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千変万化!  作者: 守山じゅういち
111/142

111 竜の魔石を求めて

 エルダーフル下層での買い物を終えて再び王城へと戻ってきた。路上で下着姿を晒したアホは城に戻るまでの間、遊び足りないだの買いたい物があるだの喚いていたが俺達が応じる訳もなく、引き摺られながら不満そうにしていた。

「あぁ、お帰りなさいませ。欲しい物は手に入りましたか?」

 事前打ち合わせが終わっていたミーネが部屋で出迎えてくれた。街の散策を十分に楽しんだ俺たちはアートを使節団の役人に渡して、ひとまず休憩を取る事にした。

「パルレスさんから貰った生菓子を頂きましょう」

 ハルが淹れてくれたお茶を飲みながら箱を開ける。中に入っていたのはクリームを使ったカップケーキだ。

「あら、美味しそう」

「え、ちょっと待って。一個だけ茶色くない?」

 ペレッタが指摘したように複数のカップケーキの中に一つだけ茶色のカップケーキがあった。

「あ~、これは……匂いからしてコーヒークリームだな」

「嘘でしょ。エルフって菓子にまであの焦げ豆を使ってんの?」

 ペレッタはコーヒー豆がすっかり苦手になってしまったようだ。

「じゃあ、このコーヒー味は私貰いますね」

「俺は白い奴を貰おう」

「……私、この黄色い奴にする」

 余った分は適当に他の奴に配った。ちなみにアートは残って仕事をしていた部下達を労って差し入れを買ってくるような性格ではないようだ。カップケーキも、まず自分から先に取ってるし。

 俺の選んだカップケーキはミルク味、ペレッタの選んだのはレモン味だった。



 この後の予定を確認すると、まずエルダーフルの代表者とアートが調印式にて公文書を取り交わし、翌日に例の魔石を渡す工程になっているそうだ。俺達は参加しないが間でパーティーやら懇親会やら色々と面倒な段取りがあるらしい。

 書類にサインして、ハイさようならって訳にはいかないんだよな。本当に面倒くさい。

 俺達の最後の仕事は、竜の魔石を国王に贈る際、アートの後ろに控えておく事だ。

 その時に国王から問い掛けがあった場合は失礼の無いよう応じるようにとの事だ。

「では、行ってくる。そうだ、この荷物を預かっておいてくれ」

 正装に着替えたアートが魔石の入った箱を俺に渡してきた。

「王城の中だから心配は無いだろうが、一応気を付けてくれよ。万が一盗まれでもしたら全ての取り引きが吹っ飛び、我が国の損失は図り知れん。だから……」

 やけに念押ししてくるな。

「だから、決してこの()()()()()()()()()を盗まれてはならんぞ」

 一見すると重要な仕事を託されたように見える。だがちょっと怪しい。

 アートの奴、この箱を手渡してくる時に片目を閉じて俺だけに合図を送って来やがった。

「あいつ……何を企んでやがる」

 途端に今の状況が怪しくなってくる。

 部屋の中に俺、ハル、ペレッタ。使節団の役人が数人、部屋付きの使用人が数人。他国の王族が泊まる部屋はとても豪華で調度品も一流の物を誂えてある。タンス、ソファー、テーブルに絵画、鏡……鏡?

 そういえば、俺はパルレスの店で魔法の鏡を買ったんだった。あれは二枚の鏡が互いの鏡面に映った物が映るという物。だったら単純に鏡映った物が別の鏡でも見る事が出来る物が有っても不思議じゃない。

「ペレッタ、すまないが魔眼スキルでこの部屋を見てくれないか」

「え? 別にいいけど……」

 魔力を視認出来る魔眼で部屋をぐるりと眺めたペレッタに質問する。

「ペレッタ、気付かれないように注意してくれ……魔力が過度に集中している物、あるいは場所があるか?」

 ペレッタは無言でメモ用紙に答えを書き込んだ。

『鏡と絵画』

 二ヶ所か。王城の中という事なら、監視または防犯目的で備えているのかもしれないがアートの意図を察するに、あいつはこの仕掛けに気付いていたのかもしれないな。腐っても王族だ。もしかしたらアーク王国の城にも似たような仕掛けがあるのかもな。

 取り敢えず俺達が魔石を持っているという状況に、エルフ側がどう反応するのかが問題だ。

 その時、部屋に誰かがやって来た。

 使用人と二、三会話をして部屋に文官らしきエルフが入ってきた。

「失礼します。アート殿下より箱を持ってきて欲しいと頼まれまして……箱を届けて参りますので渡して貰えますかな」

 胡散臭い笑顔で文官エルフの男の視線が俺が持つ箱をガン見している。

 アートが部屋を出た途端、これですか。やっぱり鏡か絵画は盗聴用アイテムだな。

「あのそれは……」

 ハルが文官の怪しさを感じて前に出ようとしたが、俺はハルの腕を掴んで止めた。

「箱と言うとアート殿下から預かったこの箱の事ですよね、どうぞ」

「確かにお預かりいたしました。では私はこれで失礼しますよ」

 俺から箱を受け取った文官はそそくさとその場を後にした。

「あの、イオリ……これはどういう?」

「ねぇ、本当に渡して良かったの? 何か怪しかったよ?」

「ペレッタもそう感じたか。どうやらエルフ側も一枚岩じゃ無いみたいだな」

 黙っていても明日には魔石はエルフの物になるというのに、このタイミングで横取りしようとするのはエルダーフル内の別勢力が魔石を欲しがったか、あるいは魔石とは別の目的があるかだ。

