テツヤも普段使いは無理でも切り札の一つになるだろうと考えて、資料が封印された迷宮に挑んだそうだ。

「数々の困難の末に俺達は迷宮の最深部へ辿り着き、見事魔法が刻まれた石板を発見し持ち帰る事に成功したんだ」

「ふんふん、それで?」

「難関の迷宮を攻略して目的の石板を手に入れた喜びで興奮した俺は石板を解読して魔法を習得するとどうしても試し撃ちを我慢出来ず、つい使っちまったんだ」

 使っちゃったかぁ。まぁ古代の逸失魔法なんて心を擽るワードには抗えなかったわけだ。分からんでもない。

「だがその石板の一部が暗号化されていて暗号を解かずに使うと誤発動するようになっていたんだ。興奮して焦れていた俺は暗号に気付かずに……結果、この姿ってわけよ」

『誤発動で老いた? 結局、何の魔法だったんだ?』

「時空を歪める魔法さ。時空間に干渉して少しの間、使用者と同一体を複数増やして同期させる事で魔法の精度と威力を爆発的に高めるって魔法だよ」

 単に分身を増やすのではなく自分と同等の能力、思考を持つ存在を増やすのか。それらと同期して通常ではあり得ない威力の魔法を撃つ為の魔法、つまり補助魔法の一種か。

 この魔法を開発した者はこの魔法の危険性を考慮しつつも、いつか必要になる事も考えて石板に残した。そして後世に残す際、資料の一部を暗号化して悪用されるのを少しでも防ごうとしたんだろうな。下手な使い方をすれば敵を倒すだけに留まらず周辺環境に深刻なダメージを与える可能性もありそうだ

「所で、テツヤは迷宮の試練はどうするんだ?  その身体だと……今回は見送る方が良いと思うんだが」

 何しろ訓練場をちょっと走っただけで息切れするようじゃ迷宮はおろか街の外でも危険だろう。

 テツヤも当然棄権すると思ったんだが、俺の言葉にテツヤは朗らかに笑いながら。

「いや、参加するよ? 折角ここまで来たんだし、それにその為の準備も整えてきたんだぜ」

 暢気なテツヤの物言いにアオバが目くじらを立てて反論する。

「おい、ふざけんなよ! こんな腹抱えて息切らしてるような奴が危険な迷宮に行くなんて、死にに行くようなもんじゃねぇか」

 テツヤの突き出た腹を叩いてアオバがテツヤの参加に反対し、コウヘイも頷いて同意している。

『テツヤ、そんな状態で無理をしても仲間への負担が増すだけだ。いくら後衛職だからと言ってマトモに動けないのではどうにもならないだろう。今回は大人しく待っていろ』

 二人に詰め寄られてもテツヤは余裕のある落ち着いた態度で二人の肩に手を置き。

「まぁまぁ、俺の身体については俺が一番良く分かってるよ。こうして三人揃った事だし、迷宮へは明日出発するんだろ? だったら明日、面白いもんを見せてやるよ。じゃあな」

 どういう意味なのか全員が理解出来ないでいる中、テツヤは腹を揺らして立ち去った。

「面白いもんって……なんだ?」

「さぁ……」

『……』

 テツヤの言う通り、全員が揃ったのだから明日迷宮に向かうとしよう。



 翌日、集合場所の冒険者ギルドに来るとまだ誰も来ていなかった。

「ちょっと早かったかな?」

「直に来るでしょ。アオバ、エルフから貰ったポーションはポーチの中に入ってる?」

「入ってるって、かーちゃんかよ」

 緊張しているのか口煩くなっているルリにアオバが辟易している。

 そんな二人の様子を俺とシェリアが微笑ましく見守っている。

 そんな時、毛深い熊のような魔物に荷物を積み背に跨がったコウヘイがやって来た。

『待たせたな……テツヤはまだか』

「あぁまだ来てねぇよ。いっそ置いてくか?」

『気持ちは分からんでも無いが、諦めさせるには本人にちゃんと言った方がいいだろう』

 冒険者ギルドの前でしばらく待っていると揃いの鎧を纏った集団が現れた。

「失礼、『ブルーリーフ』の方々とコウヘイ殿ですかな」

「あぁそうだけど……もしかしてテツヤの仲間の人?」

 アオバが尋ねると集団のリーダーらしき大男が頷き。

「はい、我々はテツヤのパーティー『エターナル』の者です。お待たせして申し訳ない」

『大して待ってはいない。それよりテツヤはどうした? 姿が見えないようだが』

 テツヤの目立つ姿がどこにも見当たらずキョロキョロしていると、集団の後ろに小さな少女が同行している事に気付いた。

「この子も『エターナル』のメンバーなのか?」

「え、それは無いでしょ。お嬢ちゃん何歳?」

「いくら何でも連れ歩くには若過ぎるでしょ」

 ルリとシェリアよりも若い。多分、十歳くらいか。長い黒髪に黒い瞳、ローブ姿で杖を持ち、ニヤニヤしている。

 何か面白い事でもあったのか、上機嫌の少女が笑い声を上げた。

「あっははは! 気付かないようだな……俺だよ俺、テツヤだよ!」

 少女が子供特有の甲高い声で正体を明かすと、脳裏に昨日の中年男の姿が浮かんだ。全員が同じような事を想像したのか一斉にフリーズして数秒ほど経って絶叫した。

『「嘘だろおおぉ!」』

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