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千変万化!  作者: 守山じゅういち
116/142

116 この樹なんの樹

 ミーネと数人のエルフが部屋にやってきて、いよいよ帰国となった。行きと同様に彼女達の転移魔法で送ってもらう。

「下層の市場でエルダーフル産のコーヒー豆や

チョコレートをお買い上げ頂いたとか。お土産にチョコレートとコーヒー豆を使ったお菓子をご用意しましたので是非ご賞味下さい」

 わざわざお土産まで用意してくれるとは。

 随分と手厚くもてなしてくれたけどエルダーフルとしては、魔石を受け取った以上そこまでアーク王国に気を使う必要はないのでは? と思い、それとなくミーネに聞いてみた。

「それは勿論、アーク王国とは今後も良好な関係を築いていく為ですよ。個人的にも魔法武具や希少アイテムよりも、エルフの食や文化に目を向けて下さった方々との交流は大事にしたいと思っています」

 エルダーフルの周辺国からは大陸屈指の魔法大国という認識で、求められるのは強力な魔法兵器や貴重なアイテムばかり。

 口を開けば聞こえの良い言葉ばかり並べるがエルフの文化面にまで踏み込んでこようとはしないそうだ。

 まぁ、その辺はエルフ側にも問題があるし、揉め事に成りそうだから、あえて踏み込んではこなかったとも言えるだろう。

「しかし、いつまでも内向きではいられません。これまでのような国の在り方では、窮地を迎えた時に助けを求めても誰も応えてはくれません。先の未来を見据えて国難を乗り越えていけるよう、他国との付き合い方を考えていかなくてはいけません」

 若いのに立派な考えを持っているな。国王は脱衣ゲームとかして遊んだりしてるのに……あれも案外必要な息抜きなのか?

 ともあれ彼女が頑張ってくれたお陰で快適に過ごせたんだ。感謝しないとな。

「俺もエルダーフルは気に入ったよ。また、遊びに来る」

「はい! その時にはもっと喜んでもらえる物をご用意しますよ」

 空間転移の魔方陣の輝きに包まれてアーク王国使節団の馬車はアケルの街へ転移した。



「何度経験しても不思議な感覚だ。数ヶ月は掛かる旅路が一瞬とは……何とか俺達にも使えぬものか」

 馬車から降りたアートが羨ましそうに言った。その気持ちはわかるが、無理だろうな。

 エルフの使う空間転移の魔法は、魔力量の多いエルフですら数人がかりで発動させていた。人間が同じ事をしても色々な問題点が多すぎて大して跳べないだろうな。

 アケルの街に戻ってくると使節団は領主の元へ行き、俺達は街の入り口で別れた。

 真っ直ぐ屋敷へ帰る前に報告の為に冒険者ギルドに寄るとしよう。

「おう、帰ったか」

 ギルドマスターにはエルダーフルでの出来事は報告しておいた。流石にカオスポーションの事は伏せたが。

「そうか……エルダーフル内でも色々あるようだな。単純に大国と関係を結べたと喜んでばかりはいられないか。多少なりとも情報を得たのは大きいな、後で詳細な報告書を提出してくれ」

