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千変万化!  作者: 守山じゅういち
102/142

102 勝利のV

 数日経ち、冒険者ギルドから竜の素材分配についてアオバ達『ブルーリーフ』と協議する為にギルドへ来るようにと呼び出しがあった。単に分配に関しての話し合いならわざわざ冒険者ギルドに出向く必要はないのだが、『ブルーリーフ』は俺達と違って素材の売却は冒険者ギルド一択だろうし、素材を保管しているのも冒険者ギルドなので一度で色々と片付けるのには冒険者ギルドの人間も交えた方がスムーズに進むだろうと言う事で、ハルとペレッタ、ついでにルウを連れてギルドの会議室へとやって来た。

 部屋に入るとすでにアオバ達とギルドマスターが座っていて軽く挨拶をしてから俺達もソファーに座った。

 ギルド職員さんが各自に飲み物を配り終えるとギルドマスターが話し始めた。

「ごほんっ! 全員が揃った所で協議を始めようと思うが、まずは俺から一言。今回、諸々の事情で竜の魔石は国に献上しなくてはならなくなった事を詫びる。俺の力不足だった、すまない」

 そう言うとギルドマスターが深々と頭を下げた。別にギルドマスターの所為などとは思っていないのだが、冒険者ギルドの長として所属する冒険者の利益を守れなかった事には本人には忸怩たる思いがあるようだ。

「冒険者ギルドとしては他の素材の買い取り金額の増額は難しいが、素材を利用したアイテム製作や他の売却先を探す手助けには応じるつもりだ」

「そっか。だったら別に俺らも文句ねぇよ。元からギルドマスターの責任なんて思っちゃいないし、エルフ側からもお詫びの品を貰えるしさ。それ程、損をしたとは感じてねぇよ」

「はい、アオバの言う通りです。それに手に入れた素材で装備品を造ろうと思ってましたし、職人を紹介して貰えるならむしろラッキーですよ」

 アオバ達の方も不満は無いようだ。ギルドマスターも納得したように頷き、ハルの方へ顔を向けると。

「ハル達もそれで良いか?」

「勿論です。色々とお気遣い頂き、ありがとうごさいます」

 それぞれ納得した所で、本題に入る。



「角は貰うぞ。俺らんとこ、魔法職二人いるんだからな」

「待って待って、竜の角を使って杖を造るつもりみたいだけど、だったら大きさ的に角一本でも十分に足りるよね?」

「バッカヤロゥ、角の芯の部分を使うから二本欲しいっつってんの」

 テーブルを挟んでアオバとルウが鬩ぎ合う。

 ルウは『聖なる盾』の裏方だからな、強気で交渉して素材をブン取っている。

「大体、竜の眼は二つとも譲ったんだから角は此方にくれっつーの!」

「そこは眼を貰う代わりに鱗の六割をそっちに渡す提案で方を付けたでしょ! 爪の六割渡すから角は一本寄越しなさい!」

「ダメダメ! 牙と爪は半分ずつで決着したし、角と爪じゃ価値が違うだろ。だから角は譲れねぇよ」

 段々、白熱してきたな。アオバが言うように牙、爪は五割ずつ、鱗は此方が四割、向こうが六割、竜の眼は二つとも此方、竜の骨は五割ずつで分けて頭蓋骨は向こうが取った。

 残る角の部分はどうなるやら。

「『ブルーリーフ』は竜の素材を使って何を造るつもりなんだ?」

 二人の押し合いが決着するにはもう少し時間が掛かりそうなので、ルリ達に使い道について話しを振ってみた。

「そうですね。角は杖にして……鱗は胸当てにしようかと」

「そうね。量が多いから全身鎧でも大丈夫そうだけどアオバは速度重視の戦闘スタイルだから動きが阻害される全身鎧より胸当ての方が良いかしら。胸当てなら私達でも装備出来そうだし。後は盾にも使ってみようかと」

