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千変万化!  作者: 守山じゅういち
11/142

11 王の冠

「ゲ~ロゲ~ロゲロロ、無駄ゲコォ」

 氷柱で凍った地面がひび割れて盛り上がり、そこから一体の蛙型の魔物が顔を出した。

「人間にこの氷は……」

『炎よ、敵を撃て 炎の弾』

「あっぶ!」

 外れた、惜しい。ゆっくりと地面から出てきそうだったので狙ってみたが、戻るのは速かった。

「く、くく、人間はせっかちゲコ。人の話しも聞く余裕がないゲロか?」

 また地面から顔を。

『炎よ、敵を……』

「待て! まぁて! とりあえず地面から出させろ!」

 何だコイツ。地面の下にいるより攻撃はしやすいだろうから、出てくるのを待ってやるか。

「全く、人間って奴は……」

 出てきたのは、人間サイズのデカい蛙型の魔物。

「ふん、よく来たな人間。我こそはこの地の支配者、偉大なる蛙の王!」

 両手を広げ、間を溜める蛙。

「絶対無敵の……」

『炎の弾』

「あぅち!」

 何と! 無心でツッコミを入れたら、無詠唱で魔法が使えた。本来の威力には程遠いが、それも今後の課題だな。

『炎の弾』『炎の弾』『炎の弾』『炎の弾』

「ひぃ!」「あぎぃ!」「ぴぎゃ!」「や、め……」

『炎の……』

「やめぃ! ちょっとまてぃ!」

 おや? 蛙が半泣きで後退り始めた。逃がさん。

「は、話し合うゲロォ! 人間は対話を大事にしなきゃ駄目ゲロォ!」

「でもお前、蛙だし。水源を潰した悪い奴だし」

 指先に火を灯し、蛙に詰め寄る。

「訳があったんだゲコ! 後で直すから許してケロ!」

「わけぇ?」

 ふむ。とりあえず話しを聞くか。


「はぁはぁ、ふぅ……我こそは偉大なる」

 また調子に乗りそうだったので、火を灯した指先を蛙に向けた。

霊王(スピリッツキング)(フロッグ)ですケロ」

 霊王蛙と来たか。あまり強そうには見えないが。

「水源を氷で塞いだのは、人間を呼び込む為だったゲロ。人間に頼みたい事があるんだゲロ」

「頼みたい事?」

「我の頭を見てみろゲコ」

 頭? 普通に平たい蛙の頭だな。

「無いんだケロ……」

 無い?

「冠が無いんだケロオオォ~!!」

「かんむりぃ?」


 水源の場所から移動し、蛙の住み処の大きな木の虚にやって来た。

「むかぁ~しむかし、我がまだ平の蛙だった頃から人間とは付き合いがあったんだケロ。我はこの地を守り、人間はその恩恵を受ける。対価として人間から贈られたのが冠だったケロ」

 蛙が木の虚から壊れた木の冠を持ってきた。

「でも、長い年月で人間との付き合いも途絶え、新たな冠が贈られる事も無くなったケロ。これが最後の一個だったんだゲロォ……」

 脆くなって割れた木彫りの冠を前に、蛙は力無く溜め息をついた。

 見たところ、蛙が霊王蛙である事は間違いない。冠は必ずしも存在を維持するのに必要な物では無いんだろうが、蛙にとっては大事な物なのか。

「頼みたい事というのは、新しい冠が欲しいという事か? それともその冠を修復する事か?」

「え、直せるゲコ? 出来るなら直して欲しいゲロ!」

 手渡された冠は、経年劣化で大きく二つに割れている。ちょっと力を入れただけで粉々になりそうだ。


 種族『人間 伊織 奏』 職業『召喚術士』


 多分、職人系の職業スキルなら修復出来る筈。しかし、俺の変身可能な職業に職人系はないので今回は他力本願といこう。

『主が命じる、冠を修復せよ 召喚・職人妖精(クラフトフェアリー)

 地面に出現した魔法陣から色違いのつなぎ服を着た小人たちが現れた。

「この冠の修復を頼むよ」

 任せておけとばかりに胸を叩く仕草は、なかなか頼もしい。

 どこからか取り出した木槌やローラーを使って冠の傷を消していく。割れていた部分も接着し、瞬く間にかつての姿を取り戻していった。

「お、おお! 凄いゲコ! 元通りゲコォ!」

 興奮した蛙が修復された冠を頭に乗せて、踊り出す。

 仕事を終えた妖精たちも満足そうに頷くと手を振って消えていった。

「要求通り、冠を直したんだ。水源を元に戻してもらおうか」

「わかったゲコ」

 蛙が手をかざすと、炎でも溶けなかった氷柱が一瞬でただの水となり、塞がれていた水源からは澄んだ水が少しずつ下流へと流れていった。

「お前に礼をしなくてはいけないゲコな」

 まあ、確かに。元々の依頼は水源の調査だったから、冠の修復分の報酬を貰わないとな。

 とはいえ、野生の蛙に報酬になるような物を支払えるのか?

