13 墓地で一人ぼっち
今日は簡単な掃除の仕事だ。正直、掃除くらい誰か受けろよって思うけど。
場所が墓地だから気味悪がって、誰も受けないのか?
広い墓地のゴミを拾ったり、墓石を洗ったり、雑草を抜いたりと地味に仕事は多いので、召喚術で家事妖精を喚んで手伝ってもらっている。小さい身体でよく働く、働き者だなぁ。
そういえば、こっちの世界じゃ幽霊も魔物の一種なのかな? 転生前に見たリストの中にも幽霊系の名前があったが。
大部分の掃除を終え、墓地の角にある巨木の点検に向かうと、人が立っているのに気づいた。
よく見るとギルドマスターだ。巨木の前に置かれた古い墓石の前で佇んでいる。
「誰かの墓参りか、ギルドマスター」
「おめぇか。まぁ、古い友人のな。……いつの時代にも、人の言うことを聞かない奴ってのはいるもんだ。そういう奴は、早死にする。おめぇもほどほどにしとけよ」
苦言を呈して、ギルドマスターは去っていった。
いつになく、しんみりしていたな。まぁ、墓参りなんて楽しげにするわけないか。
最後の墓石を磨いて、クエスト完了だ。
冒険者ギルドでクエスト完了の報告をして、少ない報酬を受け取るとギルドの食堂で食事を摂る事にした。
街にある食事処に比べれば、味はいまいちだが、値段は財布に優しい設定で、その日暮らしの冒険者にはありがたい食堂だ。だから、普段は多くの冒険者が昼夜問わず利用しているんだが、今日は珍しく少ない。
「さてと……何にしようかな」
「今日はサービスで、小皿料理を一品付けてやるぞ」
食堂の料理人兼ウエイトレス兼現役冒険者の女性が笑顔で勧めてきた。
「じゃあ、今日の日替わりとその小皿料理を」
俺が注文すると一瞬、ギルド内の空気がざわついた。
「?? 何だ?」
「まずは、サービスの小皿ね」
作り置きしてあった料理が出てきた。見た目、灰色のソースがかかった肉料理だ。
一口サイズの肉を食べる。何かのペーストを使ったソースかな? 少し苦味が……
スキル『毒耐性』を獲得
「おい、何故かスキルを得たんだが」
「ふふふ、料理人のスキル『無毒化』と猛毒素材の合わせ技によるスキル獲得術だ! 試行錯誤した甲斐があったぜ」
こ、この女、客を実験台にしやがった。
「ふざけんな! 猛毒素材だと? そんな物、料理に使うな!」
「大丈夫だ。ちゃんと計算して毒の効果は抑えてある。たった一口で、有用なスキルが手に入っただろ? でももう少し、毒の量を増やしてみてもいいかな」
信じられないクソ料理人だ。だから、客が少なかったのか。さっきのざわめきもこの料理の事を知ってたからか。
続いて出てきた日替わりのパスタを慎重に食べたが、こっちは普通だった。もしかしたら、毒耐性スキルで気が付かなかっただけかもしれないが。
何て日だ。こんな気分で食事を摂るなんて、最悪だ。
食事を終え、席をたつと、入れ違いでギルドに入ってきた奴らがいた。
コイツらに一言、アドバイスしておかないと。
「今日のサービス料理、最高だったぞ。絶対、注文した方が良い」
「え? そうなのか。ありがとよ、注文してみるわ」
笑顔でお互い去っていく。
自分だけ被害を受けるのは寂しい、この気分を多くの人と分かち合いたい。
『主が命じる、力の限り戦え 召喚・小鬼剣将軍』
腹ごなしに戦闘訓練を行う為に、人気のない森へとやって来た。そして、対戦相手には小鬼剣士の上位種、小鬼剣将軍を選んだ。
目の前の魔法陣から、鎧と二本の剣で武装した小鬼が現れた。
「召喚時間は、一分。森の中からは出ない、いいな」
職業を剣士に変更し、地面に刺していた剣を握る。
いままでアイテムボックスに入れっぱなしにしていた大鬼騎士の剣だ。大柄な大鬼騎士が使っていた剣は、人間には少し重いが、事前に身体強化をかけてあるので問題ないだろう。
剣将軍が両手の剣を突き出すように構えて、突撃してくる。
