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千変万化!  作者: 守山じゅういち
131/142

131 勇者の試練

「ロゼス王国のティターノ伯爵と配下のウルトは外部との接触を一切断ち、厳重な監視を付けて王都に護送しました。本来、ウルトはともかく他国の貴族であるティターノ伯爵の身柄を拘束する事は難しいのですが、我が国の過激派が伯爵の暗殺を目論んでいるという情報をでっち上げ、それを防ぐ為に如何なる接触も断っているという体でロゼス王国側の抗議に対応しております……あとはロゼス王国からの口封じに警戒しつつ特別施設に収容予定です」

 闘技場での戦いから一夜明け、従者のマクスエルの報告をベッドの上でピナリーが聞いている。

 粗方の大きな傷は癒えているが体調が完全に回復するまでは大事を取って休んでいるようだ。同じようなダメージを受けた俺は元気に歩き回っているがな。

「わかった。念のため護送ルートは複数用意しろ……さて、待たせたな『聖なる盾』のハル、ペレッタ、イオリ。此度の働きに対し、国王アーベルト・シグマ・ウィルテッカーに代わって礼を言う」

 アーク王国にとってロゼス王国は単に国境を接する隣国というだけでなく、これまでも表沙汰にならない方法でアーク王国の脆弱な点を突き、幾度となく煮え湯を飲まされてきた敵対国なのだそうだ。

 それが今回、ロゼス王国にとって急所となりうるティターノ伯爵を合法的に確保し、さらに騒動を起こしたウルトを生きたまま捕らえる事が出来た功績を大きく評価され、闘技場でピナリーに重傷を負わせた件は本当にお咎め無しとなった。だが同時に。

「本来ならば我が国の民を危険に晒した賊を倒し、国に益をもたらした者には相応の礼をしなければならない所なのだが……場合によって今回の一件、まるごと無かった事になるかもしれん」

「無かった事になるって……何かの取り引きでそうなるって事か?」

「そうだ。幸い、伯爵とウルトの存在を知る者は少数で、隠蔽は難しくない。この一件を闇に葬る事と引き換えにロゼス王国に大きな借りを作る事が出来るなら、国は其方を選ぶだろう……そうなれば存在しない出来事でお前達に褒賞を与える事は出来ん」

 まぁ、別に構わん。正直、国と国とのゴタゴタに巻き込まれて面倒くさい事になったが、褒賞を受け取ったら他所の注目を浴びて、余計に面倒くさい事になっていたかもしれない。それを考えたら何も無かった事にするのが一番だろう。

「国からの褒賞なんて一介の冒険者には分不相応なもんさ。過ぎたるは猶及ばざるが如しってな」

「……そうか。では今回の責任の全てにアーク王国は関与しない、これでいいな?」

「? あぁ、それで……」

「お前の壊した闘技場と街の修理費もお前持ちで、いいな?」

 ……待って。え? 修理費?

「舞台の一部の修理程度なら街の税金で賄えるんだが……お前が起こした爆発の影響で闘技場全体にダメージが残り、周辺の家々にも結構な被害が出たからなぁ……」

「え、あ、いやあれは……」

 そっとハルやペレッタに視線を送るといつの間にか距離を取られていた。

「マクスエル、被害総額はどの程度になりそうかな?」

「はっ。おおよそ金貨四千枚にはなろうかと」

 ………………窓から逃げようかな。

「金貨四千枚か、大金だな。だがある頼み事を聞いてくれれば全額、私が立て替えよう」

「頼みとは? 国王の髭でも毟ってこようか? それとも……」

「落ち着け、国王の髭にそんな価値は無い……頼みたい事とは勇者候補のアオバの事だ」



「アオバを含め、アーク王国には勇者候補が三人いてな。近々、彼らに勇者の試練を受けさせる予定なのだ」

 そう言えばアオバはまだ正式な勇者じゃ無いんだっけ。

「勇者候補達に受けさせる試練は『聖武具』の試練。神々が造ったと伝わる迷宮に赴き、そこで専用の武具を授かる試練だ……お前にはアオバのパーティーに臨時加入して彼が試練をクリア出来るように力を貸してやって欲しい」

 正直、アオバに力を貸す事に異存はない。

 ただ気になる点があったのでピナリーに確認する。

「俺が力を貸すのはアオバにだけ、なのか? 他の勇者候補達にはその必要は無いのか、それとも別の奴が力を貸しているのか?」

「お前に任せるのはアオバのパーティーだけだ。他の勇者候補は少し問題があってな……あまり協調性のある者達ではないのだよ。国としては三人とも試練をクリアして欲しいがどうなるやら……」

 ピナリーはあまり期待はしていないようだ。よほどその試練とやらが困難なのだろうか。

「アオバが試練に失敗したら立て替えの件は……どうなります?」

 俺としては国の意向などどうでもいいが、莫大な借金がどうなるかの瀬戸際なのだ。失敗が許されないとなれば相応の覚悟が必要性になる。

「案ずるな。試練の合否関係なく依頼を引き受けてくれた時点で立て替えてやる……それより、試練は失敗しても構わんがアオバが死なないように気を配ってくれ……記録によればこの試練で命を落とした候補もいたらしいからな」

「命を落としかねない試練か……一体、どんな試練なんだ?」

「わからん。この試練も神々が用意した物で、内容について過去の勇者達が残した資料によると全てバラバラでな。どうやら試練を受ける者に合わせて中身が変わる特殊な迷宮らしい」

「それはまた……」

 特殊迷宮か。面白そうだが、依頼はアオバ達が試練をクリア出来るように補佐する事だ。

 欲を出して疎かにしてはいけない。

「わかった。その依頼、引き受ける……というわけでハル、ペレッタ、しばらく留守にするから子供達と樹の世話を頼むよ」

「はい、わかりました。と、言っても樹の方はミーネさんが昼夜問わず付きっきりですけどね」

「あぁ~確かに……ミーネさんが暴走しないように気を付けてくれ」

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