136 暴れ鳥
食後、集合場所を冒険者ギルドに決めてアオバ達は冒険者ギルドへ俺は商業ギルドに向かった。
「コーヒー豆とチョコレートを小袋で渡して……コーヒーは実際に淹れてみた方が食い付きがいいかもしれんな」
専用の道具は無いから手持ちの道具で代用して提供してみるか。
通り掛かった市場で甘めの焼き菓子を買い、ついでにアレンジ出来るような物も用意してコーヒーのポテンシャルをアピールしよう。
コーヒーに入れるとすれば……砂糖、ミルク以外だと酒もいいな。ワイン、ラム酒、リキュール辺りの安いやつを買って、商業ギルドへ向かう。
途中、道を尋ねながら商業ギルドに到着すると早速受け付けで職員に話し掛けた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」
「こんにちは、今日は商品の売り込みに来ました。仕入れ担当の方がいたらお会い出来ませんかね」
「少々お待ち下さい…………では担当の者が対応致しますので、二階応接フロアの五番テーブルへお越し下さい」
専用のフロアがあるようだ。指示された二階に上がると番号付きのパーテーションで区切られた幾つかのテーブルがあり、何席か商談中だった。
そこの五番テーブルに着いて職員を待っていると、程なくして小太りで温和な雰囲気の中年男がやってきた。
「お待たせしました。本日、担当します商業ギルド職員のハーチェットと申します」
「どうも初めまして、アケルの街の冒険者パーティー『聖なる盾』のイオリです」
お互いに軽く自己紹介をして商談に入る。
「商品の売り込みとお聞きしておりますが、どのような?」
「二つですね。一つはチョコレート、もう一つがコーヒー豆です」
テーブルに並べたサンプル品をハーチェットが指で摘まんで鑑定していく。
「どちらも食べ物のようですね……ですがこの辺りでは聞いた事が無い名前だ。これらはイオリさんが生産した物ですか?」
「いやいや、これらはエルダーフルから輸入した物ですよ」
「エルダーフル!? あの国といえば魔法関連の道具類は有名ですが食材に関してはあまり情報が無いんですよね……あの国と交易出来る国はそう多くは無く、扱う品も魔法具が殆んどですからね。此方の品、味見しても宜しいですか?」
「はい、どうぞ」
ハーチェットがチョコレートの欠片を口に入れると目を閉じてゆっくりと吟味している。
「ふむ……なるほど」
「チョコレートは加工して味を調整出来ます。コーヒー豆はそのまま食べる物ではなく粉にしてお湯を掛け、抽出した液体を飲みます」
目の前で魔法で豆を粉砕し、底に穴を開けた小さいカップに布を敷いて、そこへ粉末状にしたコーヒー豆を入れる。
沸かしたお湯をカップに注ぎ、滴り落ちてきた液体を小鍋で受ける。
「ほぅ……良い香りですな」
ある程度溜まった所でカップに注ぐ。
「どうぞ……お好みでミルクや砂糖、その他色々な物を入れて下さい」
市場で買った酒類や調味料、ついでに焼き菓子もテーブルに並べて、ハーチェットの試飲する様子を伺う。
ハーチェットが一口飲むと一瞬苦味を感じて眉をひそめたが続いて二口目を飲んで甘い焼き菓子に手を伸ばした。コーヒーとクッキーって合うよね。
「……これを試してみましょう」
ハーチェットがワインをカップに注ぎ、一口味見をしたが想像した味とは違ったのか首を捻る。しかし、コーヒーはしっかり飲み干している。
「どうですか?」
「悪くないですね……これらの品は直接、うちに卸して頂けるのですか?」
「それなんですが、俺は普段アケルの街で活動しているんですよ。なのでアケルの商業ギルドを通じて注文を取りたいなと思いまして……可能ですか?」
「はい、可能ですよ。それでは委託販売契約を結んで少量売りに出してみますか」
よしよし。幸先の良いスタートが切れたじゃないか、これ。後は上手く噂が広まって売り上げが伸びてくれるのを期待するか。
