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千変万化!  作者: 守山じゅういち
129/142

129 さて、どうするか

 ピナリーの右の鉤爪が竜牙騎士(トゥースナイト)の目を貫き、さらに奥へと押し込まれる。猛毒云々よりも爪が脳を破壊し、致命傷となっている。

「……終わ…」

 ピナリーの注意が竜牙騎士からウルトに向けられた時、予期せぬ事が起きた。

 ぐらついて片膝をついた竜牙騎士の手がピナリーの左腕を掴み、握り潰したのだ。

「!? ぐぅ!」

 瀕死の竜牙騎士の身体を蹴飛ばし反動で飛び退いたピナリーが俺の傍に倒れた。


 種族『人間 伊織 奏』 『』

 職業『剣士』 『僧侶』


「ど、どういう事だ……」

「……すぐに治す『砕かれた肉体を修復せよ 復元(リストア)』」

 変形していた左腕が元の形に戻ったがダメージが抜けたわけでは無い。

「使えそうか?」

「……駄目だ。感覚が鈍い」

 俺の治癒魔法はハルほどの効果が無く、この場で完全回復には至らなかった。

「致命傷は与えた筈なのに……」

 悔しげに竜牙騎士を睨み付けるピナリーをウルトが嘲笑した。

「残念だったな、ピナリー王女。そいつは魔力生体構造で出来ていてな……生きた細胞を素材にしているが生物とは違い内部構造は単純なのさ。首をはねようが胴体が千切れようが、魔力が尽きるまで戦う事を止めねぇぞ」

 つまり、半分人形みたいな奴ってわけか。従魔術士のウルトが操っているというのなら。

「姫さん、デカブツは俺が抑える! あんたはウルトを仕留めろ!」

「……わかった。そいつは死なない化け物だ、注意しろよ」

 ピナリーが竜牙騎士の脇を抜けてウルトに肉迫する。

「来るか、『毒華』のピナリーィ! 『召喚・悪意剣』」

 ウルトが召喚した大剣でピナリーを迎撃する。

 さて、此方も始めるとするか。


 種族『人間 伊織 奏』 『大鬼』

 職業『剣士』 『格闘家』


 大鬼の能力を上乗せし、全身に力が漲る。

「行くぞぉ、らあぁ!」

 『魔波刃(オーバーブレイド)』で強化した一撃で両断された竜牙騎士の左手が宙を舞う。

 二撃目を繰り出す前に竜牙騎士の槍に阻まれ剣が弾かれる。素早い動きで突きを放つ竜牙騎士の攻撃を受け流し、肩から一直線に振り下ろす。

 半身を大きく斬り裂かれた竜牙騎士の身体からは予想したほど血が噴き出さず、一瞬動きが止まった程度で瞬く間に再生し、新しく生えた左手に危うく掴まれそうになって後退した。

「なるほど、剣や拳の攻撃では効果が薄いな……だったら」


 種族『人間 伊織 奏』 『怨霊』

 職業『魔法使い』 『呪術士』


「魔法耐性よ、下がれ『弱体化の呪い・水』」

 特定の属性に対する抵抗力を下げて、魔法効果を高める戦法だ。

「『冷気の姫君、舞い踊れ 氷結乱舞(アイスブリザード)』」

 放たれた冷気の塊が竜牙騎士を包み、その身体を凍らせる。白い氷に覆われた竜牙騎士の動きが止まった。

 身体の芯まで凍ったかどうかはわからんがこれでしばらくは保つ筈。

「今のうちに……」

 その場を離れピナリーに加勢しようと氷から目を離した瞬間、一気に氷が砕けた。

「……んな、馬鹿な」

 一瞬、氷が砕けた事に気を取られて反応が遅れ竜牙騎士の攻撃を避けられず、槍が肩に食い込んだ。

「ぐぁっ! しまっ……」

 魔法を使う為に後衛職にしていた事が仇になった。


 種族『人間 伊織 奏』 『粘体生物(スライム)

