表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千変万化!  作者: 守山じゅういち
100/142

100 貰えるものは貰っとけ

 深い眠りから目が覚めるとどこかの部屋で横になっていた。どこだ? 鼻につく薬品の匂いと固いベッド、手足に巻かれた包帯。

「ここは……治療院か」

「あっ目が覚めました?」

 横のベッドに果物を頬張るハルがいた。ハルの両腕にも包帯が巻かれているが、もりもり果物を食っているからあまり重症というわけでもないのかな。

「ここはアケルの治療院ですよ。竜との戦いから三日ほど経っています」

「三日? そうか、俺は三日も……ルリやアオバはどうした? 同じ治療院にいるのか」

「いえ、あの子達は……」

 ハルが答えるより先に廊下をバタバタと走る音が近づき。

「ハルさ~ん、追加のお見舞い買って……おぉ! おっさん、目が覚めたのかよ! ルリ、シェリア! おっさん起きたぞぉ!」

 買い物籠を手にしたアオバが大きな声で後ろに続く二人を手招きしている。

「見ればわかる! デカい声だすな!」

「二人とも治療院では静かに」

 大声を上げるアオバを注意しながらルリとシェリアも部屋に入ってきた。深手を負っていたルリもいつものように元気にアオバと口喧嘩している。

「ルリ、無事だったんだな。かなり酷かったのにもう歩けるのか」

「お陰さまで。治療院の癒し手の腕が良かったのと、ハルさんとイオリさんの応急手当てのお陰です。ありがとうございました」

「そうだな、俺からも礼を言うぜ。ルリを助けてくれて、ありがとな」

「私からも。二人が助かったのは貴方達のお陰だ。ありがとう」

 三人が揃って頭を下げた。

 改まって礼を言われるとくすぐったいな。

「ま、まぁ被害を最小限に抑えられたのは良かったな……そうだ、竜の素材はどうした? アンデッドだったから利用出来る部位は少ないかもだけど、それなりに高値がつきそうだよな。特に魔石とか」

 おそらくあの場所に放置してある腐死竜の素材が気になって聞いてみた。

「あ……それ」

「えっと……」

「……むぅ」

 聞いた途端、三人の表情が渋いものになった。どうした?

「今、街の領主様の所にエルフの国エルダーフルから使者が来てるんですよ。そこで今回の竜の出現について話し合いが行われているみたいです」

 手に持ったリンゴを半分に割って片方をくれたハルが答えた。

「エルフ? そんな国があるのか……って、三日で使者が来たのか? エルダーフルなんて国名、聞いた事無いんだが。ずいぶんと遠方じゃないのか?」

「エルフは魔法が得意ですからね。空間転移で移動してきたんですよ」

「へぇ……エルフにはそんな魔法があるのか。つまりエルフは竜を追ってこの街に来ていると」

 腐死竜も空間転移で現れた。送り込んだのはエルフだろうな。だとするとこれは侵略行為か?

 エルフが長距離を無視して瞬時に移動出来るなら、無防備な王都に軍隊を送り込んで一気に制圧なんて事も朝飯前。わざわざ魔物を送り込んで暴れさせ、深刻なダメージを与えてから使者を送るなんて面倒な事をしなくてもこの国程度なら簡単に征服出来そうな気がする。そうなっていないと言うことは、今回の騒動はエルフでもコントロール出来ない事象だったのか。

「今回の竜の出現にはそのエルダーフルが深く関係しているようなんですがまだ詳しい内容は不明で、エルダーフルの使者と交渉するのは領主様では荷が重いので王国から大臣クラスの高官を招く事になるそうです。それまで竜の素材を全て確保するようにと指示が出て、竜の死骸の周りは見張りの兵士が立っていて冒険者ギルドも商業ギルドも回収に行けてないんです」

 真相の程は定かでは無いが国家間の話し合いとなるなら街の領主程度では力不足だな。竜の素材は証拠品として持っていかれるかも?

「今、冒険者ギルドと商業ギルドのギルドマスターが領主様に抗議しているようですが……このまま没収されそうですね」

「俺らはともかく、おっさん達は討伐の立役者なのに、残念だよな。適当な勲章でも与えて、それでおしまいって感じになりそうだってよ」

「正直、エルダーフルが相手では……」

 エルフの国エルダーフルは大陸屈指の魔法大国。魔法道具、希少素材、高品質な品々はどの国でも需要は高く、その流通経路を使って交渉すればこの国の周辺国を動かす事など造作もないだろう。エルダーフルが本気で動けばうちのような弱小国は成す術無しで腐死竜の素材を持っていかれる可能性、大だ。

「やれやれ……ん? 誰か来たか」

 通路を歩く足音が聞こえたと思ったら部屋の入り口からペレッタが顔を出した。

「ハル姉、ちょっといいか……あっ! イオリさんも起きたんだ。ちょうどいいや」

 ペレッタと一緒にもう一人、尖った耳の女性が入ってきた。

「こちらエルフのミアネスティーナさん。街に来てるエルダーフルの使節団の一人で、イオリさんとハル姉の見舞いに来たいって言うから案内してきた」

「どうも初めまして、エルフ族のミアネスティーナです。この度は我が国の災難に巻き込んでしまい申し訳ありませんでした」

「災難って言うとあの竜の事だよな」

「はい。あれは我が国のダンジョンから這い出てきた異常種で、本来ならば国内で始末すべきだったのですが我が国の兵士は魔法を主体に戦うので魔法を阻む鱗を持つ腐死竜と相性が悪く、やむを得ず大砂漠へ転移させようとしたのです」