 シェリアがカップの紅茶を飲みながら言う。竜の鱗や骨を使えば、金属製の盾よりも軽量かつ防御力に優れた装備になる事だろう。それに鱗には魔法を弾く効果もある。

 それだけ高性能な盾なら前衛職のアオバ以外の二人にも持たせるに越した事はない。

「其方はどうするんです? 特に竜の眼は使い道が色々ありますからね」

 うむ、確かに。錬金術でアイテム化しても良い、或いは呪術で魔眼スキルを得るのも良い、結晶化させて宝石として好事家に高値で売るも良しだ。

「俺はあまり必要じゃないからハルかペレッタに譲るよ」

「ん~私も魔眼スキルは要らないですね。でもペレッタには魔眼スキルは有用では?」

 お茶菓子を頬張っていたペレッタが少し考えて。

「私、魔力量があんまり多く無いから二つあっても扱い切れないと思うんだよね。でもせっかくだし片目だけ魔眼スキルを付与しようかな」

 弓使いのペレッタなら魔眼スキルと相性が良い。本人の言うように魔力量を考えると片目だけでも付与した方が何かと都合が良いか。

「じゃあ、残りの一個は冒険者ギルドへ売るか」

「おぉ! そうか、ありがたい! これで面目が立つ」

 静かに話し合いを見守っていたギルドマスターが安堵している。どうやら知り合いから竜の素材を融通して欲しいと頼まれていたようだ。

 竜の魔石が取り上げられた以上、残る希少素材は売却よりも装備品にして活用すると思われていたようだ。

 実際、余りの素材も全ては売らずに多少は自分達で保管しておいた方が良いだろう。装備品の予備や修理の為に後々必要になるかもしれない。商業ギルドに売却する事を考えると冒険者ギルドに渡せる分はやはり多くないだろうな。

「勝ったあぁ!!」

 絶叫とともに指二本を高々と掲げているルウと力無くテーブルに突っ伏して広げた手の平を震わせているアオバ。

 どうやらジャンケンで決着したようだ。

「終わったか、ルウ」

「うん! 二本の角はアオバ兄が買い取るって事で決着だよ! 金貨五十枚で毎度ありぃ」

「そうか、じゃあ帰ろ……」

 用事が済んで帰ろうと立ち上がりかけると部屋の扉が開き、一人の男が朗らかに笑いながら入ってきた。

「やぁやぁやぁ、ちょっと失礼するよ! 君達が竜退治の冒険者かい? あっはっはっは、思ったより若いじゃないか! どうぞ、よろしく~!」

 突然部屋に入るなり馴れ馴れしく肩に手を置いたり、握手をしたりと忙しく歩き回った男が一同の視線を受けてニッコリ笑い。

「んん~、どうもねぇ! 俺はこの国の第三王子にしてAランク冒険者、アート・デルタ・ウィルテッカーだよ。よろしくね!」

 一方的に喋っていた男アートが此方の反応を窺うように視線を送ってくる。

「……第三、あ~そういや王族の中にAランク冒険者がいるって聞いた事があったな」

 呆気に取られていた一同の中でギルドマスターが記憶の底から男の事を思い出して話した。

「何だよ、Aランクの情報を忘れてたのかよ」

「あ~、いやそのぉ~……」

 気まずそうなギルドマスターがこっそりと耳打ちしてくれた。

(実はアート王子の冒険者ランクは反則ギリギリの裏技で取得した半分お飾りみたいなもんで、ほとんど実戦経験が無いんだよ。ギルド本部も王国との繋がりを重視して特別に許可したみたいでな)

 ほ~、つまりランク詐欺みたいなもんか。

 とはいえそんな事を王族相手に正面から指摘するわけにはいかないから扱いづらいわけだ。

「で? 何で王族がこの街に来てんだよ。街に来てるのはエルフと協議する為の高官だと聞いてたが……ただの観光か?」

 王族相手でも特に気にする事無く話してみる。このアートって奴からは同じ王族のピナリー殿下が持っていた威厳のようなものは感じないしな。

「へぇ~俺が王子と名乗ってもそのぞんざいな口調……はっはぁ~ん、さては君がイオリって冒険者か! 妹から話しは聞いてるよ。そこそこの冒険者だってね」

「あの、アート殿下。本日はどのようなご用件で? 街に滞在しているとは聞いていませんでしたが」

 横からギルドマスターが強引に口を挟んできた。

「あぁ、そうだった。実は今度、エルフの国に使節団を送る事になってね。ほら、竜関連のゴタゴタでエルフの国エルダーフルと国交を結ぶ事になっただろ。その友好の証しに竜の魔石を届ける使節団を派遣する事になり、僕がその代表者に選ばれたのさ」

「は? お前が代表者? ウソだろ」

 思わず口が滑ってしまった。どうにもコイツの纏う気配が軽薄過ぎる所為なのか、全身から胡散臭さが漂っているんだよな。

「な、な……しぃー! おじさん、しぃー!」

「イオリさん。相手は王族! 言葉、選んで」

「おっさん、不敬罪で首が飛ぶぞ」

「アオバに言われたらおしまいですよ」

「うぅ……心臓に悪い」

 王族という肩書きに遠慮しているのか皆から総ツッコミを食らった。

「はっはっはっは! 本当に面白いなぁ、君は……うん、やっぱり君にしよう。イオリ、君に使節団の同行を命じる!」

「お断……」

 即答しようとして途中で口を塞がれた。どうやら拒否出来る話しでは無いようだ。

 しかし、どうした事だ? 妙にイライラする。俺はこういう奴が嫌いだったっけ?

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