「取り敢えず目的を探ってくるぜ」

「探ってくるって……箱はどうするの?」

「大丈夫、心配するな。じゃあ、ハル。後は頼んだ」

 俺の事情を知っているハルとは違ってペレッタは困惑気味だ。

 普通に部屋を出て尾行するわけにはいかない。城の中で他国の人間がウロチョロしていては目立つ。

 それに部屋にいる連中が味方とも限らない、あの文官を部屋に入れたのは部屋付きの使用人だ。俺が疑いを持っていると気付かれると今後、動きにくくなる。ここは俺が何の疑いも持たず、部屋も出ていないと思わせよう。

 俺は姿を隠せるトイレに入った。


 種族『怨霊』 『』

 職業『死霊術士』 『商人』


 怨霊に変身し、壁をすり抜けて部屋を出ていった文官を追った。幸い、油断している文官は箱を抱えて歩いていてすぐに追いつけた。

 久々に商人の鑑定スキルを使ってみる。

『ヨルベスエジャータ』『エルダーフルの中級文官』『王城に勤めて百年』『独身』『腰痛持ち』『王制度否定派』『二級魔法使い』『恋人に振られた』『借金あり』『中層に住んでいる』『肉嫌い』『特殊性癖あり』『頭皮のケア不足』『任務中』

 ぐあぁ……目が痛くなる。どうも相性が良くないのか『鑑定』スキルが上手に使えないんだよな。

 色々無駄な情報もあったが、任務中という情報があった。箱を盗んだのはこいつの独断ではなく誰かの指示か。

 さらに後を追い続けていると周囲の目を気にするように辺りをキョロキョロし出した。

 そして部屋の前で名乗ると扉が僅かに開き、その隙間に滑り込むようにして入っていった。部屋の中には数人の騎士や文官が待機していた。

「確保出来たか」

「楽勝だよ。やはり人間は、頭の出来が悪い」

「仕方あるまい、所詮は劣等種という事だ。さあ、魔石を見てみよう」

 騎士の男が強引に箱の鍵を破壊し、蓋を開けると布にくるまれた石を取り出し、一同が期待に満ちた目で凝視するなか、ゆっくりと布を広げていく。

「……なっ! 何だ、これは」

 興奮気味の笑顔が一変し、驚きの表情となった。俺も驚いている。

 布の中にはあったのはただの石コロだった。

「偽物じゃないか! まさか劣等種の分際で偽物で王の興味を引こうとしたのかっ!」

「落ち着け、そんな意味の無い事をするわけがない。本物は別にある筈だ」

「くそっ! 人間のくせに小癪な真似を……どうする? 適当な理由でもう一度人間の所へ取りに行くか?」

「流石にそこまで馬鹿ではあるまい。魔石を奪うのは別の機会にしよう。ヨルベスは顔を見られている、すぐに城を出た方がいいだろう。衛兵がうるさい」

「わかった……忌々しい人間どもめ。こうなったら作戦変更だな、今夜やるか」

「あぁ、そうなる。明日の謁見までに何としても魔石を奪わなくては我が国と劣等種の関係見直しが難しくなる」

「そうだな。嘆かわしい事に劣等種と繋がりを持つ事に賛成する者は多い。魔石を得る為とはいえ恥知らずな事だ」

「全くだ。守護竜の存在は間違いなく我が国の権威を一段階上げる事になる。是が非でも魔石を手に入れたいと考えるのは理解出来る……だが、その為に劣等種の機嫌を取るなど悪手だ!」

 口々に俺達、というか人間そのものに対する不満が飛び交う。

 話しを纏めると人間嫌いの少数派が、エルダーフルとアーク王国の関係をリセットさせる為に明日の国王謁見時に贈られる魔石を盗もうとしたようだ。

 エルダーフルがアーク王国と繋がりを持とうとする理由の大半は竜の魔石を手に入れたいが為。その肝心の魔石が国王の手に入らなければ、国王を謀った罰として国交を断絶させる事は可能だと考えたようだ。

 ついでに自分達は何食わぬ顔で竜の魔石を国王に献上し、自分達の勢力拡大も狙っているらしい。

 男達は破壊した箱を捨てて部屋を出ていった。ヨルベスと呼ばれた文官は城を出ていき、残りの連中は仕事に戻っていった。

 取り敢えず箱は回収し、アイテムボックスに入れておく。

 それにしてもいつの間に中身をすり替えたんだ? そして本物はどこへ?

 まさか、アーク王国に忘れてきたとか言わないよな。

 一抹の不安を胸にハル達が待つ部屋の壁をすり抜けて、元のトイレに戻る。


 種族『人間 伊織 奏』 『』

 職業『死霊術士』 『商人』


「うい~……スッキリした」

 別にトイレは使ってないけど、そういう演技でトイレから出た。部屋の使用人もペレッタも怪しんではいないようだ。

 俺が何をしていたか察しているハルがこっそり聞いてきた。

「取り戻せましたか?」

「いや、ちょっと状況が変わった。取り敢えず、魔石の行方はアートに確認しないといけない。それと、犯人達は今夜仕掛けてくる気だ」

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