137 狂騒鳥、討伐
「まずは脚を攻撃して動きを止めようか。シェリアの魔法でいける?」
狂騒鳥が食事に気を取られている間にルリの仕切りで作戦会議が始まった。
「範囲攻撃なら当てられると思うけど、勘の良い魔物には撃つ前に気付かれて避けられるかも」
「だったら俺が先制攻撃で突っ込んで注意を引き付けるってのはどうだ?」
「それは駄目でしょ、アオバの腕じゃ狂騒鳥のスピードに翻弄されて返り討ちにあうのが目に見えてるよ」
「そんな事ねぇよ」
ルリの言う通り、アオバが突っ込んで行っても即座に蹴り倒されるのが目に浮かぶわ。
「だったら俺が反対側から囮を出して気を引こうか。狂騒鳥が囮に食いついたら背後からシェリアが範囲攻撃を仕掛けるってのはどうだ?」
召喚した探索鼠に幻を被せて驚かせば、数秒くらいは注意を引ける筈だ。
「いいね。それじゃあイオリさんが注意を引いてシェリアが攻撃、脚が止まった所でアオバが追撃して後は流れで対応って事でいいかな?」
大筋の作戦は決まり、狂騒鳥を挟んで反対側に探索鼠を配置して準備完了。
アオバ達に目配せをして作戦を開始する。
種族『人間 伊織 奏』 『』
職業『召喚術士』 『魔法使い』
「『主従の契りを以て、術技を行使せよ 代理行使』『光りを歪め、虚像となれ 幻影』」
探索鼠を巨大化させた幻を被せて囮として狂騒鳥の前に姿を晒した。
予想通り急に現れた鼠の姿に驚いた狂騒鳥が翼を広げて臨戦態勢をとった。
「今よ、シェリア!」
「『地響き』!」
シェリアが杖で地面を突くと周囲の地面が砕け、破片が狂騒鳥を襲う。
「もらったあぁ! 『魔波刃』!」
瓦礫に半分埋もれた狂騒鳥目掛けて、アオバが剣を振りかざす。
「ケアアアァァッ!」
狂騒鳥が甲高い鳴き声を上げて全身を震わせて強引に瓦礫の中から飛び出し、巻き上げた瓦礫ごとアオバに体当たりした。
「くそっ! 痛てぇな、こいつ!」
首を狙ったアオバの剣は思わぬ迎撃にあい狙いを外した。狂騒鳥の片翼の上を刃が滑り、羽毛が飛び散る。
地面に仰向けに倒れたアオバを狂騒鳥が脚で踏みつける。
「ぐぇ!」
幸い竜鱗の胸当てが致命的なダメージを防いで事なきを得た。あれが無ければ胸骨が砕けて死んでたかもな。
「『岩石弾』!」
アオバを押さえ込んでいる狂騒鳥を狙ったシェリアの岩石弾が命中する前に飛び退き、魔法を放ったシェリアに向かって突撃してきた。
「行かせねぇよ」
シェリアの前に立ち塞がり、雷手甲で広範囲に電撃を放つ。
突進していた狂騒鳥は避け切れず電撃を食らい、身体中から白煙を上げてよろめいた。
「『岩石弾』!」
「『魔力弾』!」
脚が止まった狂騒鳥にシェリアとルリの魔法が炸裂した。
「くそ~、良い所無しかよ」
「アオバはもっと敵をよく見ないと駄目だよ」
治癒魔法を掛けてもらいながら愚痴るアオバにルリが苦言を呈する。
アオバには、どうにも勢いだけで突っ走る癖がある。
これまではルリの身体強化魔法による支援とシェリアの攻撃魔法で強敵に対処してきたようだが、そろそろ厳しくなってきたようだ。
「アオバの基礎能力を鍛えないといけないようだな」
「……やっぱやらなきゃ駄目かな?」
「そりゃやんなきゃ駄目でしょ。このパーティーは勇者アオバのパーティーなんだよ? その勇者が鍛練を欠かしちゃ話しになんないよ」
と言うわけで、今日から空いた時間はアオバの鍛練に充てられる事となった。
「おらおらおら、休んでんじゃないよぉ」
「ひいぃ~……た、助け」
ルリとシェリアの放つ弱めの魔力弾を躱し続ける特訓で悲鳴を上げるアオバ。
足がもつれて倒れたアオバに容赦なく魔力弾が嵐のように注がれる。
「おらおらおら、躱してみろよぉ」
「……うごっ! ……ぐぇ! ……ぶぉ!」
ルリとシェリアの杖による攻撃を目隠し状態で躱し続ける特訓で、袋叩きにされるアオバ。
勘で避けようとしても容赦なくルリの杖がフルスイングしてくる。
「おらおらおら、そんなもんかよぉ」
「ぐぃぎぎぎぃ!」
強化魔法で身体能力が増している俺と素の状態のアオバが組み手をして単純な力の差を技術でカバーする特訓。力比べをしていては勝てないのに、今一つ工夫が足りず押さえ込まれるアオバにルリの野次が飛ぶ。
「おらおらおら、振り切ってみろよぉ」
「ぬおおぉぉ!!」
ルリの掛けた弱体化の魔法とシェリアの重力魔法に対抗する特訓。二人の魔法によって地面に這いつくばるアオバ。顔を歪めて耐えるアオバを嬉しそうに見下ろすルリ。
「………………シヌ」
厳しい特訓で精根尽き果てたアオバが地面に突っ伏したまま起き上がれずにいた。
それとは対照的にルリは晴々とした顔で身体を解していた。
「はぁ、楽しかった……勇者候補達が揃うまで日が無いんだし、明日もやるよ!」
「……ムリィィ」
ルリはやる気満々だが、それは無茶だ。体力と魔力を限界まで振り絞ったアオバを休ませないといけないからな。
「ルリ、明日は休みにしよう。アオバが死んじまうから」
俺が止めるとルリは不満そうな顔で渋々了承した。
「ちぇ……シェリア、明日は買い物行こっか」
「うん、そうしよう…………流石に可哀想だし」
「ウゥ…………アリガト、シェリア」
動けないアオバを担いでレーベテットの街へと戻った。