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千変万化!  作者: 守山じゅういち
118/142

118 次元キューブ

 金が絡むと商業ギルドの動きは早い。専属の護衛を引き連れて、特別製の高速馬車でその日のうちに出発していった。予定としては十日程で戻ってくるそうだ。手紙の返事が来るまでしばらく待つとしよう。

 その間にも庭の樹はメキメキと成長を続け、数日後には背丈は俺が見上げるほどにまで育ち伸びた枝も太くなって葉が繁り蕾の数も増えた。少しだが花も開き、もうじき二つ目の実が成りそうだ。

 栄養を集中させる為に摘果でもした方がいいかと思い、密集している花に手を出すとまた鞭のように枝をしならせて迎撃してくる。

「はいはい、手を出すなって事ね……」

 水やりをしながら雑草を抜き、他の作物の世話をしているとハルが来た。

「イオリ、ちょっとお願いしたい事があるんですけど。いいですか?」

「あぁ大丈夫だよ」

 道具を片付けてハルの所へ行くと、ハルはエルダーフルから貰った次元キューブを小脇に抱えていた。

「近々、街の闘技場で試合がありまして。その練習に付き合ってくれません?」

 闘技場での試合か。前に一度観たな。

「……わかった。その次元キューブを使うのか」

「はい、試してみようかと。可能なら試合でも使いたいですね……試合が栄えそう」

 ハルが次元キューブを操作すると目の前に岩が突き出た激しい渦潮の海面が出現した。

「へぇ……範囲は十五~二十メートルくらいか」

「だいたい闘技場の舞台と同じくらいですね……他にも」

 海面が消えて砂漠が出現した。試しに砂漠に入ってみると降り注ぐ太陽光も格段に強く、空気が乾いていた。

「地表だけじゃなく空間そのものが変わってるのか」

 さらにキューブを操作すると足元が岩場に変わり、身体がズンッと重くなった。

「重力異常地帯です。これで行きましょう」

「体重が三倍、四倍になった気分だな……魔法有りか?」

「はい。私は身体強化だけ使います」

「よし、わかった」


 種族『人間 伊織 奏』 『大鬼(オーガ)

 職業『格闘家』 『僧侶』


 人間形態をベースにして、そこへ大鬼の力を加えてさらに身体強化魔法を使う。重力異常地帯で格闘戦を行うとなればこのくらいは必要だろう。

 大鬼の能力が上乗せされて身体中の筋肉が膨れ上がり、強化魔法の効果が全身に広がると重力異常の影響で重かった身体の感覚が普通の状態まで戻った。この後は身体強化を維持しつつ戦況に応じて魔法効果を高めていこう。

 ハルの方を見ると俺とは違い、身体強化魔法を使っているだけなのに動きに淀みは無く、高々と足を上げて連続蹴りを放ってみせた。

「では……いきます!」

 思わず顔がひきつりそうになる。此方は苦労して戦闘状態を維持しているというのに、軽々とそれを上回る姿を見ていると彼女は格闘家として何かを極めつつあるのかもしれない。この辺がスキル頼りの俺と純粋に鍛えた者の違いか。



「ぐっはぁ!」

 ハルの強烈な蹴りを食らってキューブの範囲外に飛ばされた。

「はぁ……はぁ……ここまでにしましょうか」

 顔に痣を作り口の端から血を垂らしたハルが次元キューブを解除した。

 俺も善戦したが大鬼の耐久力でも防戦一方となり、徐々にハルの動きに着いていけず最後には蹴りを食らって退場となった。蹴られた胸の痛みが強くて起き上がれない。

「ぅへぇ……駄目だ、動けねぇ」

「あら、大丈夫ですか?」

 ハルは自身の傷を治療し終えると俺の傷も治してくれた。それにしても最後の蹴りは効いた。

「あの最後の蹴りは普通の蹴りとは違ったな。あれは一体……」

 全力で防御していた俺の両腕を弾き、重力異常地帯の地形効果を無視して俺を吹き飛ばしたあの蹴り。さながらヒーローが怪人にトドメを指す必殺キックのようだった。

「もう少し練習が必要ですが、魔力を集中させて身体強化魔法の効果を最大限に高めた技です。一歩間違えると自分の足が折れる可能性もあるんですけどね」

 しれっと怖い事を言う。ハルに傷を治してもらい小休憩を取っていると買い物に出ていたペレッタが帰ってきた。

「あっ。ハル姉、イオリさん、冒険者ギルドからランクアップのお知らせだよ」

「ランクアップ? ……そうか、竜退治の功績かな?」

「それもあるでしょうし、エルダーフルでの事も加味してじゃないですか? 普通のCランク冒険者では難しい依頼でしたからね。今回の昇格はその辺りを評価して決めてくれたんじゃないですか」