 職業『剣士』 『暗殺者』


 肩に刺さった槍を引き抜き、粘体生物の『自己再生』スキルで治す。その間にも竜牙騎士の攻撃は続く。

 槍の猛攻を躱しつつ後退すると、竜牙騎士の口内から炎が灯る。

 至近距離から放たれる火炎放射が容赦なく俺の身体をなぶる。

 咄嗟に身を捻り、炎に焼かれたのは僅かな時間だったが足が焦げて力が入らない。

「……ちぃ」

 肩と足、両方の再生にはもう少しかかる。苦悶の表情を浮かべる俺を見て、竜牙騎士が嗤った。

 意思があるとは思えないが、爬虫類のワニ顔野郎が微かに口角を上げて嘲笑したように思えた。

「……調子に乗りやがって」


 種族『人間 伊織 奏』 『粘体生物』

 職業『魔法使い』 『錬金術士』


「まずは……水だ! 『果てなき大海の蛇よ、我が元へ来たれ 海精大蛇流(サーペントウィップ)』」

 巨大な蛇を思わせる海流を造りだし、竜牙騎士の口内目掛けて突撃させた。

 狙い通り口から体内に膨大な水が侵入していく。大量の水を強制的に飲み込んだ竜牙騎士の身体がどんどん膨らんでいき造り出した『海精大蛇流』が八割方、竜牙騎士の体内に納まった所で。

「最後に『水を分解し、燃焼物へと変えよ 分解錬成』!」

 大量の水を水素と酸素に変換し、液体から気体へと変える。膨らんでいた竜牙騎士の腹がさらに数倍の大きさまで膨らんだ。

 ミチミチと音を立てて皮膚が引き裂けようとしているが、腹が裂ける前に俺の雷手甲に電気の火花が散る。

「ピナリー! 耳、塞げぇ!」

 忠告としては遅すぎたかも知れない。俺は叫ぶと同時に竜牙騎士の顔に放電した。

 至近距離で轟音を全身に浴び、衝撃波によって俺とピナリーとウルトは闘技場の観客席まで飛ばされた。

 衝撃に強い粘体生物の特性を加えていたお陰で、五感にダメージを受けたが失神する事なく堪える事が出来た。

 視界がボヤけ耳鳴りが酷いが頭を振って立ち上がり、飛ばされた観客席から竜牙騎士のいた舞台を見下ろすと、舞台上で小さなモノが蠢いていた。

「ま、まだ再生、しようって、のか。しつこい……」

 だがあそこまで弱れば簡単に封印出来そうだ。

 観客席を飛び降りて舞台上に戻ろうとしたが視界の端に倒れている何者かの姿が映った。

「ん? 逃げ遅れ、か?」

 周囲にはこの男以外には誰もいない。まさか暢気に俺達の戦いを観戦していたとでもいうのか。

 面倒だが後で治療してやるか。取り敢えず放置して、先に竜牙騎士の始末をしようとした時。

「待、て。イオ、リ……そいつを、取り押、さえ、ろ……」

 驚いた事にあの爆発でもピナリーは意識を失わずにいたようだ。身体を引き摺って此方に這ってくる。

 すぐに治癒魔法を掛けて回復させる。

「大したもんだな。あの衝撃に耐えたのか」

「……お前には言ってやりたい事が山ほどあるが、まずはあの男の確保が先だ。ウルトより先に奴の身柄を確保しろ」

 そういえばウルトの姿が見えない。闘技場の何処かに飛ばされたか。

「早くしろ、ウルトは召喚獣に自分のダメージを肩代わりさせている。すでに動けるようになっている筈だ」

 それはマズい。先手を取られる前に倒れている男の元へ行き、土魔法で身体を通路の床に埋め込んで運べないようにした。

「……はぁ、やれやれ」

 静まり返った闘技場にウルトの声が響く。

 ウルトの姿を探していると。

「お前よぉ……マジで何を考えてんだ? 仲間ごとやるとか、イカれてんのか」

 数メートル離れた柱の陰からウルトが身を乗り出してきた。

「おおっと動くなよ……いくら狂犬じみたお前でも少しは人の心を持っているならよぉ」

 ウルトの腕の中に気を失った子供がいた。

「こういう手は効果あるだろ……ベタな言葉で悪いが、子供の命が惜しければ……動くなよ」

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