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千変万化!  作者: 守山じゅういち
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107 三番勝負・弓

 俺とハルとペレッタ、そして何故かアートがボルノスカーノに連れられて訓練場のような場所に案内されている。

「俺自身、竜を倒した冒険者の実力に興味があるので、ね。エルフの戦士と人間の戦士、どれほどの力の差があるのか、ないのか。気になるねぇ」

 アートは歩いている間、ずっとそんな事を言っている。聞いている俺達もうんざりするが、先頭を歩くボルノスカーノの首筋が力んでいて怒りを抑えているのがわかる。後ろからでは見えないが、きっと顔面は鬼のように歪みまくっているだろうな。

「やはりエルフ族というのは魔法技術に特化した者達という認識だからねぇ、エルダーフルの国防を担う者と言えば宮廷魔法団が有名ですよね。他国にまでその名を轟かすエルダーフルの宮廷魔法団、まさに『エルフの守護者』と呼ばれるに相応しい……」

 先頭を歩くボルノスカーノは無言のままアートの煽りを聞いているが明らかに怒気が膨らんでいる。

「あ、あのアート殿下。もうその辺で……」

「え? 何だいペレッタちゃん……あぁ、心配いらないよ。これから君達が戦うのは騎士団の騎士だ、宮廷魔法団の魔法使いじゃないから安心していいよ」

 暗に騎士団は宮廷魔法団より下、と言っている。誰のとは言わないが噛みしめた歯が軋みを上げている。

 ふいにボルノスカーノの足が止まり、目の前に鋼鉄製の扉がある。重厚な扉がゆっくりと開くと数十人の騎士が訓練をしていたが此方の存在に気付くと駆け足でボルノスカーノの前に整列した。