商業ギルドを出て、待ち合わせ場所の冒険者ギルドへ行くとクエスト受注を終えた三人が待っていた。
「待たせちまったな、良いクエストはあったかい」
「はい、『はぐれ狂騒鳥狩り』です」
狂騒鳥というのは地上を高速で走るダチョウに酷似した鳥だが、ダチョウよりも遥かに狂暴で嘴による刺突を食らうと金属の盾でも容易に貫通し、太くて強靭な脚で蹴られれば骨が粉砕される。
そんな狂暴な魔物が群れからはぐれて街の付近にいるらしい。
「昨日、護衛を連れた商人の馬車が襲われて命は助かったものの怪我人が多数出て馬車も半壊したらしいんだ。お陰で報酬額が上がって他の冒険者も狂騒鳥探しをしているんだとよ。俺たちも急ごうぜ」
狂騒鳥の目撃情報はいずれも街の近くで、デカい馬車や魔物相手に突撃している姿が確認されている。相当好戦的な奴みたいだな。
見晴らしの良い平原に行くか、目撃情報のある森に行くか、どちらに進むんだろう。
「さて、どこへ向かうんだ。と言うか、どうやって対処するんだ?」
相手は人より速い魔物だ。いくらなんでも正面からは行くのは、無い。だとすると何かしらの作戦が必要だが、まずは見つけないとな。
「私は森で探した方が速いと思います。罠を仕掛けるにしても戦うにしても、見晴らしの良い平原は私達に不利ですから」
シェリアは森で戦う方が良いと言う。俺もそう思う。
遮る物が無い平原で駆け回る狂騒鳥を追い掛けるのは一苦労だ。
「では、そうしましょう。アオバとイオリさんもそれで良いわね?」
「オッケー」
「わかった」
四人で近くの森にやって来るとすでに何人かの同業者の姿が活動しているのが見えた。辺りを探索している様子から、まだ誰も遭遇はしていないようだ。
「で、どうやって見つけようか」
「このまま歩き回って探すんじゃないのか?」
「それは流石に効率的じゃないから。四方にバラけて探す?」
ルリが狂騒鳥の探索方法について全員で手分けして探すやり方を提案してきたがそれは反対だ。
「森の中で単独行動は避けた方が良いだろう。狂騒鳥以外にも危険な魔物は大勢いるし、せめて二人組で動かないと」
「それもそっか。じゃあどうする? アオバと私、シェリアとイオリさんで組んでみようか」
取り敢えずその組で二手に分かれて狂騒鳥を探す事になった。
「それじゃあ狂騒鳥を見つけてもいきなり仕掛けたりせずに精神魔法の『念話』で相手を呼ぶようにしよう」
ルリとシェリアが『念話』が使えるのでその辺のやり取りは任せよう。
「それじゃイオリさん、私達は向こうを探そう」
「わかった。行こうか」
種族『人間 伊織 奏』 『』
職業『狩人』 『召喚術士』
「まずは索敵から……『小さき探索者よ、その働きを示せ 召喚・探索鼠』」
召喚陣から十数匹の鼠が扇状に広がりながら散っていき、俺の肩に一番大きな隊長鼠が残った。
探索に出た鼠達の情報が隊長鼠を通じて俺の頭に送られてくる。その内の一匹が痕跡を発見した。
「……シェリア、左前方で鼠が足跡を見つけた。行ってみよう」
「もう? 早いね」
捜索開始して数分で地面に残された独特な足跡を発見し、その足跡に残った匂いから主を推測して情報を上げてきた。探索鼠を足跡の進行方向へ走らせると道中で空気中に漂う血の匂いを感じとり脚を止めさせた。そこから慎重に進むと首の骨が折れて横たわる熊の死体と、傍らで地面をガリガリと脚先の爪で削る狂騒鳥を発見した。
「シェリア、狂騒鳥を見つけた。ルリに知らせろ」
「わかった…………繋がった。直にここへ来るよ。狂騒鳥の様子はどう? 逃げそう?」
興奮しているのは分かる。殺した熊を食おうとしているのですぐには逃げないだろう。
「まだ大丈夫だ。周りに他の魔物も人間もいないから邪魔は入らない」
探索鼠が監視している間にアオバ達と合流した。
「お待たせ。狂騒鳥の様子は?」
「食事中だ。今のうちに作戦を立てよう」
狂騒鳥を相手に無策で突撃は駄目だ。三人の作戦で仕留めないと。