「それはいいが、あまり他所に漏らすのは止めたくれよ。扱い方を間違えると……」

「アホ、誰に物を言ってんだ。言われんでも極秘情報扱いにするわい」

 ギルドマスターへの報告を終えるとハルとペレッタは先に屋敷に帰り、俺はギルドの食堂に顔を出した。

「よう、リップ。面白い食材があるんだが」

「面白い食材? あ、そういえばあんたエルフの国に行ったんだよね。もしかしてエルフの国の食材か?」

「当たり」

 お土産に貰ったコーヒー豆とチョコレートを少量、リップに渡した。

「ほっほう、これが……ふむ、苦いな。でも深いこくがある。これはどう使おうか……」

「こっちの豆は砕いて粉にした物にお湯入れて、ゆっくり液を抽出するとコーヒーという飲み物になる」

「お湯か……この豆、油分が多いからな。でも水でもいけそうな気がするな」

 豆をつまみのようにポリポリと齧りながらリップが水出しコーヒーを想像している。

 次いでチョコレートを齧る。しかし、躊躇なく口にするなぁ。

「ふむ、此方も苦味が強いが……香りが良いな」

「これは砂糖を混ぜた方が食べやすい奴だ。甘くて美味しい菓子になる」

 リップと話していると、菓子という単語を聞きつけたアーリが話しに入ってきた。

「美味しい菓子の話しをしてました? 美味しい菓子なら私にも分けて下さいよ」

「これだけだと美味しくはないと思うが、甘い菓子と混ぜればより良い味わいになると思うぞ」

 チョコレートを使ったスイーツが食堂のメニューに加われば繁盛しそうだな。特にギルド職員が常連になりそう。

「ふむむ、この苦味は料理の味を引き立てるね。何と組み合わせたものか……煮込みか?」

「俺なら砂糖やミルクを足してクリームにしたりソースにしたり、あと氷菓にも合うと思う」

「へぇ~……リップ、早速試作しましょう!」

「わかった。試しに今作ってる臓物煮に混ぜてみるわ」

「え? 菓子の話しでは?」



 冒険者ギルドを出て屋敷へと戻る。近くまで行くと猫妖精の出迎えがあった。

「にゃ~。お帰りなさいにゃ」

「ただいま、みんなに変わりはないか?」

「みんな、お庭にいますにゃ」

 庭? あぁ、元気に遊んでいるのか。

 門を過ぎて俺も庭に着くと全員が農地区画に集まっていた。てっきり遊具か何かで遊んでいると思っていたら違った。一ヶ所に集まって何をしているんだ?

「お~い、何やってんだ」

「あんね、あんね!」「あ、お帰り」「すっげぇの! 昨日ね」「これ、これ」「おじさん、お帰り」「お土産は?」「急にズドーンって」「ぐにゃぐにゃ~」「お帰り、イオリさん」「びっくりだよね」

 わからん。興奮気味の子供らを落ち着かせているとその原因がわかった。

 以前植えた国王樹と精霊樹がどういうわけか絡み合い一本の樹のような姿に変貌していた。

「はぁ~……どうなってんの」

 植えてから僅か数日で……異常な成長スピードだ。

「昨日辺りからどんどん成長して、こんな形になっちゃったんだよ。それに見てよ」

 ルウの指差す先には、まだ小さいながらも林檎のような実が一つ成っていた。早い、早過ぎる。

 樹が育つには太陽と月の光りがどうのこうのという話しは何処へ行った。

「……猫妖精。どういう事だ?」

 二つの苗木を植える時にアドバイスを貰った猫妖精を問い詰める。

「にゃ~……これは予想外でしたにゃ。色々な条件が重なっての結果とは思いますが……精霊石の力と二つの霊木、それに上級精霊の存在がソレしてアレしてごにゃにゃ~として……にゃあ」

「誤魔化すな!」

 猫妖精を問い詰めてみたが、所詮は猫。ダッシュで逃げ出した。まったく。

「とりあえず、『鑑定』してみるか」


 種族『人間 伊織 奏』 『』

 職業『商人』 『狩人』


「『鑑定』っと……」

 軽い気持ちで『鑑定』スキルを使うと。

『◼️◼️◼️◼️』『◼️◼️◼️◼️◼️』『◼️◼️◼️』『◼️◼️◼️◼️◼️』『◼️◼️』『◼️◼️◼️◼️』『不敬』

「はぁ?」

 情報がまったく見えなかった。それに不敬って……どうなってんだ。

「ねえねえ、このきねぇ。おもしろいんだよ」

 キャロルを俺の手を引いてそんな事を教えてくれた。面白いとは?

「あのみに、さわってさわって」

 キャロルやアニス、フェイが笑いを堪えているような顔で、枝先にぶら下がっている林檎のような実に触れと催促してくる。

 意味も分からず実に手を伸ばすと、別の枝が鞭のようにしなって俺の手を叩いた。

「痛っ! な、なんだ」

 途端に年少組が腹を抱えて笑い転げた。吃驚した俺の反応が面白かったらしい。

 どうやら何人も同じように実に手を出して叩かれたらしい。

「どうやら実を守っているようですね。どうしようもないので、このまま見守りましょう」

 ハルは暢気にそんな事を言っているが屋敷のすぐ傍に独りでに動く樹があって気にならないのだろうか。

「はぁ、笑った笑った。それじゃ皆、お土産があるから屋敷に戻ろうね」

「はぁい」

「は~い」

「お土産、なに? お菓子?」

 ペレッタに促されて子供達が屋敷へと入っていく。

「ったく……この樹、魔物じゃないだろうな」

 その言葉に抗議するように幾つもの枝がおれの頭を叩く。鬱陶しい。

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