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千変万化!  作者: 守山じゅういち
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百二十 贄

 アケルのとある酒場でちょっと喧嘩騒ぎがあった。

「ひいぃ!」

「た、助けてくれぇ!」

 酒場の入り口から転がるように悲鳴を上げながら逃げ出す酔い客達。

 店の内ではそこら中に壊れたテーブルや酒瓶が散乱し、血と泡を吹いて倒れている者が大勢いた。

「か、勘弁してくれよぉ……店が潰れちまう」

「ゲヘヘ、申し訳ありませんなぁ店主。何しろうちの者は力が有り余っていてねぇ……これ、迷惑料として取っといて下さいぃ」

 金貨の入った小袋をニヤついた顔で店主に手渡したゴールディが改めて店内の惨状を見て、肩をすくめた。

「いやはや、店に入る度に問題を起こしていては目的を果たす前に街に居られなくなりますよぉ」

 白目を向いて倒れている男を椅子代わりにして酒を呷っているライカと血塗れの手を酒で洗い流しているフーシはゴールディの小言など聞こえていないかのように無視をして。

「おい、ゴールディ! 例の『竜殺し』は逃げずに試合に来るんだろうな。こんな田舎まで来ておいて、つまらねぇ雑魚狩りしかしてねぇんだぞ」

「ゲヘヘ、そんな心配は無用ですなぁ。冒険者ギルドから例のパーティーが指名依頼を受諾したと知らせがありました。後は此方が日時は知らせるだけですなぁ」

「よしっ! なら、明日だ!」

 勢い良く酒瓶を床に叩きつけて鼻息荒くライカが吠える。

 だがそんなライカに水を差すようなにゴールディが口を開く。

「そりゃ無理ですな。指名依頼の内容は『闘技場で『暴走の血』と『聖なる盾』が試合をする』ですからな。闘技場の予約を取り付けなければ」

 気分を害されたフーシがゴールディの胸ぐらを掴み締め上げる。ゴールディの小さな身体をフーシは片手で持ち上げた。

「そんなもん関係ねぇよ! 闘技場でなければそのパーティーの家を直接襲えばいいだろうがっ! 俺らの目的は『竜殺し』のパーティーを潰す事で、闘技場の試合を盛り上げる事じゃねぇだろ!」

 怪力で締め上げられて顔色を悪くしながらも笑みを浮かべたゴールディが話す。

「ゲッ、ヘヘ、か、勘違いを……しては、いけま、せんねぇ……貴方、達は、雇われの身。支援者の、意向を、無視すれば……処刑台に、登る事に……なり、ますよ?」

「ちっ……放してやれ、フーシ」

 フーシは不快そうな顔で手を放して、ゴールディは床に落下した。

「ゲホッ……ケッホォ……ゲヘヘ、そう。それで良いんですよぉ……支援者の期待に添う試合をしてくれればねぇ。満足いく試合内容なら、きっと良い話しも転がり込んできますよぉ、ゲヘヘ」



 アケルから遠く離れたアーク王国の王都。

 王城にあるピナリーの私室。

「それでね、ピーちゃん。俺は密かにエルフ王と示し合わせてね……」

「あの、兄上。その話しはもう何度も聞きましたよ」

 ソファーにふんぞり返り、自慢気にエルダーフルでの活躍を多分に盛りながらペラペラと喋り続けるアートに、ウンザリするピナリー。

「え~……ここからが盛り上がる所なんだよ。ピーちゃんだって……」

 その時、慌てた様子で文官が入ってきた。

「お寛ぎのところ申し訳ありません! ピナリー殿下に緊急速報です」

 王国各地にはピナリー配下の騎士が駐在しており、ピナリーの目となって活動している。

 通常時は定期報告だけだが、何か異変があれば魔法通信による速報が送られる。

「兄上、少し失礼します」

「は~い」

 文官からメモを受け取り、目を通すとピナリーは無言で考え込んだ。

「どしたの、ピーちゃん」

「……以前、王城に侵入した賊の事を覚えていますか?」

「え~と……何だっけ?」

 ピナリーの口元に力が入り、眉間にシワが寄る。

「私が襲われアケルの街で解放された一件です…………何で覚えてないんだ、こいつ」

「あぁ! 寝込んでいた筈のピーちゃんが偽者だったやつか。アッハハハ! あれは傑作だった」

「…………笑い話しではないのですが」

 暢気に笑うアートを射殺すような目で睨みつけるピナリー。

「それで? その件がどうかしたの?」

「あの一件でマークしていた闇ギルドに動きがありました」

「へぇ……他国の闇ギルドの動きに良く気付けたね。流石はピーちゃん自慢の第八騎士団の精鋭だねぇ」

 あの一件では他国の強者相手にピナリーも善戦したが最後には逃げられてしまった。その後も調査を続けていて関与していた国を特定し、その国の闇ギルドが深く関わっていた事まで突き止めた。

「再度、動きがあれば知らせが来るようにしておりましたが……」

「知らせが来たねぇ……で、何が問題なの?」

 ピナリーの浮かない顔を見る限り、尻尾を掴んで喜んではいない。

「アケルの『聖なる盾』に接触しているようです。何が狙いなのか……」

「あぁ、彼らか……色々とユニークな冒険者だよね。案外、引き抜きとかだったりして?」

 有望な冒険者が貴族にスカウトされ私兵になるのは良くある事だが、『聖なる盾』のランクだと可能性としては低い。だが将来性を考慮した場合、無くもないと言ったところか。

「特にアケルは例の勇者くんもいるんでしょ? 戦力確認の必要性が出てきたのかもね~」

 様々な可能性を考慮して、ピナリーは一つの決断を下した。

「もう一度、私が行く必要がありそうです……すぐに公務を調整しなければ」

「アケルのお土産、宜しくね」

「遊びに行くわけではありません!」

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