表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千変万化!  作者: 守山じゅういち
117/142

117 すくすく育ってます

 庭の農地に植えた樹はすくすくと育ち、数日経つと背丈が俺の身長を越えるほどに成長した。

「常識の通用しねえ樹だな。どこまで大きくなるんだか」

 雑草を抜きながら樹の様子を見てみると成っている実は一つだが、小さな蕾がちらほらある。いずれこの蕾も開花して実をつけるんだろうか。

 ところでこの樹の名前はどうしようか。国王樹と精霊樹が絡み合って、もう完全に一本の樹になっちゃってるからもう別種の樹だよな……う~ん、後で子供達にでも決めてもらうか。

 あと、地面に埋めた筈の精霊石をいつの間にか掘り起こして内部に取り込んじゃってるっぽい。

「いよいよ魔物化の条件が揃って……痛っ!」

 俺が将来の危険性について話していると小枝に頭を叩かれた。小まめに世話してやってるのに……

「一度、ミーネに手紙でも送って樹の事を聞いてみるか。もしかしたら調教の仕方とか知ってるかもしれん……痛たたっ!」

 小枝の連打から逃げるようにその場を離れ、他の作物の様子を見に行く。

 あの樹の影響なのか、畑に植えた種の成長スピードも早い。芽が出て茎が伸び、順調に葉が増えている。

 急成長すると本来ならひょろっとしたひ弱な感じになると思うんだが、畑の作物は健康そのものだ。これなら一ヶ月くらいで収穫出来るかな。



 エルダーフルのミーネ宛てに手紙を書き、商業ギルドに頼んで送ってもらう事にした。

「あ、商業ギルド行くの? 私も行く~」

 『聖なる盾』の素材売却について商業ギルドに用事のあるルウを連れて、大通りの商業ギルドへと向かう。

「余った竜の素材はまとめて商業ギルドに売ったんだけどさ……見てよ、これ。銀のランク標だよ。普通だったらランクアップするのに相当な時間もお金も掛かるのに、一発で上がるんだから竜の価値って凄いよね」

 興奮気味のルウが商業ギルドの認識票を見せてきた。商業ギルドのランクは四段階あって、まず登録すると銅の認識票を与えられ、次に商人としてある程度の実績を積み商業ギルドに利益をもたらすと銀に昇格し、商業ギルドに長期的に利益をもたらし複数のギルド職員の推薦を得ると金に昇格、そしてその上に黒の認識票がある。

「黒の認識票に上がる条件はわからないのか?」

「うん。噂だと複数の国の推薦が必要とか、冒険者ギルドの高ランクが必要って話しだけど……本当のところはよくわかってないんだ」

 商業ギルドではランクに応じて受けるサービスが増える。銅のランクだと商業ギルドに手数料を払って市場に出店したり、ギルドからお金を借りたり出来る。銀のランクに上がった事で支払う手数料が減額し、ギルドが主催するオークションに参加出来るようになり、さらに職人や商人を斡旋して貰えるようになるそうだ。

 物によっては商業ギルドに売るより直接、職人や商人に売った方が都合が良い時に利用するらしい。商業ギルドとしては利益が減りそうなサービスだが、銀のランクにはそれをするくらい価値があるという事なんだろう。

 俺が出そうとしている手紙も、俺が商業ギルドに依頼すると相当な額の代金を支払わなくてはいけないが、銀の認識票を持つルウに頼めば格安で依頼出来るそうだ。

「じゃあ、頼むな」

「任せといてよ!」

 頼もしい返事で答えるルウと一緒に商業ギルドの建物に入るや否や、ギルド職員が駆け寄ってきた。

「お待ちしてましたよ、ルウさん。ご案内致します」

 丁寧な対応でギルドの一画に案内され、ソファーに座るとお茶まで出てきた。なかなかのVIP待遇だな。

「此方が竜の売却金額となります。額が額ですので、手形を発行させて頂きました」

 職員が差し出した用紙を受け取り、書かれた金額を数える。一……十……百……千……

「え? これって、銀貨でって意味?」

 驚いて思わず職員に確認してしまった。尋ねられた職員も笑いながら。

「あっははは、ご冗談を。勿論、全て金貨でお支払いしますよ」

「おぉ……ソウ、デスカ」

 改めて竜の価値に驚き横にいるルウを見ると、予想以上の金額にルウが固まっていた。

「………………はっ!」

 再起動したルウに職員が金の使い道についてアドバイスをくれた。

「如何でしょう、有望な錬金術士や鍛冶士、魔法学者に資金提供してみては? 見返りとして貴重な研究結果の試作品を手に入れる事も可能ですよ」

「か、考えてみます」

 優秀な研究者、技術者は常に資金不足に悩まされている。商業ギルドとしても限りある資金を全ての者に提供するのは無理だから、こうして大金を得た者に斡旋しているんだな。とはいえ今は、保留だな。