 ハッキリ言って両方とも解決するにはCランクを超えてBランクでも難しい仕事だったと思う。

 『聖なる盾』だけの功績ではないが、『聖なる盾』が居なければ解決はしなかった筈だと自負している。だからそれらを評価されてランクアップするのは嬉しい限りだ。

「都合の良い時に手続きに来てくれってさ」

「わかった。二人の都合が良ければ飯の後にでも行こうか」

「はい、良いですよ」



 昼食後、ハルとペレッタを連れて冒険者ギルドにやって来た。

「いらっしゃい。早速、ランクアップ手続きをするわね」

 笑顔で出迎えてくれたアーリが手早く作業を進めてくれて、俺達は晴れてCランクの銅板を手に入れた。

「今は緊急性の高い依頼は無いけど、どうする? Cランク冒険者ともなれば指名依頼が来るまで休むってのも有りよ?」

「そうだなぁ……」

 今は竜の素材を売却した分の金があるから生活費には困っていない。

 どうしたもんかと思っていると冒険者ギルドに来訪者が現れた。

「ゲヘヘ、ここですかぁ。アケルの冒険者ギルドはぁ」

 小太りの男を先頭に一歩遅れて大柄な男が二人、周囲を威嚇するように入ってきた。

「なんつーか、平凡な所だな。噂じゃ隠れた強者がいるって話しだが……所詮、噂か」

「そう悲観するなよ、ライカ。この街には闘技場があるらしいから、そこで遊んでいけば良いじゃないか」

「だがよぉフーシ。このレベルの冒険者しかいないんじゃ程度が知れるぜ」

 何だ、こいつら。いきなり現れたかと思ったら随分な物言いだな。

「ゲヘヘ。いいですかぁライカ、フーシ。この街にいるという『竜殺し』パーティーを見つけるまでは暴れないで下さいよぉ。本命と戦う前に追放処分にでもなっては堪りませんからねぇ」

 戦闘職の二人と違いスーツを着た小太りの男は不気味な笑みを浮かべながら二人を注意している。

 それにしても『竜殺し』か。おそらく俺達の事だよな。雰囲気からして勝負でもして名を上げようって輩か?

「おい、お前達」

 少しばかり男達の放つ気配が気になって声を掛けてみる。

「あん? 何か用かよ、クソチビ」

 ただ声を掛けただけだと言うのにいきなり喧嘩腰だな。

「街の近くに現れたアンデッドドラゴンを退治した奴を探しているのか?」

「それがどうした? てめぇには関係ねぇだろ、引っ込んでろ。殺すぞ」

「邪魔だぞ、消えろクソが」

 体格の良い二人が口汚く罵ってくる。まだ我慢だ、我慢。

「で、その退治した奴が現れたら何をするつもりだ?」

 重要な所を確認しておかなければと思い、聞いてみた。その答えは想像通りだったが。

「決まってんだろ。俺らの名を売る為の踏み台にしてやんだよ」

「ついでに言えば新技の練習台にでもしてやるつもりだ」

 ニヤけた顔で喋る奴らに手が出そうになってアーリが慌てて止めに入って来た。

「待って待って待ってぇ! こんな所で争うような事は駄目ですよ! イオリさん、Cランクに上がって早々にまた懲罰クエストを受けたいんですか!? 気持ちはわかりますがもう少し学習して下さい! それに貴方達!」

「あん? 何だよ、ねーちゃん」

「邪魔してんじゃねぇぞ、ぶっ殺されてぇのか」

 小柄なアーリに詰め寄るように威圧してくる二人に対しても引き下がらずアーリは立ち塞がる。

「貴方達、剣闘士のライカとフーシね。あまりの素行の悪さから色々な街で追放処分を受けている質の悪い剣闘士として有名なコンビよね」

「ゲヘヘ、そうですよぉ。そしてそんな二人のエージェントを務めるのが私、ゴールディと申します。ゲヘヘ」

 小太りの男ゴールディが名刺をアーリに渡した。

「この街に来たのは冒険者登録でもする為?」

「ま・さ・か。ゲヘヘ、噂の『竜殺し』を潰して二人の名を轟かせる為ですよぉ。居るんでしょ? 『竜殺し』のパーティーぃが」

「そんな事を言われて情報を渡すと思います? 悪い事を言わないから大人しく街を去る事ね、『竜殺し』のパーティーには猛獣の虎と狂犬がいるから命の保障は出来ないわよ」

「ゲヘヘ、それは望むところ……その『竜殺し』のパーティーに指名依頼です。我が剣闘士、『暴走の血』ライカとフーシのコンビと闘技場での決闘を依頼しますぅ。もし、逃げるようなら……ゲヘヘ、出てくるまで闘技場を荒らす事にあるでしょうねぇ」

 ゴールディが涎を垂らすように下卑た笑い声を上げた。

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