「え~と……」

 蛙が地面に落ちていた小石を拾って。

「はい、あげるゲロ」

「……キログラム銅貨一枚で肉屋に卸されてぇか」

「じ、冗談だゲロ」

 蛙のつまらない冗談にも、ニッコリ笑って対応する俺の心の広さに、蛙は感謝すべきだな。

「ふんぬぬぬぅ!」

 蛙が力を込めて唸ると、手に乗せていた小石が青い輝きを放つ宝石に変わった。

「ふぅ、精霊石だゲコ。人間たちの世界では滅多に手に入らないから、きっと高く売れるゲコ」

 ほうほう、全く期待していなかったのに予想以上に凄い物が出てきた。

「これは凄いな。お前、もしかしてタダの蛙ではないんじゃないか?」

「そう! 我こそは偉大なる蛙の王! 絶対無敵の」

『炎の弾』

「なじぇ!」


「ところで蛙。ちょっと聞きたい事があるんだが」

「うぅ、とんでもねぇ奴だゲコォ……何だゲコ」

 アイテムボックスに入れっぱなしになっていた大鬼騎士の石を取り出して蛙に見せる。確認しようと思っていたのに、忘れてたんだよね。

「これが魔石ってやつなのか」

「そうだゲコ。これはなかなかの純度だゲロ。きっと大物の魔物に違いないケロ」

 やっぱりそうか。次に迷宮の壁から取った魔石を見せると。

「ぎぃええぇぇぇ! お、お、お前、なんちゅうもん持ってるゲロォォ!」

 蛙が腰を抜かして叫んだ。

 タダの魔石とは違うのか?

「それはダンジョンコアだゲロ! 危ないゲロ! 近づけんじゃねぇゲロォ!」

「ダンジョンコア……」

 なるほど。迷宮の一番奥に埋まっていたこの石は迷宮の核だったのか。しかし、タダの石にずいぶんと慌てているな。何が危ないんだ?

「お、お前、何ともないゲロ?」

「ああ、別に」

「おかしいゲロ。これは確かにコアゲロ、普通は魔物だろうと人間だろうと迷宮核に支配されて、迷宮に閉じ込められる筈ケロ」

「支配? なるほど、俺は支配無効スキルがあるから大丈夫なのか」

 迷宮主の支配から抜け出したと思っていたら、迷宮そのものの支配から抜け出していたのか。

 どちらにせよ、もう自由の身だからどうでもいいか。

「このダンジョンコアも売れるのかな?」

「とてもそうは思えねぇケロ。他の奴がその石を持ったら、あっという間に迷宮が生まれてしまうゲロ、人間の街中に迷宮が生まれたら、きっとヤバいケロ。悪い事は言わない、さっさと砕いてしまうゲロ」

 迷宮か。街の外ならいざ知らず、街中に出来たらヤバいよな。おまけに無関係の人間が迷宮に閉じ込められて迷宮主とかにされてしまったりしたら、流石に目覚めが悪い。

「ちと勿体ないが、砕くか」


 種族『人間 伊織 奏』 職業『僧侶』


『我に更なる力を与えよ 身体強化』

 魔法で腕力を強化し、両手でダンジョンコアを挟むと力任せに潰しにかかる。

「んん、結構硬いな。ふんぬぅ!」

 ダンジョンコアに僅かな亀裂が入ると、あっという間に粉々に砕け散った。俺の気のせいかもしれないが、砕ける瞬間悲鳴のようなものを……いや、やっぱり気のせいだな。


『進化エネルギーが限界に達しました。進化しますか?』


 おっとまた進化のお誘いが来たぞ。答えは、NOだ。


『進化エネルギーは還元されました』


「急に黙りこんでどうしたゲロ?」

 進化エネルギーの還元、か。いまいち分からないんだよな。意外と物知りな蛙に聞いてみるか。

「なぁ蛙。魔物が進化するタイミングで進化を選ばなかった場合に発生する進化エネルギーの還元って、何だか知ってるか?」

「ゲコ? 普通、進化を選ばない魔物なんていないケロ。でももし進化を選ばない魔物がいたら、ソイツの可能性が広がるケロな」

「ほう、可能性が広がる。どういう意味だ?」

「実際にどうなるかは分からないゲコ、多分ソイツの肉体の強さの上限が上がったり、スキルの性能が上がったり、または新たなスキルを身に付けたり? するんじゃないかと思うゲロ」

 なるほど。進化して強い種族になるか、もしくは元の種族をカスタマイズしていくかって事か。

 そういえば俺が前世の姿になったのは、一度目の還元をしてからだったな。あの時、俺の変身スキルの性能が上がったから出来たのかもしれないな。

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