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千変万化!  作者: 守山じゅういち
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百二十六 悪党の密会

 アケルの闘技場の観客席はその日、試合を観戦しようと人が押し寄せ用意されていた席は早々に埋まり、通路や階段に至るまで人で埋め尽くされていた。

 こうまで人が入り乱れると多少不審な人物が

いても誰も気に掛けようとはしない。

 闘技場、最上部の立見席にフードで顔を隠した男が二人、人目を気にするように柱の陰に隠れていた。

 他の観客達が中央の舞台で行われている試合に熱狂し、歓声を上げているのに対し怪しげな男達は存在を隠すようにひっそりと佇んでいた。

「……例の剣闘士の準備は整ったか」

「はい。魔紋処理も完了し、仕込みの方も抜かりなく」

「よし……これで予定通りの試合運びとなれば契約完了となる。念の為、貴様は舞台近くの通路で試合を監視しろ。雇った連中が詰まらん終わり方になるようなら……貴様が始末しろ」

 男が懐から硝子の小瓶に封じた丸い結晶を手渡した。

「これは?」

「取り引き相手からの贈り物だ。魔石を特殊加工した物で、相応の血肉があれば魔物を急速再生させる事が出来るそうだ」

「そんな技術が……これを使う最低限のラインは?」

「取り引き相手からの要望は『聖なる盾』の戦闘技能を記録し、可能ならば潰す事。使い捨ての駒が敗北し、連中が油断している隙をつけ」

「はっ」

 男は一礼して、素早く姿を消した。

 配下が去り、一人残った男は眼下で繰り広げられる試合を興味無さげ見下ろしながら独り言を呟いた。

「弱小国の分際で調子付きおって……ここらで芽の一つ二つ、刈り取っておくか」



 闘技場の選手控え室でライカとフーシは水代わりに酒を呷り、刻一刻と迫る試合に向けて殺気と闘気を高めていた。

 興奮して上気した上半身からはじんわりと汗が滲み、その肌には幾つもの魔紋が刻まれていた。

「……ふんっ!」

 興奮を抑えきれないライカが手甲を填めた腕を机に叩きつけて、粉々に砕いた。

「ゲヘへ、準備万端ですなぁ。やる気漲る貴方達に、支援者様から差し入れで御座いますよぉ」

 粘り付くような笑みでゴールディが小瓶を二つ差し出した。

「なんでぇこりゃ」

「スペシャルなポーションですよぉ。市場には出回らない品で……ある種の活性薬と思って下さい」

 言外にこのポーションの悪質性を匂わせてきたが今さら怖じ気づく二人ではない。

 封を開け、中身を呷った。

「クソ不味いな……」

「ちげぇねぇ……お?」

 飲み込んですぐに、体内で魔力が駆け巡るような熱を感じた。

「ははっ! こりゃスゲぇな!」

 フーシが試し打ちをするように控え室の壁に闘気弾を打ち込んでいき、次々と石壁に拳型の穴が空いていく。

 ライカは酒瓶を割り、尖った先端を自身の腹に突き立てた。しかし、活性化した魔紋とポーションの効果でかすり傷一つ付かなかった。

「支援者様は対戦相手を徹底的に叩きのめす事をお望みです。勝利した暁には特別な報酬も用意するそうなので……くれぐれも期待を裏切らぬようにして下さいねぇ」

「はっ! 負ける気なんかこれっぼっちもねぇよ。勝利報酬をたっぷり用意しとけって伝えな!」

「あんなチビどもなんざ、叩きのめす程度じゃすまねぇ……五体をバラバラにしてやる」

 ポーションの効果に酔いしれて血走った目付きで笑い声を上げるライカとフーシを、ゴールディは笑みを浮かべながらもその目は二人を蔑視していた。



 混雑する闘技場内でも貴賓席付近は流石に人の通行を制限している為、他の席ほど騒がしいという事はなかった。そんな貴賓席近くの通路でピナリーと二人の従者が話しをしていた。

「では、ティターノ伯爵の姿は確認出来なかったのだな」

「はっ。申し訳御座いません」

 ピナリーが連れていた壮年の従者マクスエルは頭を下げて期待に応えられなかった事を詫びた。

「まぁ、良い。この人集りでは身を隠している相手を見つけるのは不可能だろうからな。カナリア、『暴走の血』の方はどうだ」

 カナリアと呼ばれた女従者は監視していた『暴走の血』の様子を報告した。

「裏方とおぼしき小男から何かの薬品を受け取り飲み干した後には魔力が異常値まで跳ね上がってましたよ。違法薬物の疑いで強制調査も可能かと思いますが、如何しましょう」

「放っておけ。どうせ、適当な理由ではぐらかすだけだ……それより、その小男はどうした?」

「……途中までは尾行したのですが」

「逃げられたか」

「申し訳御座いません」

 マクスエルにしてもカナリアにしても王族直属の従者として十分な実力は持っている。

 その二人を以ってしても尻尾が掴めない相手となると、まず間違いなく宿敵のロゼス王国の手の者だろうとピナリーは予測した。

「致し方ない。こうなれば事が起きてから動くしかない……これを使うような事態にならなければ良いが」

 ピナリーが手にした小瓶の中には淡い光りを放つ澄んだ液体が入っていた。

「ピナリー殿下。もう間もなく『聖なる盾』の試合が始まるようです」

「わかった、席に戻ろう。マクスエルは私の護衛、カナリアは舞台近くで待機していろ。但し、何が起きても私が指示するまで行動を起こすな」

「はっ!」

「お任せを」

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