「なるほど。広い大砂漠なら無人な上に日光を遮る物も無い、いずれ消滅させられると思ったわけだ」

「はい……」

 だが事態はそう上手くはいかず、腐死竜はうちの国に落ちてきた。

「空間転移は術者の技術力、魔力量で成功率が変わる。対象の腐死竜が抵抗すればさらに変わるし、それに魔法を邪魔する鱗があった。正直な所、アンタらも上手くいくとは思ってなかったのでは?」

 図星だったのかミアネスティーナの表情は暗く、項垂れている。

「……仰る通りです。なので転移させた後、直ぐ様転移先を解析し、我が国の軍隊をアケルの街に転移させる許可を得る為に、数名の使者をアーク王国の王都に飛ばしました。その後、被害確認の為にアケルに転移したのですが街は無事で腐死竜が討伐されたと聞き、驚きました」

「それが竜が討伐された翌日の話ね。こっちで冒険者ギルドと商業ギルドが竜の素材回収で大忙しって時に領主様が横槍を入れてきてさぁ、エルフの使者と話し合いが終わるまで竜の素材に手を付けるなって通知が来たんだよ」

 ペレッタとミアネスティーナが搔い摘まんで説明してくれた。

 本来、領地内の事とはいえ街の外で魔物を討伐し手に入れた素材に関しては所有権があるのは当の冒険者であり、次いで優先権があるのは売却先の冒険者ギルドか商業ギルド。そこへ部外者の領主が口を挟むのはかなり無理があるし、希少な素材が奪われる可能性が出てくるとなると両ギルドも黙っちゃいないか。

「え~と……ミアネ、ミア……」

「私の事はミーネでもミアでも、お好きに呼んで下さい」

「悪いね。じゃあミーネさん、エルダーフルは腐死竜の素材をどうするつもりなんだい。多分、皆が気にしているのはそこだと思うんだが」

「あぁ、なるほど。安心して下さい、私達が王国側と議論しているのは竜の素材ではなく金銭的な賠償についてです。不可抗力とはいえ一歩間違えれば国を滅ぼし兼ねない魔物を送り込んでしまいましたからね……我が国の国王の謝罪文と賠償金、それから我が国との経済的な繋がりなどを話し合っています」

 なんだそうなのか。領主からは何の音沙汰も無いらしいから悪い方へ考え過ぎてたな。竜の素材に関して指示が無いのは余裕が無いからか?

「ところで皆さん。何か我が国へ叶えて欲しい望みか欲しい物はありませんか? 被害を受けた方々に対してせめてもの償いをさせて欲しいのです」

 竜の素材が奪われる心配が無くなり、ホッとしているとミーネが提案してきた。

 エルダーフルとしても他国に相当な被害を与えてしまったと覚悟していたんだろう。だが予想外に被害が抑えられた。大国の尻拭いをさせてしまった以上、当事者である俺達に対してそれなりの報酬を支払わなくては沽券に関わるって事かな。

 とは言っても、望みか。パッと思いつく物は無いが。

「ルリ、お前装備を大分失っただろ。補填してもらえば?」

 アオバがそう言うと、ルリが少し考え。

「う~ん、そうだなぁ。でも護符とか法衣とか簡単に手に入る物じゃないだけど……」

「お任せ下さい、我が国の威信にかけて揃えてみせます。それにエルダーフルは永い歴史がありますから、千年前に造られた魔法具などもご用意出来ますよ?」

「さ、流石に国宝級の品はいらないかな。管理するのが怖い」

 千年前の魔法具なんてどの国に持って行っても厳重に保管して然るべき物で、普段使いなんて出来る気がしない。ルリも激しく首を振って拒否している。

「じゃあ俺は何か凄そうなポーションが欲しい。シェリアは?」

「私は……エルフの国の魔法書かな。滅多に流通しない貴重品だから」

 アオバが適当な事を言う。エルフが思う凄いポーションって、下手したら世界で数本しかない品を持ってくるんじゃないか? シェリアの希望する魔法書は俺も興味ある。

「ペレッタは何が良い?」

「そうだなぁ……じゃあ、弓で。エルフの国の弓って凄く性能が良いって評判だもんね」

 エルフの弓か。確かに性能は凄いが、その分値段も凄いらしい。こういう機会でも無ければ庶民が手に出来る品では無い。

「護符に法衣、ポーションと魔法書……それと弓ですね。お二人は何が良いですか?」

「それじゃあ……エルフの国で使ってるトレーニング道具なんてどうでしょう」

 考え込んでいたハルがそんな事を言い出した。ミーネもよくわからず首を傾げている。

「トレーニング道具? あまり特別な物を使ってるわけでは無いんですが……わかりました。騎士団で採用している物を送ります。おそらくエルダーフル以外では使っていないと思うので気に入っていただけると思います」

 エルフの騎士が使うトレーニング道具か。なんとも面白い物をリクエストしたな。

「では最後に、イオリさん」

「そうだな……種。エルダーフルで作られている野菜や果物の種が欲しい」

「種……ですか。しかし、気候や土の状態によっては育たない可能性もありますが」

「構わないよ。興味本位でやってみたいだけだから」

 上手くいったら御の字。駄目で元々だ。

「わかりました。ではご用意します」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