「それより、ルウ」

「あ、そうだった……商業ギルドに手紙の配達を依頼したいんです」

 俺は手紙と送り先を書いたメモを職員に渡した。職員がメモに目を通すと一瞬、眉をひそめた。

「宛先がエルダーフルのミアネスティーナ様ですか……申し訳ありません。現在、あの国との流通網は構築段階でして……相手先に届けるには数ヶ月は掛かるかと」

「そんなに? だったら自分で行った方が早いな」

「あのぉ。『聖なる盾』の方々が使節団に同行しエルダーフルへ行かれた事は存じておりますが、本来あの国は他国との交流が稀でして……いくら顔見知りといっても入国審査が簡略化する事はないかと」

 職員が丁寧に教えてくれた。まあ、普通はそうだ。ただの一般人なら入国審査に弾かれて入国すら無理って話しになるよな。

「その点は大丈夫だ。事前に許可証は貰ってるから入るのに問題はない」

「えっ! きょ、許可証ですか? 差し支えなければ拝見しても宜しいですか!」

 予想していなかった答えに職員が上擦った声で聞いてきた。商業ギルドの職員が盗みを働くとは思えないので、貰った金板の許可証を渡した。

「こ、これが……イオリさん、この許可証を少しだけお預かりしても宜しいですか? 恥ずかしながら私ではこの許可証の詳細を確かめる事が出来ませんので、上の者に確認して参りたいのですが……」

「はい、どうぞ」

 どうやら希少過ぎて、あの許可証で何が出来るのか詳細を知る者が少ないようだ。

 俺が許可すると震える手で許可証を受け取り、受け皿に乗せて職員が席を外した。

「あれってハル姉達も持ってた奴だよね」

「あぁ、子供らが投げて遊んでた奴だ」

 多少の事では壊れないだろうと好きにさせてたが止めさせた方がいいかも。

 お茶のお代わりを貰い、しばらくすると職員が戻ってきた。

「大変お待たせ致しました。お返し致しますので傷の有無をご確認下さい」

「はい、大丈夫です。どうです? 何かわかりました?」

「……まず、手紙の配達ですが可能な限り最速で配達する事をお約束致します。代金も無料で結構でございます」

 おお? 何だ何だ。急に対応が変わったな。

「いや、代金は支払うよ。ルウが銀のランクだから……」

 無料というわけにはいかないと、やんわり断ろうとした俺に職員は顔を近付けてきた。

「代金は必要ありません。代わりにイオリさんの許可証の一部代行使用を認めて頂きたいのです!」

 代行?

「具体的には今回限りで良いので、この許可証で行える売買許可の使用代行を対価として認めていただけませんか? この許可証の写しがあれば配達人が最速でエルダーフル内部に入り、手紙を届ける事が可能です。()()()()()()配達人がエルダーフルで商品を仕入れる手助けをお願いしたいと考えております」

 ふ~ん。正式な手続きを踏めば配達人に、この許可証の使用代行を認めさせる事が可能で、その際も使い捨ての写しを使うから許可証自体は俺の手元に残ったままというわけか。

 俺は手紙が届けられる、商業ギルドはエルダーフルで商品を仕入れられる、双方に利益がある話しだな。

「……そうだな、一つ条件を加えてもらえるなら売買許可の代行を認めよう」

「条件とは!?」

「別に変な条件じゃないよ。俺の代わりにコーヒー豆を買って来て欲しいんだよ、出来れば数種類」

 エルダーフルで買い物をする機会が少なくてお試しで買ったコーヒー豆をお土産で配ったら手元に大して残らなかったんだよな。

 折角エルダーフルに仕入れに行くというなら俺の分も買って来てもらおう。

「わかりました。その条件、配達人には確と伝えておきます」

 固く握手し契約成立となった。

「これで問題が無いようなら、これからも使用代行の継続を前向きに検討して頂けますでしょうか?」

「その辺はうちの事務方と話しをしてくれ」

「え? あ、はい。話しは私の方でお聞きします」

 最後に職員がちょろっと欲を出して来たが、ルウにまるっと投げよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