「……例の冒険者とアーク王国のアート殿下をお連れした。代表者以外は場所を開けろ」

 大勢の騎士達が左右に分かれ、その場には三人の騎士が残った。男二人、女一人。細身の男と大柄な男、細身だが筋肉質な女。

「それぞれ得意な戦闘スタイルで技量を競ってもらう。まずはベルセナート」

 細身の男がその場に残り、大柄な男と女が脇に避けた。

ベルセナートと呼ばれた男は手に弓を持っている。と、言う事は対戦相手はペレッタか。

「的当てを三回行い、的に命中した数を競ってもらう」

「ふむ……ただ競うのもつまらない。一つ賭けをしませんか、ボルノスカーノ殿」

 また勝手な事を言い出したアートの口を塞ごうとするより先に、ボルノスカーノが笑顔で答えた。

「良いですな。アーク王国の方々は余程、実力に自信があるご様子。ここは胸を借りるつもりで挑ませていただきましょう。して、賭けの内容は?」

「三人の代表者のうち先に二勝した方が勝ち。勝利国は敗戦国に一つ言う事を聞かせられる、という事でいかがかな?」

「承知した。ちなみに我々が勝利した暁にはアート殿下には我が騎士団全員との模擬戦をして貰いましょうかな、はっはっはっ!」

 寄って集ってボコボコにされるアートの姿、見てみてぇ~。

「それは遠慮したいね。それならウチが勝ったら我が国にエルフの騎士を一人派遣してくれませんか?」

「騎士を一人? どういう意図がお有りで」

「なに、これも国家間交流の一環ですよ。エルフの方が我が国に長く滞在し、お互いの文化を教え合う事でより更なる交流となるでしょう」

「ふん……特に学ぶような事があるとは思えませんが。良いでしょう、其方が勝利すれば我が騎士団より一人、アーク王国へ派遣しましょう」

 ボルノスカーノとアートが悪い顔でにらみ合う中、ペレッタと相手の弓使いベルセナートが対峙している。

「えっと……『聖なる盾』の弓使い、ペレッタです」

 握手を求めてペレッタが右手を差し出すが、ベルセナートはペレッタの持つ波動弓ばかり見ている。

「え~と……」

「たかが人間の分際で国王樹の弓を使うとは……物の価値を知らぬ愚か者め」

 ペレッタの握手を無視してベルセナートが開始位置についた。

「エルフってのは随分と礼儀知らずなんだな……気にすんな、ペレッタ!」

「集中して、ペレッタ! 気持ちを落ち着かせて!」

 ペレッタも開始位置つく。的まで約六十メートルほどだ、万が一にも外す事は無いだろう。

「突風!」

「突風!」

「突風!」

 三人のエルフ騎士が風魔法を発動させ、射手と的の間に乱気流が発生した。

「これは……」

「言い忘れていたが、単なる的当てなど訓練にもならんからな。それなりの障害は用意してある。まずはこの乱気流を越えて、的に当ててみせろ」

 ボルノスカーノが得意気に説明してくる。

 何かやってくるだろうとは思っていたが、これは難しい。

 ベルセナートが弓を引き、上向きに矢を射った。狙いを大きく外した矢は乱気流に翻弄され、複雑な軌道を描いて最後に的の左端に突き刺さった。

「おお! 流石はベルセナートだ!」

「あの複雑な軌道を制御してみせるとは!」

「人間の間抜けな顔を見ろ、実力の差に絶望しているぞ!」

 応援の騎士達が口々にベルセナートを称え、ここぞとばかりにペレッタを貶してくる。呪われろエルフ。

 次にペレッタが弓を構える。勝利を確信しているベルセナートは早々に背を向け、ペレッタに興味を無くしている。

 だが、そんなベルセナートの背後で衝撃音が鳴り、次の瞬間にはペレッタの放った矢が的の真ん中を射抜いていた。

「な、なにぃ!」

 その場にいるエルフ達全員が唖然としている。

「はっはっはぁ! 見たか、エルフどもぉ! 勝負前から無礼な態度を取りやがってぇ、ザマぁ!」

「イオリ、ちょっと言い過ぎです! でもよく頑張りましたよ、ペレッタ!」

 苦々しい顔でペレッタも睨み付けるベルセナートは何か言いたげにしているが、結局何も言わずに再び開始位置についた。

 新たな的が用意され、エルフ騎士が魔法を発動させる。

「石壁!」

 的の前に大きな石壁が出現し、的が隠れてしまった。

「次は石壁の向こうの的を狙え!」

 苛立ったボルノスカーノが簡潔に二つ目の説明をし、慢心していた心を締め直してベルセナートが矢を放つ。放たれた矢は緩やかに弧を描き、石壁を迂回して的に命中した。

 続いて、殺気塗れの視線の中でペレッタが弓を構え、重圧など意に介さず矢を放つ。

 ペレッタの矢は真っ直ぐに石壁を貫通し、的の真ん中を射抜く。

「イエエエェィッ! ペレッタ最強! ナンバーワン!」

「いえ~い、ペレッタさいきょー、なんばーわん」

「は、恥ずかしいから……そんな騒がないで」

 赤面して俯くペレッタ。ちょっと興奮し過ぎた。反省。

「ぐっうぅ……」

 完全に予想外の結果なのか、エルフの騎士達は悔しそうに呻いている。

「最後の的を出せ!」

 ボルノスカーノが怒声を飛ばすと新たに浮遊する的が出てきた。今度はプカプカと不規則に浮かぶ的か。

「濃霧!」

 更に魔法の霧によって視界が遮られ、的の場所までわからなくなった。

「この濃霧の中で浮遊する的を当たられるか! 調子に乗るのもここまでだぁ!」

 開始位置についたベルセナートが細かく弓を動かし、移動する的を狙っている。静かに動く的を捉えるのは難しいらしく、捕捉するのに時間が掛かっている。

 そしてベルセナートが矢を放ち、次にペレッタが弓を構えた。見えない的も魔眼スキルを持つペレッタには問題無い。

 金色の左目が的を捉える。

「……!」

 放たれた矢が濃霧の中に消える。一瞬、濃霧を造ったエルフ騎士が笑みを浮かべた。

「?」

 濃霧が晴れて的が露になった。

 ベルセナートの矢は的に命中していたが、ペレッタの矢は的を外していた。

「馬鹿な……」

 思わず声が溢れてしまった。今のペレッタならば三つ同時でも命中させられた筈。

 その時、濃霧の魔法を使ったエルフ騎士の笑みを思い出した。濃霧の魔法は、単に目隠しの効果だけでは無い。濃霧をコントロールして物を動かす事も可能だ。

 ペレッタの矢を妨害したな。

「あちゃ~、外しちゃいました。ベルセナートさん、どうもありがとうございました」

 エルフ側の不正に、静かにキレそうになっていた俺の耳に明るいペレッタの声が届いた。

 本人も何があったか魔眼で見えて気付いている筈。だが決してそれを指摘する事はなく、あっさりと敗北を認めた。

「イオリ、今は……」

 ハルは首を振り俺を止めた。ハルも気付いているようだが騒ぎにする気は無いようだ。戻ってきたペレッタを抱き締めて労っている。

 むしろベルセナートの方が落ち込んでいるように思える。ふむ、仲間の手助けで勝ちをお膳立てされて喜ぶほど恥知らずではなかったか。

「いやぁ残念、ペレッタちゃんも頑張ったけど流石はエルフの騎士様だ。勝ちに対する執念、お見逸れしました」

 アートの言葉にボルノスカーノの顔が強張る。

「どういう意味かな?」

「ただの素直な気持ちですよ。我々の一敗ですね」

「ふん……次、グランレジェッタ!」

「おうっ!」

 呼ばれた大柄な男が前に出てきた。太い首、太い腕、太い胸板、太い足、筋骨隆々なグランレチェッタは無手。エルフの中でも珍しい格闘タイプか。

「じゃ、行ってきます」

 賑やか微笑み、ハルがグランレチェッタの前に立つ。

「ハル姉、頑張って!」

「ハル、股間だ。股間を潰してしまえ」

 俺のヤジは無視されてしまったが、グランレチェッタはハルの前に指を一本立て。

「一分だ」

「はい?」

 頭三つ分高さが違うグランレチェッタがハルを見下しながら言う。

「最初の一分は反撃せずに受けてやる。死に物狂いで向かって来い、人間」

 自分の肉体に絶対の自信があるのか、グランレチェッタが豪快に笑いながら宣言した。

「よし、やっちゃえハル姉!」

「股間だ、ハル! 血脈断ちだ、やっちまえ」

 傲慢極まりないグランレチェッタの言葉にエキサイトする俺達とは裏腹に、最初は呆気に取られて吃驚していたハルの顔が徐々に愉悦の顔に変わる。

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