素早い連撃をかわしながらこちらも反撃するが、直ぐにある事に気づく。ヤバい、失敗した。
今の俺の実力では剣将軍には、勝てない。剣技も劣っているし、武器も合ってない。
少し相手を甘く見ていた。反省。
絡め取られるように剣を弾かれ、大きな隙が生じた。
そのまま剣を投げ捨てて、顔面に迫る刃を仰け反るようにギリギリで避ける。身体強化による高い運動能力で致命傷こそないが、あちこち切り傷だらけだ。
反撃しようと予備の剣に手を伸ばすが、先に二つの刃が腕と首に食い込みかけた所で、召喚が解除された。
「……っはぁ、はぁ~、命拾いした」
流石に首に刃が当たった時は、血の気が引いた。
身体の傷を治し、呼吸を整えると。
「もう一度だ」
種族『人間 伊織 奏』 職業『召喚術士』
『主が命じる、力の限り戦え 召喚・小鬼剛腕拳士』
魔法陣から出てきた小鬼は、格闘系の上位種。両手に巻いている固い皮ベルト以外は、武装なし。ただ全体的に皮膚が分厚いような印象だ。
種族『人間 伊織 奏』 職業『格闘家』
準備が整った所で剛腕拳士が前傾姿勢で駆けてくる。
両腕を畳んで、顔面をガードしたボクシングスタイルだ。となれば、まずは拳による牽制攻撃か。
こちらもカウンター狙いで間合いを詰める。
お互いの間合いが重なる直前、剛腕拳士が前のめりに倒れかけた。次の瞬間、剛腕拳士の胴廻し蹴りが、頭上から襲いかかってきた。
「っがぁ!」
攻撃の為に拳を引いていた俺は、予想外の攻撃に対処が遅れて、まともに食らってしまった。
顔面から地面に叩きつけられた。直ぐ様身体を起こそうとするが、正面を向く前に追撃のアッパーが俺の身体を勢いよく反転させる。
結局、一撃も入れる事が出来ずに、召喚が解除させるまで殴られ続けた。
「く、くそ~……次だ」
その後、様々なタイプの小鬼と戦ったが上位種には勝てなかった。しかし、これで諦めはしない。勝つまで、いや、自力で上回れるまでやってやる。今日みたいに補助魔法を使ってたんじゃ、まだまだだ。
今後の目標を定めて訓練を終えると、森を出てアケルへの帰り道を目指す。正直、ボコられ過ぎて歩くのが億劫だ。
街道を行く人たちの中に知り合いがいた。
「ゴラン、街まで乗せてくれ」
「あ、イオリさんかい。いいと……どうした! ボロボロじゃないか!」
「ちょっと訓練でね。疲れて歩きたくないだけなんだ」
荷台の上で横になり、身体を休める。
「はぁ~、冒険者ってのは大変だねぇ。そうだ、イオリさんに良い物をあげよう」
そう言ってゴランがポケットからある物を取り出した。
「こ、これは……」
「どうだい、珍しいだろ。押し花の栞だよ」
あの時、花売り少女に作らされた栞だ。なんでゴランが持ってるんだ?
「それ一枚で大銅貨一枚したけど、きっと売れると思ったから二十枚全部買ったんだよ」
大銅貨一枚! あのぼったくり少女は、十倍の値段で売ったのか。これにそこまでの価値があるのか?
「幾らなんでもぼられ過ぎだろ。商人がそんなんでいいのか?」
「あっはっは、まぁ損はしないさ。この栞を売っていた子を応援するって意味もあったしね」
応援する? ただの路上売りだろ。そんな疑問が顔に出ていたのか、ゴランが笑いながら。
「あの子はタイガース孤児院の子で、君も知ってる聖なる盾のシンクやペレッタもそこの出身でね。この栞を売っていたのも二人にとっては妹みたいな子さ」
シンクやペレッタは孤児院出身だったのか。そういえば、シンクは赤髪、ペレッタは黒髪で外見はあまり似てなかったな。
「ついでに言えば、私はハル・ウェルナーのファンだからね。どうしたってあの子達には力を貸したくなるんだよ」
ハル・ウェルナー?
「聖なる盾のリーダーにして、タイガース孤児院の代表さ。今は体調を崩していて、代わりにシンクやペレッタが頑張っているってわけ」
ふーん。ゴランがやたらと聖なる盾の二人に甘いのは、そう言った事情があったのか。